20 / 128
20.迫り来る危険を甘い匂いで回避
しおりを挟む
手を繋いで街の通りを歩く。幼女二人を微笑ましいと見守る人の視線に混じり、多少危険な雰囲気の眼差しが注がれた。こういった悪意に敏感なシェンは、ベリアルに合図する。頷いたベリアルは数歩下がる。
保護者と距離が離れたフリで、誘い出すことにした。目的は二つ。まず幼女誘拐を目論む輩を排除すること、エリュに危機感を持ってもらうことだ。
魔族にも希少種がおり、子がなかなか生まれない彼らは養子を取ることが多かった。愛らしい姿をした子を誘拐し、そういった種族に高く売りつける輩がいるのだ。少し前に報告が入り、リリンが調査に当たっていた。その話を小耳に挟んだシェンは、犯人を誘い出すつもりでいる。
普通の養子縁組でも謝礼を払うのが一般的な魔族で、愛らしい子ほど高額の謝礼がもらえる確率が高いのも事実だった。
「お姉ちゃん、あっち!」
シェンと呼ぶより、姉と呼ぶのが気に入ったらしい。屋台で売る飴の美しさに、エリュは人々の間を縫うように走る。一直線に向かうエリュと手を繋いだシェンは、器用に人波を泳ぎきった。ベリアルが偶然を装って離れる。完璧だった。
「ちょうちょ、可愛い」
「蝶がいいの? じゃあ僕は花にしようかな」
二人でじっくり飴を選ぶ。店主は慣れているのか、時折視線を寄越すが忙しく手元で飴を練っていた。
「可愛いお嬢ちゃん達だね。買ってあげようか」
人の良さそうな青年が声を掛ける。シェンは迷う様子を見せ誘うが、ここで予想外の動きを見せたのはエリュだった。
「知らない人にもらうのはダメなの」
ぴしゃりと言い切る。侍女達やベリアルの教育の賜物か。思わぬ答えに青年が怯んだところへ、店主が追い討ちをかけた。
「偉いぞ、嬢ちゃん。こっち来い。飴を練るところを見せてやる」
さり気なさを装い、エリュとシェンを屋台の内側へ招き寄せる。まるで孫のように微笑みかけ、飴を作る工程を見せてくれた。諦めたのか、青年が離れるが警備の衛兵に捕まった。あれはベリアルの手配だろう。
「あんたは場慣れしてるな」
ぼそっと店主に話しかけられ、シェンはすっと目を細めた。瞬きの間に、蛇の瞳孔を見せて消し去る。びくりとした店主は、慌てて平静を取り繕った。
「飴なら、そこのをやろう。失敗したからな」
瞳孔を披露した際に滲ませた魔力で、強者だと認識したらしい。だが余計な口を挟まず、店主はエリュに飴を選ばせた。失敗だというが、立派な蝶や花に見える。よく見れば、左右のバランスが悪かったり、色が混じっている部分があった。
「ありがとう。ベルが来たらお金……あっ」
先ほどポシェットに詰め込んだ紙幣を思い出した。無邪気なエリュはポシェットから無造作にお金を掴み出す。それを差し出した。
「ここから取って」
その手を横からシェンが掴んだ。驚いた顔をするエリュへ首を横に振る。
「それはダメ。お店の人がくれると言ったのに、お金を払うのはいけないよ。だからお土産を追加しよう。そちらはお金を払う。でも貰った分はお金を払わない」
ぶつぶつと言葉を繰り返した後、エリュは大きく首を傾けた。耳が肩につきそうなほどに。
「わかんない」
「後で覚えようね。先にお土産を選ぼう」
「うん、選ぶ」
にこにこと店の内側から飴を眺めるエリュの横で、シェンは小声で店主に謝った。
「すまん、この子は物を知らなくて」
「なぁに、子どもなんてそんなもんだ。あんたももう少し気楽にやりなよ」
どこかの貴族の護衛が変身しているとでも思われたのか。苦笑いした店主は失敗作を、くるくると束にして渡した。素直に受け取ると、エリュも同様に飴の束を貰う。
「ありがと!」
満面の笑み、それが一番のお礼だと笑った店主は、練り損ねた大量の飴をこっそり背中に隠した。
保護者と距離が離れたフリで、誘い出すことにした。目的は二つ。まず幼女誘拐を目論む輩を排除すること、エリュに危機感を持ってもらうことだ。
魔族にも希少種がおり、子がなかなか生まれない彼らは養子を取ることが多かった。愛らしい姿をした子を誘拐し、そういった種族に高く売りつける輩がいるのだ。少し前に報告が入り、リリンが調査に当たっていた。その話を小耳に挟んだシェンは、犯人を誘い出すつもりでいる。
普通の養子縁組でも謝礼を払うのが一般的な魔族で、愛らしい子ほど高額の謝礼がもらえる確率が高いのも事実だった。
「お姉ちゃん、あっち!」
シェンと呼ぶより、姉と呼ぶのが気に入ったらしい。屋台で売る飴の美しさに、エリュは人々の間を縫うように走る。一直線に向かうエリュと手を繋いだシェンは、器用に人波を泳ぎきった。ベリアルが偶然を装って離れる。完璧だった。
「ちょうちょ、可愛い」
「蝶がいいの? じゃあ僕は花にしようかな」
二人でじっくり飴を選ぶ。店主は慣れているのか、時折視線を寄越すが忙しく手元で飴を練っていた。
「可愛いお嬢ちゃん達だね。買ってあげようか」
人の良さそうな青年が声を掛ける。シェンは迷う様子を見せ誘うが、ここで予想外の動きを見せたのはエリュだった。
「知らない人にもらうのはダメなの」
ぴしゃりと言い切る。侍女達やベリアルの教育の賜物か。思わぬ答えに青年が怯んだところへ、店主が追い討ちをかけた。
