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第5章 悪魔は女神を踊らせる

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※吸血行為があります。

***************************************

「オレの事、好き?」

 だから方法を変えてみた。

 こくんと頷いた素直なシリルに、ご褒美のキスを降らせて強く抱き締める。

 はだけたシャツの襟から覗く白い肌に、シリルの喉が鳴る。まだ体は血を求めているけれど、これ以上ライアンの体に負担を掛けたなくなかった。言葉にして求めたら、きっと彼は与えようとするから。

 そんなシリルの様子に、ライアンはとっくに気づいていた。いや、わざと首筋を晒しているのだ。恋人を救おうとしたシリルが失った血は多く、まだ体調が万全でないのは一目瞭然。

「オレも大好きだ。愛してるぜ。だから、遠慮されると悲しい……」

 声に感情を込めて告げる。

 一定量の血を流し切ると、吸血鬼は滅びる。魂は光に透けて消え、美しい姿は灰になって遺体すら残さなかった。そんな彼らにとって、出血は僅かな量でも『死』を意識させるアイテムで、失う恐怖は計り知れない。

 シリルがライアンの為に流した血は、1度ではない。もちろん、ライアンが命を賭けて助けたこともあるけれど……。

「俺はお前を傷つける。縛りたくなるんだ」

 他の奴と接して欲しくない。俺以外の誰にも微笑みかけず、話しかけずに居て欲しいと――その為ならライアンの命を奪ってしまうかも知れない。こんな愛情は間違っていて、ライアンを苦しめるだけなのだ。

「……」

 シリルの告白に目を見開いて、何度も瞬きを繰り返す。意味を噛み締めて、ゆっくりと消化していく間、目の前の恋人は悲しそうに紅い瞳を伏せていた。

「オレ、嬉しい」

 ぽつりと呟かれて、怪訝そうな表情を浮かべたシリルへ最高の笑顔を向けた。困惑気味の吸血鬼は小首を傾げている。

「最高だ! 愛してるぜ、シリル」

 なんだか状況が理解できないシリルに、ライアンは根気強く説明を始めた。孤独が長すぎて1人に慣れてしまった吸血鬼は、自分の独占欲が醜い感情だと考えているのだ。

 それは誤解だった。

「シリルはオレを誰にも見せたくないんだろう? それってオレが普段考えてるのと同じだ。お互いを縛りたい、他人に優しくして欲しくないってのは、当然なんだよ」

「……そうなのか?」

「もっと我が侭言って、オレを困らせるくらいでいいんだぜ」

 ようやくシリルの表情が和らぐ。

 間違っていると思っていた感情を肯定されて、しかもライアンも同じ気持ちだったと聞かされたことで、心の鉛が溶けていくようだった。

 手を伸ばしてライアンの首に手を回す。

 当然とばかり抱き寄せたライアンが首筋を晒し、そっと接吻けた。

 牙を使わない吸血行為は痛みがない。こくんと動くシリルの喉だけが、行為の内容を示す動きで……ほんのりと赤く染めた頬で、シリルがうっとりと目を閉じる。

 満足したのか、首から唇を離した恋人にキスを贈り、ライアンは艶やかな黒髪に指を絡めた。
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