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第三章 女王ゆえの傲慢

第11話 彼の本性(5)

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 女王ヴィレイシェとの戦いで高揚した感情は、より凄惨な光景を求める。元々が『魔性』だ、人に恐れられるのは普通で、人を弄び殺すことに罪悪感はなかった。

 王宮へ向かって近づく。足元の人間が多少巻き上げられ、心地よい悲鳴とともに地に叩きつけられる様を愉しみながら、青い屋根を目指した。

 地上の人々は何が起きたのか分からぬまま、突然の竜巻という天災による死を与えられる。理不尽に家を壊され、財産を失い、命さえ危険に晒された。いや、気まぐれに奪われるのだ。

 白い壁と赤茶の屋根が自慢の都ジリアンの美しさは、見るも無残な姿に変わった。観光客がその美しさを褒め称えた都は、積み重なる瓦礫だ。

「あ……助け……」

 悲鳴を上げる女性、足を潰されて逃げられない男、すでに死した家族を必死に掘り起こす老人。まだあどけない少女が、はぐれた母を求めて泣く。まさに地獄だった。

 必死で逃げ惑う人間を無視し、ジルは再び手を振り上げる。

 軋んだ音を立てて街がひしゃげた。王宮まであと少し……。

「くくくっ……ったく、面倒くせぇ」

 言葉と裏腹に、ジルは笑みを浮かべ愉しそうだった。面倒だと思う意識も、久しぶりに大きく使う力も、遠慮なく壊せる対象がある事実も……すべてが愉しい。

「ルリアージェ」

 2回の破壊で、最初の転移地点から王宮まで真っ直ぐに通り道が出来ていた。竜巻はじりじりと進む。本来ならば竜巻が通った後ろが破壊されるというのに、先に破壊した場所を竜巻が通り過ぎるという奇妙な現象が起きていた。

 だがこれほどの大惨事に、それに気付ける人間はいない。

 最愛の人の名を呼び、ジルが最後の仕上げとばかり右腕を持ち上げた。封印された力をすべて解放していれば、指差す手間すらなく揮える力だ。こうして手を使って破壊しなければならないのは、戻らない力を補う為だった。

 あと、すこし。


 肩で切り揃えた銀髪は触れれば柔らかい。美しく穢れない海の蒼を宿した瞳――象牙色の健康的な素肌も、整った顔も、すべてが愛おしかった。

 勝気な性格、実は甘えべたで、でも猫舌を隠したりする可愛い女性。

 外見も性格も、彼女が彼女であるから愛しい。同じ性情や姿形を持っていても、彼女でなければ意味がなかった。魂が『ルリアージェ』であるからこそ、この心を捧げたのだ。

「リア」

 彼女がオレの魔力や霊力に気付かない筈がない。なのに、彼女は現れなかった。それこそが、ルリアージェが拘束され、捕縛された証拠だ。

 ――絶対に許さない。

 最後の一撃を見舞うべく、右手を振りかざした。
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