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76.子供騙しのペンダントが国宝級

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 高価ではない、だが大切な思い出だ。エリュがシェンのために選び、手元に残る小さなペンダント。長寿な竜種として、何世代もの皇帝を見守ってきた。拳大の宝石を貰ったこともあるし、捧げ物として宮殿を与えられたこともあった。それでも、この小さなペンダントトップは特別だ。

 守りの術を幾重にも掛けていく。毒の無効、物理攻撃を弾き、魔法を散らす。大量の魔力を注いで出来上がったお守りは、国宝級の仕上がりとなった。

 これを身につけていれば、ほぼ死ぬことはない。しかも持ち主を固定したので、他の誰かが奪っても効果は発揮されなかった。これならば、ペンダント目当てに襲われる心配を消せる。それらをわざわざ口頭で説明するシェンは、各貴族が寄越した密偵に聞かせた。

「というわけで、全員首にかけて」

「……譲渡可能なら危険だが、これなら」

 リンカは、持ち主限定効果に興味津々だった。そんな魔法は、妖精族にも伝わっていない。魔法に特化して生き残った種族であるだけに、仕組みが気になった。それでも友人から貰ったペンダントを解体してみようとは思わない。素直に首にかけ、手の上で赤いトップを転がした。温かい気がして頬が緩む。

「なあ、これって俺専用だろ? カッケェな」

 王子とは思えないスラング混じりで喜ぶナイジェルも、満面の笑みだった。他国の神であっても、その効果はきちんと彼の上に注いでいる。首にかけた金色を揺らして、何度も確かめた。

「あ、落下防止と紛失防止は入ってるから」

 実は付属の革紐にも魔法が掛かってしまったのだ。うっかりミスだが、おかげで切れて紛失する危険は減った。それどころか鋭い刃を当てても、おそらく弾くだろう。その点は物理攻撃の反射が作用する。さらに魔法を重ねがけする途中で砕けそうな手応えがあり、全力で強化した。巨大蛇姿のシェンが乗っても壊れない可能性がある。

 やり過ぎたが、狙われることの多い彼と彼女らに、このくらいの加護は与えてもいいだろう。礼を言ったリリンも早速首に掛ける。青い石は、国の花アルスターを連想させた。もしかしたら、交換しろと騒がれるかもしれないと思ったリリンだが、持ち主固定の効果にほくそ笑んだ。

 無言でじっと見つめていたエリュは、銀色に光を弾く首飾りを大切そうに握り締める。

「どうしたの? エリュ。身に付けてよ」

「うん、お揃いが嬉しいの」

 シェンが手を伸ばし、銀の首飾りをエリュの細い首にかけた。胸元で揺れるペンダントトップは、やや低い位置にある。紐を上の方で少し摘んで結んだ。長さを調整したことで、胸の真ん中に来た。

「シェンも、私が掛けてあげる」

「お願いするね」

 黒銀の飾りが揺れる革紐を予め短くして、エリュの手に渡された。頭を下げて待つシェンを、背伸びをしたエリュが革紐にくぐらせる。

 ベリアルの土産となった緑のペンダントは、一時的にリリンが預かることになった。

「帰ったら、ベルにあげるの」

 にこにこと今後の予定を話すエリュは、両手を友人達へ伸ばした。
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