「偉いぞ、嬢ちゃん。こっち来い。飴を練るところを見せてやる」
さり気なさを装い、エリュとシェンを屋台の内側へ招き寄せる。まるで孫のように微笑みかけ、飴を作る工程を見せてくれた。諦めたのか、青年が離れるが警備の衛兵に捕まった。あれはベリアルの手配だろう。
「あんたは場慣れしてるな」
ぼそっと店主に話しかけられ、シェンはすっと目を細めた。瞬きの間に、蛇の瞳孔を見せて消し去る。びくりとした店主は、慌てて平静を取り繕った。
「飴なら、そこのをやろう。失敗したからな」
瞳孔を披露した際に滲ませた魔力で、強者だと認識したらしい。だが余計な口を挟まず、店主はエリュに飴を選ばせた。失敗だというが、立派な蝶や花に見える。よく見れば、左右のバランスが悪かったり、色が混じっている部分があった。
「ありがとう。ベルが来たらお金……あっ」
先ほどポシェットに詰め込んだ紙幣を思い出した。無邪気なエリュはポシェットから無造作にお金を掴み出す。それを差し出した。
「ここから取って」
その手を横からシェンが掴んだ。驚いた顔をするエリュへ首を横に振る。
「それはダメ。お店の人がくれると言ったのに、お金を払うのはいけないよ。だからお土産を追加しよう。そちらはお金を払う。でも貰った分はお金を払わない」
ぶつぶつと言葉を繰り返した後、エリュは大きく首を傾けた。耳が肩につきそうなほどに。
「わかんない」
「後で覚えようね。先にお土産を選ぼう」
「うん、選ぶ」
にこにこと店の内側から飴を眺めるエリュの横で、シェンは小声で店主に謝った。
「すまん、この子は物を知らなくて」
「なぁに、子どもなんてそんなもんだ。あんたももう少し気楽にやりなよ」
どこかの貴族の護衛が変身しているとでも思われたのか。苦笑いした店主は失敗作を、くるくると束にして渡した。素直に受け取ると、エリュも同様に飴の束を貰う。
「ありがと!」
満面の笑み、それが一番のお礼だと笑った店主は、練り損ねた大量の飴をこっそり背中に隠した。
32
お気に入りに追加
925
あなたにおすすめの小説
私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!
りーさん
ファンタジー
ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。
でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。
こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね!
のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
英雄になった夫が妻子と帰還するそうです
白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。
愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。
好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。
今、目の前にいる人は誰なのだろう?
ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。
珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥)
ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。
転生貴族可愛い弟妹連れて開墾します!~弟妹は俺が育てる!~
桜月雪兎
ファンタジー
祖父に勘当された叔父の襲撃を受け、カイト・ランドール伯爵令息は幼い弟妹と幾人かの使用人たちを連れて領地の奥にある魔の森の隠れ家に逃げ込んだ。
両親は殺され、屋敷と人の住まう領地を乗っ取られてしまった。
しかし、カイトには前世の記憶が残っており、それを活用して魔の森の開墾をすることにした。
幼い弟妹をしっかりと育て、ランドール伯爵家を取り戻すために。
気づいたら異世界ライフ、始まっちゃってました!?
飛鳥井 真理
ファンタジー
何だか知らない間に異世界、来ちゃってました…。 どうするのこれ? 武器なしカネなし地図なし、おまけに記憶もなんですけど? 白い部屋にいた貴方っ、神だか邪神だか何だか知りませんけどクーリングオフを要求します!……ダメですかそうですか。
気づいたらエルフとなって異世界にいた女の子が、お金がないお金がないと言いながらも仲間と共に冒険者として生きていきます。
努力すれば必ず報われる優しい世界を、ほんのりコメディ風味も加えて進めていく予定です。
※一応、R15有りとしていますが、軽度の予定です。
※ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
※連載中も随時、加筆・修正をしていきます。(第1話~第161話まで修正済)
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる