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77.子どもは正直で残酷な生き物
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リリンに促され、芝居小屋のある方へ足を向けた。急がないと劇が始まってしまう。他にも走っていく子が大勢いた。というのも、祭りの期間中は芝居の種類が多いのだ。
いつもは観られない芝居もたくさん行われる。エリュとナイジェルが選んだのは、英雄譚だった。魔族の祭りで行われるのだから、当然英雄は過去の皇帝である。蛇神の力を借りて、魔国ゲヘナを興した初代皇帝アンドレア――懐かしいとシェンは頬を緩めた。
魔国ゲヘナの歴史は二つに分かれる。前半と後半で、一度歴史は途切れた。国が滅び、新たに蛇神の守護を得て再興したのだ。その辺はナイジェルやリンカも歴史の授業で習うだろう。
前半はシェンが一切関係ない時代の話で、後半のアンドレアが再興したところから付き合った。
「チケットを購入してきましたよ」
リリンから受け取ったチケットで中に入る。劇は一般的に伝えられた内容を忠実に辿った。特にアレンジやアドリブはなかった。リンカは詳細を知らなかったらしく、感心したり手を叩いたりと賑やかだ。もっとも貴族が集まる劇場と違い、芝居小屋は平民が主流だ。騒がしさでは、周囲の方がうるさかった。
「あれがエリュのご先祖様か」
否定せずにシェンは微笑むに留めた。エリュもにこにことリンカの賞賛を聞きながら、芝居小屋を出る。ちょうど食事時なことも手伝い、リリンが知る裏通りの飯屋を訪ねることにした。
屋台の肉や魚もいいが、食事はきちんと座って食べたい。何より、エリュはリリンの知り合いに興味があった。優しくてスタイルが良くて、すごく強い美人なお姉さん。エリュが持つリリンへのイメージだ。
ナイジェルも近いイメージを抱いているようで、将軍職はすごく偉くて強いと考えていた。妖精族でも珍しく剣術に特化したリンカも、女将軍の強さには憧れがあるらしい。
数本裏へ入ると、人通りが減った。物騒な場所かと問われたら、さほど危険ではない。普段はもっと人通りが多いのだが、祭りの喧騒に惹かれて表に出たのだろう。人が少なく、手を繋いで広がって歩いても迷惑にならないのは良かった。
「ここです」
鯨の形に切り抜いた木製看板が揺れる店は、カランと鳴るベルの音で客を招き入れた。ぼんやりとした薄暗い照明、木製の家具が並び、不思議な懐かしさがある。
「お祖母様の家みたいだ」
夫が亡くなって息子の即位を見届けるなり、山奥に小屋のような家を建てて引っ越した祖母。彼女は王宮に足を踏み入れることはなく、孫は自ら出向いた。よく遊びに訪ねたナイジェルは、懐かしそうに目を細める。狭いけれど落ち着く雰囲気も、よく似ている。
「へぇ、君のお祖母さん、いい趣味してるわ」
リリンによく似た面差しの女性……いや、生まれながらの性は男だ。ガタイはいいのを隠すように、足元まで隠れるロングスカートだった。縦長に見せる工夫だろう。黒いチョーカーで喉仏を隠し、意図的に高めの声を作っている。
「男? 女?」
子どもは正直で残酷な生き物だ。無邪気に尋ねたナイジェルは、笑顔の店主に抱き締められた。
いつもは観られない芝居もたくさん行われる。エリュとナイジェルが選んだのは、英雄譚だった。魔族の祭りで行われるのだから、当然英雄は過去の皇帝である。蛇神の力を借りて、魔国ゲヘナを興した初代皇帝アンドレア――懐かしいとシェンは頬を緩めた。
魔国ゲヘナの歴史は二つに分かれる。前半と後半で、一度歴史は途切れた。国が滅び、新たに蛇神の守護を得て再興したのだ。その辺はナイジェルやリンカも歴史の授業で習うだろう。
前半はシェンが一切関係ない時代の話で、後半のアンドレアが再興したところから付き合った。
「チケットを購入してきましたよ」
リリンから受け取ったチケットで中に入る。劇は一般的に伝えられた内容を忠実に辿った。特にアレンジやアドリブはなかった。リンカは詳細を知らなかったらしく、感心したり手を叩いたりと賑やかだ。もっとも貴族が集まる劇場と違い、芝居小屋は平民が主流だ。騒がしさでは、周囲の方がうるさかった。
「あれがエリュのご先祖様か」
否定せずにシェンは微笑むに留めた。エリュもにこにことリンカの賞賛を聞きながら、芝居小屋を出る。ちょうど食事時なことも手伝い、リリンが知る裏通りの飯屋を訪ねることにした。
屋台の肉や魚もいいが、食事はきちんと座って食べたい。何より、エリュはリリンの知り合いに興味があった。優しくてスタイルが良くて、すごく強い美人なお姉さん。エリュが持つリリンへのイメージだ。
ナイジェルも近いイメージを抱いているようで、将軍職はすごく偉くて強いと考えていた。妖精族でも珍しく剣術に特化したリンカも、女将軍の強さには憧れがあるらしい。
数本裏へ入ると、人通りが減った。物騒な場所かと問われたら、さほど危険ではない。普段はもっと人通りが多いのだが、祭りの喧騒に惹かれて表に出たのだろう。人が少なく、手を繋いで広がって歩いても迷惑にならないのは良かった。
「ここです」
鯨の形に切り抜いた木製看板が揺れる店は、カランと鳴るベルの音で客を招き入れた。ぼんやりとした薄暗い照明、木製の家具が並び、不思議な懐かしさがある。
「お祖母様の家みたいだ」
夫が亡くなって息子の即位を見届けるなり、山奥に小屋のような家を建てて引っ越した祖母。彼女は王宮に足を踏み入れることはなく、孫は自ら出向いた。よく遊びに訪ねたナイジェルは、懐かしそうに目を細める。狭いけれど落ち着く雰囲気も、よく似ている。
「へぇ、君のお祖母さん、いい趣味してるわ」
リリンによく似た面差しの女性……いや、生まれながらの性は男だ。ガタイはいいのを隠すように、足元まで隠れるロングスカートだった。縦長に見せる工夫だろう。黒いチョーカーで喉仏を隠し、意図的に高めの声を作っている。
「男? 女?」
子どもは正直で残酷な生き物だ。無邪気に尋ねたナイジェルは、笑顔の店主に抱き締められた。
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