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33.初めての剣術のお稽古
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剣術のお稽古をするなら、と用意された厚手のタイツを履く。その上からミニスカートのワンピースを着た。というのも、ズボンを用意していなかったのだ。今後のために注文しておく、と侍女のケイトが約束した。
「約束ね、絶対よ」
エリュが真剣に頼むので、微笑ましいと思いながらも表情を引き締めたケイトが神妙に頷く。
「はい、必ずご用意します」
お揃いの恰好をしながら、シェンはパンを頬張る。午前中に体を動かすことになった。お昼寝の前じゃないと、午後のお勉強が台無しになってしまう。予定を組んだリリンやベリアルの苦悩が透けて見えた。
「エリュ、早く食べなきゃリリンが来るよ。動くなら早くご飯食べないと、お腹痛くなる」
食べた直後に走ったら吐くだろうし。そんな予想を口にしながら、スープでパンを流し込んだ。慌ててエリュも食事を始める。彼女がスープを飲む間に、パンの真ん中を切ってハムやサラダを挟んだ。受け取ったエリュが、もぐもぐと大きな口で齧り付く。
ちょうど最後の一口を頬張ったところで、リリンが現れた。頬を膨らませているエリュの様子に、ふっと笑う。挨拶できる状態ではなかった。先にリリンが挨拶し、シェンもそれに答える。その間に、ようやくジュースで飲み込んだエリュが「おはよう」と挨拶をした。
「おはようございます、エリュ様。準備はいいですか?」
「うん! お願いします」
シェンと手を繋ぎ、広場へ向かう。騎士が訓練する場所から遠くないが、普段はあまり使われない中庭のような場所だった。
「まずは走る……じゃなくて、柔軟体操から始めましょう」
エリュの隣で首を横に振るシェンの表情を読みながら、走る体力づくりを一度保留する。今走らせたら、絶対に横腹が痛くなるだろう。シェンの判断に従い、地面に敷いた布の上で体をほぐす。転がったり足を持ち上げたり、それぞれに体をほぐした。
走るのは後日にして、ひとまず素振りを始める。エリュは本格的に騎士を目指すわけではなく、体力づくりより剣術もどきの経験が大切だった。本気で習う気になれば、その時に体力づくりを始めても間に合う。
「剣の柄はこう持ってください。それで上まで振り上げる。もっとですわ、頭の上より後ろまで。そこから下へ下ろしてください。でも地面を叩いてはいけませんよ」
難しいと言いながら、エリュは器用に木刀を振り回す。その隣でシェンも素振りを始めた。慣れており芯がしっかりしたシェンと違い、エリュは数回振り回すと腕が疲れてしまった。
「疲れたぁ」
「エリュ、あと2回振ったら終わりだよ」
「頑張る」
目標を設定すれば、エリュは頑張れる子だ。疲れた手を振り上げて、軽い木刀を下に振り抜いた。
「お上手です。明日はもっと回数を増やせたらいいですね。手のひらを見せてください」
マメが出来たり、手のひらが傷になっていないか確認する。問題ないと判断し、リリンはエリュの木刀を預かった。
「訓練の時間以外は私が預かります」
予定以外の時間に一人で振り回し、ケガをしないように。そんなリリンの言葉に、エリュは素直に頷いた。
「明日はもっと振る」
エリュは剣術のお稽古が気に入ったらしい。ふふっと笑い、シェンは「父親に似たかな?」とこぼした。
「約束ね、絶対よ」
エリュが真剣に頼むので、微笑ましいと思いながらも表情を引き締めたケイトが神妙に頷く。
「はい、必ずご用意します」
お揃いの恰好をしながら、シェンはパンを頬張る。午前中に体を動かすことになった。お昼寝の前じゃないと、午後のお勉強が台無しになってしまう。予定を組んだリリンやベリアルの苦悩が透けて見えた。
「エリュ、早く食べなきゃリリンが来るよ。動くなら早くご飯食べないと、お腹痛くなる」
食べた直後に走ったら吐くだろうし。そんな予想を口にしながら、スープでパンを流し込んだ。慌ててエリュも食事を始める。彼女がスープを飲む間に、パンの真ん中を切ってハムやサラダを挟んだ。受け取ったエリュが、もぐもぐと大きな口で齧り付く。
ちょうど最後の一口を頬張ったところで、リリンが現れた。頬を膨らませているエリュの様子に、ふっと笑う。挨拶できる状態ではなかった。先にリリンが挨拶し、シェンもそれに答える。その間に、ようやくジュースで飲み込んだエリュが「おはよう」と挨拶をした。
「おはようございます、エリュ様。準備はいいですか?」
「うん! お願いします」
シェンと手を繋ぎ、広場へ向かう。騎士が訓練する場所から遠くないが、普段はあまり使われない中庭のような場所だった。
「まずは走る……じゃなくて、柔軟体操から始めましょう」
エリュの隣で首を横に振るシェンの表情を読みながら、走る体力づくりを一度保留する。今走らせたら、絶対に横腹が痛くなるだろう。シェンの判断に従い、地面に敷いた布の上で体をほぐす。転がったり足を持ち上げたり、それぞれに体をほぐした。
走るのは後日にして、ひとまず素振りを始める。エリュは本格的に騎士を目指すわけではなく、体力づくりより剣術もどきの経験が大切だった。本気で習う気になれば、その時に体力づくりを始めても間に合う。
「剣の柄はこう持ってください。それで上まで振り上げる。もっとですわ、頭の上より後ろまで。そこから下へ下ろしてください。でも地面を叩いてはいけませんよ」
難しいと言いながら、エリュは器用に木刀を振り回す。その隣でシェンも素振りを始めた。慣れており芯がしっかりしたシェンと違い、エリュは数回振り回すと腕が疲れてしまった。
「疲れたぁ」
「エリュ、あと2回振ったら終わりだよ」
「頑張る」
目標を設定すれば、エリュは頑張れる子だ。疲れた手を振り上げて、軽い木刀を下に振り抜いた。
「お上手です。明日はもっと回数を増やせたらいいですね。手のひらを見せてください」
マメが出来たり、手のひらが傷になっていないか確認する。問題ないと判断し、リリンはエリュの木刀を預かった。
「訓練の時間以外は私が預かります」
予定以外の時間に一人で振り回し、ケガをしないように。そんなリリンの言葉に、エリュは素直に頷いた。
「明日はもっと振る」
エリュは剣術のお稽古が気に入ったらしい。ふふっと笑い、シェンは「父親に似たかな?」とこぼした。
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