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19.いつもより美味しい蜜柑の秘密

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 街の時計塔がある広場に、噴水とベンチがある。大きな噴水の周りに人が座れるようベンチが据え付けられていた。そこへ移動し、エリュとシェンは並んで座る。幼女二人は人目を引いているが、まったく自覚はなかった。

 ベリアルは慣れた様子で、エリュの胸元に大きめのハンカチを付ける。エプロンの代わりだろう。首を傾げて尋ねるベリアルへ、シェンは肩を竦めた。自分だけ付けるのでは、エリュが納得しないだろう。シェンも同じようにハンカチを付けてもらう。

「ベル、黄色いのちょうだい」

 無邪気にエリュは蜜柑を欲しがる。購入した蜜柑を取り出し、幼女二人の膝に置いた。それから手の届く距離に腰掛ける。普段はどうしているのかと見守るシェンの前で、エリュは蜜柑の皮に齧り付いた。

「ちょっ、皮も食べるの?」

「ううん。これを歯で剥くの」

 ちらっと視線を向けると、ベリアルが困ったような顔で頷く。その表情から、ある程度の事情が掴めた。おそらく剥いてもらうのは満足できない。3歳前後なら、さまざまなことを体験したい年頃だろう。普段我慢している分、外へ出ると自由に振る舞いたい。

 実際のところ、体験することは悪くないが……方法が問題だった。少し考えてシェンは提案する。

「こうやって剥いてみようよ」

 魔族の特徴である爪を尖らせて、すすぅと皮に切れ目を入れる。ヘタからシリまで縦に線を引いていく。終わるとその部分をヘタ側から剥いた。

 真剣な目で見ていたエリュは「凄い」と連発して喜ぶ。喜びすぎて手を叩く際、歯形のついた蜜柑が転がりそうになり、シェンが咄嗟に魔法で支えた。真似をするように、エリュが指で縦に蜜柑をなぞる。だが爪ではないので、切れない。

 不思議そうに首を傾げた。

「この蜜柑、できない」

「ちょっと見せて」

 受け取って、爪を使って縦の線を入れた。1本だけにして、残りは魔法で切らずに返す。これはエリュにも楽しんでもらう仕掛けだった。

「真似してね」

 爪を丸くしてから皮に当てて引く。その動きをエリュが真似すると、シェンの魔法ですっと切れた。目を輝かせ、エリュは何本も切れ目を入れる。

 シェンは6本ほどだったが、興奮したエリュは11本も引いた。お陰で短冊状態の皮が出来そうだ。

 シェンがひとつ動作をすると、エリュが隣で真似をする。繰り返しながら皮をすべて剥き終えた。中の果実は甘く熟れて、きらきらと輝いて見える。自分で綺麗に剥けたことが嬉しいエリュは、袋で分かれた蜜柑をひとつ口に入れた。

「いつもより美味しい」

「よかった。上手だね、エリュ」

「うん」

 笑顔を絶やすことなく食べ終え、エリュは残った皮をじっと見つめた。それから口に運ぼうとしたので、ベリアルが止める。

「皮はいつも食べませんよ。どうしました?」

「いつもより甘いから、皮も甘いと思ったの」

 思わぬ答えにシェンは目を丸くし、まだ残っている蜜柑をエリュに分け与えた。

「お姉ちゃんのだよ?」

「僕が剥いた蜜柑だから、エリュに調べて欲しいんだ。エリュのとどちらが甘いかな」

「わかった」

 神妙な顔つきで真剣に味わう姿に、ベリアルも頬を緩めた。違いが分からなくて、もうひとつ食べたエリュが出した結論は「どちらも同じ」。それもひとつの答えだよと褒めて、噴水の水で手を洗った。









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