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第7章 吸血鬼の集う城

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「ライアンが、確かにそう言ったのか?」

「……そう聞こえましたわ。アイザック様も賛同されて、一緒に行かれるようでしたし」

 バタン、立ち上がったリスキアの後ろで椅子が倒れる。普段は考えられない不調法ぶちょうほうだが、リスキアは気づいていないようだった。そしてカヨコも咎めることはしない。ここまでリスキアが取り乱したこと自体、彼女の狙いの一部なのだから。

「リスキア様?」

 怪訝そうな声色を作ったカヨコに、切れ長の黒瞳が向けられる。深い色に滲んだ感情は暗く、カヨコは内心ほくそ笑んだ。

「邪魔をした……この話は内密に処理する」

「畏まりました。他言は致しません」

 身を起こしたカヨコが一礼するのも見ずに、リスキアは踵を返した。普段の彼では考えられないほど簡単に事が進んでいる。世界すら自分に味方しているのだと、赤い唇は満足げに弓を引いた。




 カヨコの話をまともに受けるなど、馬鹿げている。

 己を律する反面、ここ数日のライアンとアイザックの親密さを思い浮べた。2人の間で交わされる会話は、リスキアが顔を出すことで必ず中断される。

 俺に聞かせたくない話をしている――そう判断するのに十分な材料だった。何かを隠しているのだ、あの2人は……。それがカヨコの言う一族の復興でないとしても、信頼を裏切られたと感じるに足りる苛立ちをリスキアに与えた。

 廊下を歩くリスキアの鋭敏な感覚に、馴染んだ気配を感じる。

「よ、リスキア」

 手を上げて挨拶するライアンは、微かな血の臭いを纏いつかせていた。見れば、左手首の裾に血が付着している。アイザックのところに顔を出したのだと、聞かなくても理解できた。

「……ライアン、妙な噂を聞いた。お前が……」

「ああゴメン。シリルに呼ばれてるんで、後でな!」

 話の腰を折ったライアンは、ウィンクひとつ残して擦れ違う。その後姿を振り返って見送るリスキアの瞳に、物騒な色が宿って揺らめく。握り締めた拳は震えていた。 
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