上 下
87 / 128

87.お揃いのお土産をベリアルに

しおりを挟む
 昼食が終わると、メレディスの店を出て左へ曲がった。芝居小屋がある右側はすでに探検済みだ。左側は土産物を販売する出店が並んでいた。

 満腹なので、飲食物が並ぶ屋台を回っても、食指は動かない。ベリアルに促されて、小物を覗き始めた。そこで、エリュが「あっ!」と大きな声を上げる。

 注目を集めてしまったので、道の脇に避けた。気遣いがベリアルらしい。リリンなら、平気でそのまま道を塞ぐだろう。

「どうしました、エリュ様」

「あのね、ベルにあげるお土産、まだ渡してなかったの」

 昨日部屋に持ち帰って、鏡台の前に置いてきてしまった。リビングの部屋を披露したりしていて、すっかり忘れていたのだ。朝持って出るつもりだったのに。悔しそうな顔をするエリュへ、シェンがポシェットから袋を取り出した。

「はい、僕が持ってきたよ」

「え? あ、ありがとう!」

 もしエリュが思い出さなければ、帰ってから渡すよう促すつもりだった。持って来て正解だったと笑うシェンが頷く。袋の中を確認してから、ベリアルに渡した。

「これ、ベルの分のお土産。昨日の分だよ」

 にこにこと笑顔で渡され、ベリアルは袋を手の上で逆さにした。羽根の形をしたペンダントトップが転がり出る。革紐が付けられた飾りは、宝石の粉で緑に光っていた。

「素敵なお土産をありがとうございます」

 頬を緩めたベリアルに、全員が首の革紐を引っ張って見せた。

「リリンも含めて、6つある。持ち主指定があるから、他人に取られる心配はないぞ」

 奇妙な言い回しに目を凝らし、重ねがけされた魔法に驚いた。ベリアルが知る限り、これほど重ねたら発動しない。なのに、どの魔法も独立して発動可能な状態だった。物理攻撃や魔法からの防御、毒耐性など。結界機能も含まれている。

「これは……」

「すげぇだろ? シェンがやったんだ」

「国宝級ですよ」

 ナイジェルとリンカは、自慢げに自分のペンダントを眺めた。エリュは銀に光る自分のペンダントを服の下に戻す。

「大切にいたしますね。エリュ様、首にかけてもらえますか?」

「うん! 任せて」

 頼まれたのが嬉しくて、にこにこするエリュが、片膝をついたベリアルの首に革紐をかける。ツノに引っかからないよう注意したエリュが満足そうに笑った。

「出来た!」

「エリュ様、シェン様、ありがとうございます。リンカ様とナイジェル様も」

「私は銀で、シェンが黒っぽくて、リンカは赤。青がリリンだった。えっとナイジェルは金色、ベリアルが緑だよ」

「全部覚えているのですか? さすがですね」

 頭を撫でられ、驚いた顔をしてから頬を緩める。頭を撫でてもらったと興奮したエリュが、ベリアルに抱き着いた。そのまま抱き上げて歩き始める。

「エリュ! 甘えんぼだな」

「なんだ、羨ましいのか? ナイジェル」

「そ、そんなんじゃねえよ」

 からかったナイジェルの方が、リンカに笑われて顔を赤くする。久しぶりにベリアルと距離を詰めたエリュの幸せそうな笑顔は、シェン達の気持ちも温めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶
BL
目つき最悪不眠症王子×息子溺愛パパ医者の、じれキュン異世界BL。本編と、パパの息子である小枝が主役の第二章も完結。姉の子を引き取りパパになった大樹は穴に落ち、息子の小枝が前世で過ごした異世界に転移した。戸惑いながらも、医者の知識と自身の麻酔効果スキル『スリーパー』小枝の清浄化スキル『クリーン』で人助けをするが。ひょんなことから奴隷堕ちしてしまう。医師奴隷として戦場の最前線に送られる大樹と小枝。そこで傷病人を治療しまくっていたが、第二王子ディオンの治療もすることに。だが重度の不眠症だった王子はスリーパーを欲しがり、大樹を所有奴隷にする。大きな身分差の中でふたりは徐々に距離を縮めていくが…。異世界履修済み息子とパパが底辺から抜け出すために頑張ります。大樹は奴隷の身から脱出できるのか? そしてディオンはニコイチ親子を攻略できるのか?

聖獣がなつくのは私だけですよ?

新野乃花(大舟)
恋愛
3姉妹の3女であるエリッサは、生まれた時から不吉な存在だというレッテルを張られ、家族はもちろん周囲の人々からも冷たい扱いを受けていた。そんなある日の事、エリッサが消えることが自分たちの幸せにつながると信じてやまない彼女の家族は、エリッサに強引に家出を強いる形で、自分たちの手を汚すことなく彼女を追い出すことに成功する。…行く当てのないエリッサは死さえ覚悟し、誰も立ち入らない荒れ果てた大地に足を踏み入れる。死神に出会うことを覚悟していたエリッサだったものの、そんな彼女の前に現れたのは、絶大な力をその身に宿す聖獣だった…!

35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)
BL
『35歳、職業ホスト。指名はまだ、ありません――』 35歳で会社を辞めさせられた青葉幸助は、学生時代の後輩の紹介でホストクラブで働くことになったが……――。 慣れないホスト業界や若者たちに戸惑いつつも、35歳のおじさんが新米ホストとして奮闘する物語。 ・売れっ子ホスト(22)×リストラされた元リーマン(35) ・のんびり平凡総受け ・攻めは俺様ホストやエリート親友、変人コック、オタク王子、溺愛兄など ※本編では性描写はありません。 (総受けのため、番外編のパラレル設定で性描写ありの小話をのせる予定です)

【完結】飛行機で事故に遭ったら仙人達が存在する異世界に飛んだので、自分も仙人になろうと思います ー何事もやってみなくちゃわからないー

光城 朱純
ファンタジー
空から落ちてる最中の私を助けてくれたのは、超美形の男の人。 誰もいない草原で、私を拾ってくれたのは破壊力抜群のイケメン男子。 私の目の前に現れたのは、サラ艶髪の美しい王子顔。 えぇ?! 私、仙人になれるの?! 異世界に飛んできたはずなのに、何やれば良いかわかんないし、案内する神様も出てこないし。 それなら、仙人になりまーす。 だって、その方が楽しそうじゃない? 辛いことだって、楽しいことが待ってると思えば、何だって乗り越えられるよ。 ケセラセラだ。 私を救ってくれた仙人様は、何だか色々抱えてそうだけど。 まぁ、何とかなるよ。 貴方のこと、忘れたりしないから 一緒に、生きていこう。 表紙はAIによる作成です。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

もうなんか大変

毛蟹葵葉
エッセイ・ノンフィクション
これしか言えん

処理中です...