32 / 128
32.剣術を習いたいそうです
しおりを挟む
ビフロンス侯爵家はお取潰しとなった。巨人族の貴族がいなくなったので、別の家が子爵位を叙爵する。当然、皇帝陛下への叛逆罪でビフロンスは処刑された。といっても、その辺の詳細は皇帝陛下であるエリュの知るところではない。
主君のために裏で尽力し、根回しして手を汚すのは配下の仕事だった。シェンもこっそり協力している。そのため、他の種族や貴族家から文句はでなかった。
「蛇神様のお言葉ですからね」
にっこり笑うベリアルは、悪い顔をする。ついでに数件の人身売買や強盗事件が解決したらしく、機嫌がよかった。悪い噂がある貴族は、やはり裏で悪いことをしていた。それだけのことだ。芋づる式に検挙した。
「剣術を習うの!」
興奮した様子で、えいっと棒で遊ぶエリュが大声で叫んだ。棒を用意したシェンはにこにこと頷く。だがベリアルは危険だからことと主張した。
「まだ早いです」
「もう習ってもいいと思うぞ。嫌ならやめるだろうし」
シェンは何でもチャレンジさせる派だ。ベリアルは逆に、習うものを選んで用意するタイプだった。真逆の二人だが、この部分で衝突が起きる心配はない。なぜなら、エリュが「習うの!」と叫んだら、それが優先されるからだ。
「ケガをなさったら、大変なことになります」
「僕は一応治癒も出来るし、危険な状態で発動する魔法をかけておくから」
神が守るから、習わせてくれと言われたら断れない。最終的にベリアルが折れる形となった。教育係は、自動的に将軍職を兼務するリリンとなった。ベリアルも武器を使えるが、基本的に文官として活躍している。
「絶対にケガをさせないように」
「わかってるわ。寸止めは得意なの」
「寸止めでは、間に合わなかった時に大怪我をするでしょう」
言い争うベリアルとリリンをよそに、シェンは木刀を作っていた。エリュと相談しながら形を変えていく。
「ここは握りやすく、このくらい?」
「ここ、飾りが欲しいの」
「蛇が絡む形はどう」
「ドラゴンさんがいい。蛇さんはこっち」
エリュの指示に従い、狼やら猫まで装飾されていく。気づけば、棒に大量の動物の模型が付いた奇妙な作品が出来上がっていた。どう見ても、武器には見えない。よくて装飾品だろう。
「うん、これはこれとして。別の木刀を作ろう」
シェンは黙々と作り始めた。シンプルで振りやすく、だが柄の部分もきっちり丁寧に仕上げる。
「シェン様?」
「ああ、言い争いは終わったか? ベリアルもリリンも忘れているようだが、最初は素振りと体力作りだけだぞ」
「「あ」」
いきなり実戦形式の模擬戦など出来るわけがない。3歳の幼女が剣術を習うといえば、走って体力をつけたり、木刀を遊びで振り回す程度だ。何をもめる必要があると笑うシェンに、ゲヘナ国の重鎮達は苦笑いした。
先走りすぎて、模擬戦に突入させるところだった。そう呟くベリアルへ、リリンも肩を竦める。明日から素振りの練習を始めることにして、白いシチューを大量に食べた幼女達は眠りについた。
今日の読み聞かせは、魔王が救った魔獣の子のお話で……侍女のケイトが「おしまい」まで読み終えたとき、エリュはすでに眠っていた。
主君のために裏で尽力し、根回しして手を汚すのは配下の仕事だった。シェンもこっそり協力している。そのため、他の種族や貴族家から文句はでなかった。
「蛇神様のお言葉ですからね」
にっこり笑うベリアルは、悪い顔をする。ついでに数件の人身売買や強盗事件が解決したらしく、機嫌がよかった。悪い噂がある貴族は、やはり裏で悪いことをしていた。それだけのことだ。芋づる式に検挙した。
「剣術を習うの!」
興奮した様子で、えいっと棒で遊ぶエリュが大声で叫んだ。棒を用意したシェンはにこにこと頷く。だがベリアルは危険だからことと主張した。
「まだ早いです」
「もう習ってもいいと思うぞ。嫌ならやめるだろうし」
シェンは何でもチャレンジさせる派だ。ベリアルは逆に、習うものを選んで用意するタイプだった。真逆の二人だが、この部分で衝突が起きる心配はない。なぜなら、エリュが「習うの!」と叫んだら、それが優先されるからだ。
「ケガをなさったら、大変なことになります」
「僕は一応治癒も出来るし、危険な状態で発動する魔法をかけておくから」
神が守るから、習わせてくれと言われたら断れない。最終的にベリアルが折れる形となった。教育係は、自動的に将軍職を兼務するリリンとなった。ベリアルも武器を使えるが、基本的に文官として活躍している。
「絶対にケガをさせないように」
「わかってるわ。寸止めは得意なの」
「寸止めでは、間に合わなかった時に大怪我をするでしょう」
言い争うベリアルとリリンをよそに、シェンは木刀を作っていた。エリュと相談しながら形を変えていく。
