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第三章 女王ゆえの傲慢

第11話 彼の本性(1)

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 凶悪な本性が目を覚ますのを、ジルは愉しみながら待った。

 獲物が飛び込むまで、あと少し。

 僅かな時間を味わうように複数の魔法陣を描く。

 彼女が構築不可能な、美しくも残酷な……高位魔術を展開するための魔法陣だった。詠唱しなくても発動できる魔術を、わざわざ天井や壁に刻み込む。

「……ッ、ジフィール! どうやって!?」

「待ちかねたぞ?」

 くすくす笑うジルの左手から魔法陣が消える。

 肌に刻んだ文字や記号は一切残されていなかった。


 己を封じる魔法陣を手に刻み、対外へ放出できない魔力を傷口に流し発動させる。言葉にすれば簡単だが、とてつもなく難しい作業を果たしたジルは肩を竦めた。

 自分より魔力の多い格上を捕まえる手段として、彼女が編み出した魔法は悪くない。

 相手が並みの魔術師や魔物であったなら、おそらく成功していただろう。己を封じる魔法陣の無駄や隙を見つけ、掌に刻み付けて再構築するなど、通常は不可能なのだから。

 過去は魔女として名を馳せ、今は魔物を統べる『女王』として君臨する女が目を見開く。美しい髪を振り乱して「嘘…っ」と叫んだ。

 簡単に解かれる筈がない。

 だって、彼の魔力は檻に刻んだ魔法陣で封じた。

 どれだけ膨大な魔力量を誇ろうと、外に出せなければ無用の長物だ。魔法陣を生み出す為、必死で練り上げた魔力も記号もすべてが消える。

 封印の魔法陣は身体の外にあり、体内に閉じ込めた魔力が作用する筈はなかった。だから、囚われ人の魔力では絶対に解錠出来ないのだ。

 外部から手助けがない限り……。

 なのに、目の前でジルが展開する魔法円から彼の魔力を感じる。

 彼は確かに、不可能を可能にした。



 虜囚であった男は、書き直された魔法円の中に立っていた。

 左手に刻んだ魔法陣を利用して、己を囲い守護する魔法円を作り出す。それは彼女が憧れ、手を伸ばそうとした禁忌の箱――ジルに余計な手出しさえしなければ、あと数百年で届いたかも知れない高みだった。

「受け取れ、礼だ」

 ジルの指が彼女の右側を指差す。招きよせる仕草と同時に魔法陣が発動し、大量の炎が噴出した。

 実力を見せ付ける為だけの魔法陣は精密で、容易に無詠唱の発動を可能とする。息をつく間もなく、左側の魔法陣が氷で壁や天井を覆っていく。そして炎は氷を溶かさず、氷は炎を遮らなかった。

 彼女の転移を封じる魔法陣が地に輝く。
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