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32.剣術を習いたいそうです

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 ビフロンス侯爵家はお取潰しとなった。巨人族の貴族がいなくなったので、別の家が子爵位を叙爵する。当然、皇帝陛下への叛逆罪でビフロンスは処刑された。といっても、その辺の詳細は皇帝陛下であるエリュの知るところではない。

 主君のために裏で尽力し、根回しして手を汚すのは配下の仕事だった。シェンもこっそり協力している。そのため、他の種族や貴族家から文句はでなかった。

「蛇神様のお言葉ですからね」

 にっこり笑うベリアルは、悪い顔をする。ついでに数件の人身売買や強盗事件が解決したらしく、機嫌がよかった。悪い噂がある貴族は、やはり裏で悪いことをしていた。それだけのことだ。芋づる式に検挙した。

「剣術を習うの!」

 興奮した様子で、えいっと棒で遊ぶエリュが大声で叫んだ。棒を用意したシェンはにこにこと頷く。だがベリアルは危険だからことと主張した。

「まだ早いです」

「もう習ってもいいと思うぞ。嫌ならやめるだろうし」

 シェンは何でもチャレンジさせる派だ。ベリアルは逆に、習うものを選んで用意するタイプだった。真逆の二人だが、この部分で衝突が起きる心配はない。なぜなら、エリュが「習うの!」と叫んだら、それが優先されるからだ。

「ケガをなさったら、大変なことになります」

「僕は一応治癒も出来るし、危険な状態で発動する魔法をかけておくから」

 神が守るから、習わせてくれと言われたら断れない。最終的にベリアルが折れる形となった。教育係は、自動的に将軍職を兼務するリリンとなった。ベリアルも武器を使えるが、基本的に文官として活躍している。

「絶対にケガをさせないように」

「わかってるわ。寸止めは得意なの」

「寸止めでは、間に合わなかった時に大怪我をするでしょう」

 言い争うベリアルとリリンをよそに、シェンは木刀を作っていた。エリュと相談しながら形を変えていく。

「ここは握りやすく、このくらい?」

「ここ、飾りが欲しいの」

「蛇が絡む形はどう」

「ドラゴンさんがいい。蛇さんはこっち」

 エリュの指示に従い、狼やら猫まで装飾されていく。気づけば、棒に大量の動物の模型が付いた奇妙な作品が出来上がっていた。どう見ても、武器には見えない。よくて装飾品だろう。

「うん、これはこれとして。別の木刀を作ろう」

 シェンは黙々と作り始めた。シンプルで振りやすく、だが柄の部分もきっちり丁寧に仕上げる。

「シェン様?」

「ああ、言い争いは終わったか? ベリアルもリリンも忘れているようだが、最初は素振りと体力作りだけだぞ」

「「あ」」

 いきなり実戦形式の模擬戦など出来るわけがない。3歳の幼女が剣術を習うといえば、走って体力をつけたり、木刀を遊びで振り回す程度だ。何をもめる必要があると笑うシェンに、ゲヘナ国の重鎮達は苦笑いした。

 先走りすぎて、模擬戦に突入させるところだった。そう呟くベリアルへ、リリンも肩を竦める。明日から素振りの練習を始めることにして、白いシチューを大量に食べた幼女達は眠りについた。

 今日の読み聞かせは、魔王が救った魔獣の子のお話で……侍女のケイトが「おしまい」まで読み終えたとき、エリュはすでに眠っていた。
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