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第7章 吸血鬼の集う城

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 ソファで微睡まどろむ意識に、僅かな違和感を覚えて起き上がる。まだ眠りたい気持ちを、首を振ることで捨てた。緑豊かな庭、咲き誇る艶やかな薔薇、心地よい風……すべて調和が取れた空間は、吸血鬼たる恋人が張り巡らせた結界の中でのみ、存在していた。

「……シリル?」

 僅かに掠れた声で呼べば、アイスティのグラスを差し出される。素直に受け取ったライアンの手に、グラスに結露した雫が流れた。

 初夏に近い気候だが、結界の外は冬だ。人間から見れば、万能に近い能力を誇る純血種の吸血鬼は、ライアンの隣に腰掛けた。

「リスキアだ」

 結界に干渉した存在の名を告げるシリルの黒髪に接吻けを落とし、ライアンは軽く首を傾げた。

「アイザックも一緒か?」

「いや」

 1人だ。そう答えるシリルの蒼い瞳にも、疑問が浮かんで消える。普段から恋人のアイザックと一緒にいることが多いリスキアだが、元々は単独行動が主流だった。ここ最近……といっても20年ほどだが、それより前は彼が1人で出歩くのは珍しくなかった。

 思い出したシリルは、隣の恋人の肩へ頭を預ける。

 さらりと滑らかな髪を梳いてくれる手が心地よくて、目に入った三つ編みを握り締めて目を伏せた。

「シリル、リスキアだぜ」

 赤い薔薇を手にした黒髪の麗人の姿に、ライアンが軽く手を振った。一礼して、一族の当主たるシリルに挨拶をすると、彼はテラス近くに設えられたソファに腰掛ける。その前に冷たいグラスを差し出し、シリルは軽く小首を傾げた。

「1人か?」

 珍しいな……そんなニュアンスに、リスキアの表情が曇った。

「……あの事件以来、体調が優れないらしい」

 その言いにくそうな口ぶりに、飲み干したグラスを置いたライアンが肩を竦める。口元を緩めて軽く息を吐き出すと、リスキアが遠慮して言わなかった言葉を口にした。

「オレの血が必要だろ」

 不死の民ヴェネゲルに残された、唯一の純血――ライアンの血は同族の力を強める。その生命力の濃さは、僅か一口で吸血鬼を30年は生き永らえさせる程だった。

「遠慮はいらないぜ。友人の為だからな」

 リスキアとアイザックを友人と表現したことに、一瞬だけリスキアの黒い瞳が見開かれる。しかし、すぐに細められて笑顔に溶けた。

「すまない。助かる」

 話が決まったところで、シリルがリスキアに小さな小箱を差し出した。掌に乗る程度の、装飾華美な箱は見事な彫刻が施された木製だ。オルゴールのように見えた。
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