上 下
84 / 128

84.衣装は毎年の楽しみです

しおりを挟む
 お祭り用に用意された刺繍の衣装に袖を通す。シェンとエリュは色を変えたお揃いの服を纏い、双子のように笑い合った。木蓮の花に小鳥が刺繍されている。青い絹に白い花と黄色い小鳥、銀髪に映えるよう調整されたワンピースに大喜びだ。下にぴたりとしたパンツを履くので、転げ回っても安心の衣装だった。

 肩に小鳥が止まる同じデザインで、薄いピンク地に紫木蓮と水色の小鳥が美しい服を纏い、シェンはエリュと手を繋いだ。肩甲骨まで長い髪は、ツインテールに仕上げてもらった。金色の髪紐を飾り、それぞれに紫と白の花飾りを載せる。

「楽しみだね」

「うん、リンカ達は準備出来たかな」

 わくわくしながら廊下に出る。まだ姿が見えないので、昨日公開したばかりのリビングへ向かった。こういう時にも活躍する部屋だ。

 扉を開けると、すでにリンカは準備を終えていた。紺色の美しい長衣に凛とした百合が、リンカの長身によく似合う。白ではなく僅かに黄色を帯びた柔らかい色の百合は、動くとまるで本物のようだった。

「リンカ、こうしてみて」

 シェンに言われて、リンカが自分の腹の辺りで抱き締める仕草をとる。するとエリュが目を輝かせた。

「すごい! 百合の花束を抱っこしてるみたい!!」

 慌てて備え付けの鏡に駆け寄り、同じ所作をしたリンカが頬を崩した。

「本当だな、すごい。凝った作りだ。綺麗で仕掛けまでするとは、ケイトやバーサは腕がいい」

「刺繍はね、サイカも上手なの」

 侍女の名前を出しながら、エリュは自分の手柄のように誇る。関係がうまく行っている証拠だと、リンカも微笑ましげに頷いた。他にもお菓子作りが得意な侍女や、意外にも洗濯に才能がある料理長の話を聞いている間に、ナイジェルが飛び込んできた。

「悪い! 少し寝過ごした……つうか、皆綺麗だなぁ」

 口のうまさは、1年で向上したらしい。シェンはくすくす笑いながら、エリュの手を取ってくるりと回ってみせた。エリュも一緒に周り、スカートを翻す。

「ナイジェルもかっこいいぞ」

 虎が肩から顔を覗かせている。背中一面に虎の毛皮模様が刺繍され、前面は竹と白い花が多用されていた。地は黒に近い紫だ。こちらも難しい上、刺繍の面積が多くて大変そうだった。

「毎年用意してもらうのも、なんだか悪いな」

 ナイジェルが気を使った言葉を吐くと、侍女のケイトが「恐れながら」と切り出した。

「これは私達の楽しみですわ。年に一度のイベントですから、飾らせてください」

「そうです。私達も嫌だったら作りませんから」

 バーサも応援したことで、ナイジェルも好意に納得したらしい。大急ぎで準備して、今日も街へ繰り出すことになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

契約師としてクランに尽くしましたが追い出されたので復讐をしようと思います

やなぎ納屋
ファンタジー
 ヤマトは異世界に召喚された。たまたま出会った冒険者ハヤテ連れられて冒険者ギルドに行くと、召喚師のクラスを持っていることがわかった。その能力はヴァルキリーと契約し、力を使えるというものだ。  ヤマトはハヤテたちと冒険を続け、クランを立ち上げた。クランはすぐに大きくなり、知らないものはいないほどになった。それはすべて、ヤマトがヴァルキリーと契約していたおかげだった。それに気づかないハヤテたちにヤマトは追放され…。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

雑魚テイマーな僕には美幼女モンスターしか仲間になってくれない件

やすぴこ
ファンタジー
魔物と心を通わせ使役する者を人々はテイマーと呼んだ。 かつては強大なる術によって様々な魔物を使役し、魔王さえも封印したと言う。 しかし、平和な世はそんな強過ぎる力を危険な術として認めずその力の殆どは時の権力者によって封印され、今では弱い魔物を使役出来る程度の不遇職として扱われていた。 物語の主人公はとある国のとある街に叔母と一緒に住んでいた数奇な運命の元に生まれた少年テイマー。 彼の名前はマーシャルと言った。 不遇職と呼ばれるテイマーの中でも、更に不遇の彼はスライムにさえも無視される程の最弱の雑魚テイマーだった。 そんな最弱テイマーであるマーシャルは、ある日パーティーから除名勧告を受ける事となる。 最愛の従魔と共に強くなることを誓い故郷に帰ったマーシャルは、そこで自らには封印された恐るべき過去がある事を知るのだった。 やがて可愛い美幼女モンスターに囲まれながら自らの運命を切り開く彼の旅はこうして始まる―― 注:序盤はいじける事が多い主人公ですが、様々な出会いによって精神的にも徐々に成長して行きます。 ※カクヨムとなろうでも掲載してます。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...