96 / 128
96.報復など楽しいわけがないのに
しおりを挟む
――見つけたよ。
声なき声が響き、魔術師達は悪寒に身を震わせた。攫ってきた子どものうち、魔力が高かったり珍しい種族の者を残す。それ以外は物好きな貴族に売り払った。研究資金を稼ぐためだ。
自分達の魔術の研究に使える材料と判断した子も、そろそろ処分する時期だった。逃走を防ぐために手足を奪い、ツノや牙を折って利用した。その羽や鱗も、すべてが魔術の材料となる。人族には手の届かない能力や高い魔力を秘めた部位は、子どもごと攫えば容易に手に入った。
良心の呵責など欠片もない。魔国ゲヘナは建国祭の期間、他国からの観光客に開放される。その間に攫えるだけ攫い、利用して処分すれば足もつかないはずだった。高度な転移魔法陣も与え、現地で手足となる破落戸を雇う。王宮魔術師である彼らへ繋がるルートはなかった。
地下室の子ども達は最後に血を抜き取り、残った肉を冷凍保存するか。次に作るキメラの餌にちょうどいいだろう。今回作り上げた研究成果のキメラはすぐに死んだが、それらも解体して活用する予定だった。
こんなに簡単に、必要な材料が手に入ると言うのに。誰もが蛇神の祟りを恐れて魔国へ手を伸ばさない。愚かなことだ。他国の魔術師が怯える理由が分からぬ愚者は、己が賢いと錯覚した。小国アイヒホルンは魔術の世界においては大国と肩を並べる。
作物がろくに育たず、鉱石を細々と輸出して食料を得る岩山ばかりの国だった。それゆえに体術に優れた戦士を多く輩出し、同時に魔法に特化した魔術師も生みだす。ドラゴンが眠る山に生まれ育った恩恵だろう。厳しい気候と環境の中、それでもアイヒホルン国は存続し続けた。
いつか大国の領土を奪い、人族を支配する夢を持つ。それは悪いことばかりではない。夢や希望は人が生きていくにおいて必要不可欠なのだから。だが、その夢を果たすのに誰かを犠牲にするのは間違っていた。彼らにそれを教える者はおらず、故に暴走する。
――神の鉄槌は平等である。誰の上にも、生まれの貴賤もない。ただその行いと心の有り様に従い、公平に罰は下されるのだ。人はそれを神罰と称した。
ドンッ!
激しい光と衝撃が魔術師を襲う。王宮魔術師の肩書きを持つ強者達は、受け身も結界も間に合わず吹き飛ばされた。呻いて転がる男達を睥睨する幼女は、ふわふわと宙に浮いている。背に翼もなく、ただ魔力のみで浮遊するシェンは、底の見えない笑みを向けた。
「まず、手足かな。牙の代わりに歯を、耳も要らないね。あとは羽は持ち合わせてないから、魔力を封じて血や皮膚も奪わないと。あ、そうそう……目玉もくり貫かなきゃ」
わざわざ口にしたのは、子ども達もそうして震えながら体を奪われたから。にやにや笑いながら、汚い手を伸ばして目玉をくり貫かれた子の痛みと恐怖を受け継いだ神は、容赦という単語を切り捨てた。
恐ろしい案を口にしながら、幼女は己の力を振るう。悲鳴と苦痛の叫び、助けを乞う声が響き渡る中、報復を終えたシェンは大きく溜め息を吐いた。こんなこと、楽しいわけがない。骨になったあの子が生きていたら、ここまでしなくて済んだのに。
「安心して、すぐに死なせたりしないよ」
まったく安心できない要素を口にし、神は無慈悲に公平に力を振るった。彼らがいつ「死ねる」のか、それは魔族の守護神であるシェーシャ次第だった。
声なき声が響き、魔術師達は悪寒に身を震わせた。攫ってきた子どものうち、魔力が高かったり珍しい種族の者を残す。それ以外は物好きな貴族に売り払った。研究資金を稼ぐためだ。
自分達の魔術の研究に使える材料と判断した子も、そろそろ処分する時期だった。逃走を防ぐために手足を奪い、ツノや牙を折って利用した。その羽や鱗も、すべてが魔術の材料となる。人族には手の届かない能力や高い魔力を秘めた部位は、子どもごと攫えば容易に手に入った。
良心の呵責など欠片もない。魔国ゲヘナは建国祭の期間、他国からの観光客に開放される。その間に攫えるだけ攫い、利用して処分すれば足もつかないはずだった。高度な転移魔法陣も与え、現地で手足となる破落戸を雇う。王宮魔術師である彼らへ繋がるルートはなかった。
地下室の子ども達は最後に血を抜き取り、残った肉を冷凍保存するか。次に作るキメラの餌にちょうどいいだろう。今回作り上げた研究成果のキメラはすぐに死んだが、それらも解体して活用する予定だった。
こんなに簡単に、必要な材料が手に入ると言うのに。誰もが蛇神の祟りを恐れて魔国へ手を伸ばさない。愚かなことだ。他国の魔術師が怯える理由が分からぬ愚者は、己が賢いと錯覚した。小国アイヒホルンは魔術の世界においては大国と肩を並べる。
作物がろくに育たず、鉱石を細々と輸出して食料を得る岩山ばかりの国だった。それゆえに体術に優れた戦士を多く輩出し、同時に魔法に特化した魔術師も生みだす。ドラゴンが眠る山に生まれ育った恩恵だろう。厳しい気候と環境の中、それでもアイヒホルン国は存続し続けた。
いつか大国の領土を奪い、人族を支配する夢を持つ。それは悪いことばかりではない。夢や希望は人が生きていくにおいて必要不可欠なのだから。だが、その夢を果たすのに誰かを犠牲にするのは間違っていた。彼らにそれを教える者はおらず、故に暴走する。
――神の鉄槌は平等である。誰の上にも、生まれの貴賤もない。ただその行いと心の有り様に従い、公平に罰は下されるのだ。人はそれを神罰と称した。
ドンッ!
