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94.皇帝陛下としての命令を下す

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 知らせを受けたリリンはすぐに尋問を始めた。きっちり話を聞き出すため、自ら対応する。人族の国家で魔族の子がどのような扱いをされているか。救出を早めるためにも、尋問は苛烈を極めた。

「魔術師か……いいよ、父上に手紙を書くから使者に持たせて」

 事情を聞いたナイジェルは、すぐに頷いた。蛇神であるシェンが嘘を吐く理由はないし、もし同族が人身売買に関わったなら処罰すべきだ。大国の王子であるだけに、嫡男でなくとも帝王学や倫理観は叩き込まれている。非道な行いをする者を、同族だという一点で庇う気はなかった。

「助かる」

「人探しなら、妖精族が得意だ。魔族の子でも探し出せるだろう。騎士を数人派遣してもらえるよう、頼んでみる」

 リンカも協力を申し出た。そんな王族達の動きを見て、エリュはそわそわし始めた。自分も何かしたいのだろう。それに気付いたベリアルが、膝を突いてエリュと視線を合わせる。

「エリュ様、人族との交渉をお命じください。魔族の幼子を助ける命令を、皇帝陛下である貴方様の言葉で」

 目を見開いた後、エリュは大きく頷いた。

「ベル、魔族の子を見つけて、お父さんやお母さんのところへ帰してあげて」

「かしこまりました」

 立派に皇帝の役目を果たした友人に、シェンが飛びついて頬擦りする。

「今のエリュはカッコよかった。僕も魔族の守り神なんだから、頑張らないとね。少し出てくるけど、その間はリンカやナイジェルと仲良くしてて。帰ってきたら、エリュが読んだ本の内容を僕に教えてよ」

 留守番を頼むついでに、仕事を与える。夢中になれる何かがあれば、エリュも気が楽だろう。ただ心配するだけの時間は苦痛だから。にこにことお願いを付け加えれば、エリュは虹色に変わる瞳を輝かせて頷いた。

「うん! 神話の本も読んで教えてあげる」

「楽しみにしてるよ」

 幼女同士が仲良く話す姿は微笑ましい。リンカは「やっぱり妹枠だな」と呟いた。皇帝と蛇神、どちらも敬う存在だが妹として接する。そんな響きに、シェンが満足そうに頷いた。

「明日のお出かけは、リリンに頼んで。僕がいないけど、何かあればこのペンダントが守ってくれるから」

 羽根の形のペンダントトップを揺らすと、エリュやナイジェルも革紐を引っ張った。結界から解毒、魅了解除、拘束不可など、さまざまな魔法を重ねたお守りだ。リンカは軽く肩をすくめた。

「このお守りを突破出来る敵なんて、想像できないな。安心して、私も守るよ」

 剣の柄に手を添えて笑う女剣士に、魔族で最強の女性将軍リリンが同伴する。魔法に対する対策は、神様お手製のペンダントで完璧だった。留守にするというのに、不安はひとつもない。

「悪い人をやっつけて来てね」

 エリュの命令とは呼べないお願いに、シェンはしっかり答えた。

「もちろん! 魔族の子を攫う悪人は、しっかり懲らしめてくる」

 ナイジェルとリンカがそれぞれの王家に手紙を書き終わるのを待って、シェンはベリアルを伴い魔国ゲヘナを出た。奪われた国の宝を取り戻すために。
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