「ここは握りやすく、このくらい?」
「ここ、飾りが欲しいの」
「蛇が絡む形はどう」
「ドラゴンさんがいい。蛇さんはこっち」
エリュの指示に従い、狼やら猫まで装飾されていく。気づけば、棒に大量の動物の模型が付いた奇妙な作品が出来上がっていた。どう見ても、武器には見えない。よくて装飾品だろう。
「うん、これはこれとして。別の木刀を作ろう」
シェンは黙々と作り始めた。シンプルで振りやすく、だが柄の部分もきっちり丁寧に仕上げる。
「シェン様?」
「ああ、言い争いは終わったか? ベリアルもリリンも忘れているようだが、最初は素振りと体力作りだけだぞ」
「「あ」」
いきなり実戦形式の模擬戦など出来るわけがない。3歳の幼女が剣術を習うといえば、走って体力をつけたり、木刀を遊びで振り回す程度だ。何をもめる必要があると笑うシェンに、ゲヘナ国の重鎮達は苦笑いした。
先走りすぎて、模擬戦に突入させるところだった。そう呟くベリアルへ、リリンも肩を竦める。明日から素振りの練習を始めることにして、白いシチューを大量に食べた幼女達は眠りについた。
今日の読み聞かせは、魔王が救った魔獣の子のお話で……侍女のケイトが「おしまい」まで読み終えたとき、エリュはすでに眠っていた。
32
お気に入りに追加
925
あなたにおすすめの小説
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~
北川晶
BL
目つき最悪不眠症王子×息子溺愛パパ医者の、じれキュン異世界BL。本編と、パパの息子である小枝が主役の第二章も完結。姉の子を引き取りパパになった大樹は穴に落ち、息子の小枝が前世で過ごした異世界に転移した。戸惑いながらも、医者の知識と自身の麻酔効果スキル『スリーパー』小枝の清浄化スキル『クリーン』で人助けをするが。ひょんなことから奴隷堕ちしてしまう。医師奴隷として戦場の最前線に送られる大樹と小枝。そこで傷病人を治療しまくっていたが、第二王子ディオンの治療もすることに。だが重度の不眠症だった王子はスリーパーを欲しがり、大樹を所有奴隷にする。大きな身分差の中でふたりは徐々に距離を縮めていくが…。異世界履修済み息子とパパが底辺から抜け出すために頑張ります。大樹は奴隷の身から脱出できるのか? そしてディオンはニコイチ親子を攻略できるのか?
聖獣がなつくのは私だけですよ?
新野乃花(大舟)
恋愛
3姉妹の3女であるエリッサは、生まれた時から不吉な存在だというレッテルを張られ、家族はもちろん周囲の人々からも冷たい扱いを受けていた。そんなある日の事、エリッサが消えることが自分たちの幸せにつながると信じてやまない彼女の家族は、エリッサに強引に家出を強いる形で、自分たちの手を汚すことなく彼女を追い出すことに成功する。…行く当てのないエリッサは死さえ覚悟し、誰も立ち入らない荒れ果てた大地に足を踏み入れる。死神に出会うことを覚悟していたエリッサだったものの、そんな彼女の前に現れたのは、絶大な力をその身に宿す聖獣だった…!
35歳からの楽しいホストクラブ
綺沙きさき(きさきさき)
BL
『35歳、職業ホスト。指名はまだ、ありません――』
35歳で会社を辞めさせられた青葉幸助は、学生時代の後輩の紹介でホストクラブで働くことになったが……――。
慣れないホスト業界や若者たちに戸惑いつつも、35歳のおじさんが新米ホストとして奮闘する物語。
・売れっ子ホスト(22)×リストラされた元リーマン(35)
・のんびり平凡総受け
・攻めは俺様ホストやエリート親友、変人コック、オタク王子、溺愛兄など
※本編では性描写はありません。
(総受けのため、番外編のパラレル設定で性描写ありの小話をのせる予定です)
【完結】飛行機で事故に遭ったら仙人達が存在する異世界に飛んだので、自分も仙人になろうと思います ー何事もやってみなくちゃわからないー
光城 朱純
ファンタジー
空から落ちてる最中の私を助けてくれたのは、超美形の男の人。
誰もいない草原で、私を拾ってくれたのは破壊力抜群のイケメン男子。
私の目の前に現れたのは、サラ艶髪の美しい王子顔。
えぇ?! 私、仙人になれるの?!
異世界に飛んできたはずなのに、何やれば良いかわかんないし、案内する神様も出てこないし。
それなら、仙人になりまーす。
だって、その方が楽しそうじゃない?
辛いことだって、楽しいことが待ってると思えば、何だって乗り越えられるよ。
ケセラセラだ。
私を救ってくれた仙人様は、何だか色々抱えてそうだけど。
まぁ、何とかなるよ。
貴方のこと、忘れたりしないから
一緒に、生きていこう。
表紙はAIによる作成です。
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる