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119.随分はっきりさせたね

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 神妙な顔でベリアルが報告に現れた。

「エリュ、隣で話してるね」

「うん。お勉強終わる前に帰ってきてね」

 今日はお菓子を使ったカトラリーの練習だ。礼儀作法として、外交の場でカトラリーが使えなくてはならない。皇帝として必要な教養を、エウリュアレはゆっくり吸収していた。今日はスポンジケーキを、ステーキに見立てたカットの練習だ。

 ひらりと手を振って隣室に移動したシェンは、それまで浮かべていた笑顔を消した。ベリアルの表情も強張る。

「ルチル殿が、ラスカートン伯爵家へ向かう意思表示を

「うん。予想通りだね。他の3人は?」

「残りたいと口にして

 ベリアルの言葉の端端に滲む、明確な線引きにシェンがくすっと笑う。思わずといった感じで漏れた声を隠すように、口元を手で覆った。

「随分『はっきり』させたね」

「ええ、は、ルチル殿との決別をはっきりと」

 手を上げたシェンが首を横に振る。

「そっちじゃなくて。ベリアルが、はっきりさせたなと思って。今、気づいてた? ルチルは「殿」で敬語なしなのに、残る3人はすでに皇族として敬ってる」

「……当然です」

 無意識に使い分け始めた言葉遣いは、ベリアルの中で徐々に感情を形にする手伝いを始めた。この宮殿に残り、我らの役に立つと決めた3人は結婚後「皇族」として認められる。だがルチルは違う。外へ出ていく者は、皇族たり得なかった。たとえ、血が繋がっていたとしても。

「リリンはなんだって?」

「息の根を止めるべきだと騒いでいます」

 省略された「裏切り者の」という響きを想像して、シェンは肩をすくめた。

「僕が手を打ったから、何もしなくていいよ。むしろ、その方が絶望が深いだろうからね」

 すでに仕掛けを終えたと過去形で匂わせたシェンは、ちらりと隣室の様子を窺う。そろそろ授業が終わる頃だ。シェンの仕草で察したベリアルが、ゆったりと腰を折って頭を下げた。

「では、お言葉に甘えて」

「ああ、忘れるところだった。ルチルの記録抹消をよろしくね」

 アンバーの弟だったことも、ジェードやアゲートの叔父であった記録も消される。それらの処置は、記憶も対象となった。離宮に滞在しているのは3人だけ。それが公式記録となり、歴史に刻まれる。歴史とは、勝者の都合に合わせて刻まれる記憶だった。

「お任せください」

 ひらりと手を振ってベリアルと別れる。部屋の前の廊下で顔を合わせたリリンを誘った。

「一緒におやつにしない? リリン」

「喜んでご一緒しますわ」

 扉を開けて、喜ぶエリュの顔を思い浮かべる。難しく考えても結果は変わらない。シェンはそう割り切った。
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