激しい光と衝撃が魔術師を襲う。王宮魔術師の肩書きを持つ強者達は、受け身も結界も間に合わず吹き飛ばされた。呻いて転がる男達を睥睨する幼女は、ふわふわと宙に浮いている。背に翼もなく、ただ魔力のみで浮遊するシェンは、底の見えない笑みを向けた。
「まず、手足かな。牙の代わりに歯を、耳も要らないね。あとは羽は持ち合わせてないから、魔力を封じて血や皮膚も奪わないと。あ、そうそう……目玉もくり貫かなきゃ」
わざわざ口にしたのは、子ども達もそうして震えながら体を奪われたから。にやにや笑いながら、汚い手を伸ばして目玉をくり貫かれた子の痛みと恐怖を受け継いだ神は、容赦という単語を切り捨てた。
恐ろしい案を口にしながら、幼女は己の力を振るう。悲鳴と苦痛の叫び、助けを乞う声が響き渡る中、報復を終えたシェンは大きく溜め息を吐いた。こんなこと、楽しいわけがない。骨になったあの子が生きていたら、ここまでしなくて済んだのに。
「安心して、すぐに死なせたりしないよ」
まったく安心できない要素を口にし、神は無慈悲に公平に力を振るった。彼らがいつ「死ねる」のか、それは魔族の守護神であるシェーシャ次第だった。
1
お気に入りに追加
926
あなたにおすすめの小説
契約師としてクランに尽くしましたが追い出されたので復讐をしようと思います
やなぎ納屋
ファンタジー
ヤマトは異世界に召喚された。たまたま出会った冒険者ハヤテ連れられて冒険者ギルドに行くと、召喚師のクラスを持っていることがわかった。その能力はヴァルキリーと契約し、力を使えるというものだ。
ヤマトはハヤテたちと冒険を続け、クランを立ち上げた。クランはすぐに大きくなり、知らないものはいないほどになった。それはすべて、ヤマトがヴァルキリーと契約していたおかげだった。それに気づかないハヤテたちにヤマトは追放され…。
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
追放された薬師は騎士と王子に溺愛される 薬を作るしか能がないのに、騎士団の皆さんが離してくれません!
沙寺絃
ファンタジー
唯一の肉親の母と死に別れ、田舎から王都にやってきて2年半。これまで薬師としてパーティーに尽くしてきた16歳の少女リゼットは、ある日突然追放を言い渡される。
「リゼット、お前はクビだ。お前がいるせいで俺たちはSランクパーティーになれないんだ。明日から俺たちに近付くんじゃないぞ、このお荷物が!」
Sランクパーティーを目指す仲間から、薬作りしかできないリゼットは疫病神扱いされ追放されてしまう。
さらにタイミングの悪いことに、下宿先の宿代が値上がりする。節約の為ダンジョンへ採取に出ると、魔物討伐任務中の王国騎士団と出くわした。
毒を受けた騎士団はリゼットの作る解毒薬に助けられる。そして最新の解析装置によると、リゼットは冒険者としてはFランクだが【調合師】としてはSSSランクだったと判明。騎士団はリゼットに感謝して、専属薬師として雇うことに決める。
騎士団で認められ、才能を開花させていくリゼット。一方でリゼットを追放したパーティーでは、クエストが失敗続き。連携も取りにくくなり、雲行きが怪しくなり始めていた――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる