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18.初めてのお買い物は成功でした
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こっちはお菓子を売ってるお店、お向かいはおもちゃのお店、さらに歩いて角を一つ通り過ぎたら果物のお店。次々と知ってるお店を紹介するエリュは得意げだった。シェンはここ数百年外へ出なかったので、フリではなく本当に知らない。
「いっぱい知ってるね」
「果物のお店のおばさんは、甘い果物を見ただけでわかるの」
「それは凄い」
子どもにとっては魔法と同じ。コツがあって見分けているのだが、そんな野暮は言わない。楽しそうなエリュに相槌を打ち、一緒に走り回った。すぐ後ろを付かず離れずの距離を保ち、ベリアルが追いかける。
「ベルぅ、あれ食べたい」
エリュはいつも通りに強請る。欲しいものがあれば我慢せず言ってください、と彼に言われてたからだ。間違ってはいないが、折角なので買い物体験をさせることに決めた。シェンに手招きされて近づいたベリアルは、彼女に言われるまま紙幣を取り出す。
「こっちに寄越して」
横からシェンが紙幣を掴んだ。この国には貨幣がない。そのため紙幣がすべてだった。小額の紙幣を確認し、シェンは首を傾げる。
「以前と変わらないな」
「価値は百年で1割前後の上下です」
紙幣の価値の差は行ったり来たり、最終的にシェンが知る昔と大差なかった。治世が安定していた証拠だろう。大きな戦や災害があれば、紙幣は数倍単位で価値が変動したはず。納得しながら、紙幣をエリュに渡した。
「これなぁに?」
そこからか。ふふっと笑いながら、シェンがお姉さんぶった口調で教え始めた。
「これはお金、紙幣というの。これと引き換えに果物を貰うんだよ」
「私はこれ、使ったことない。前はどうして果物くれたんだろう」
素直に疑問を口にしたエリュへ、以前はベリアルが払ってくれたことを説明した。真剣に聞いて、頷く。
「わかった、今度は私がやる」
「うん。僕も見てるから頑張って」
気合を入れて紙幣を握る幼女を、果物屋のおばさんが気長に見守ってくれた。急かすでもなく、優しい笑みを浮かべて待つ。心優しく穏やかな住人が多いのは、それだけ政が公正なのだ。さまざまなことを読み取りながら、シェンはエリュの動きに頬を緩める。
「何枚ですか?」
幾らという概念がないので、このお金が何枚必要か尋ねたのだろう。お金を見せて尋ねる。これが治安の悪い国で、同行した大人が近くにいなければ、いいように騙されるカモだった。女性はじっくりお金を見た後、ふふっと笑う。
「何がいくつ欲しいの?」
まずはそこから。金額を聞く前に、何の果物をいくつ食べたいか。購入する数が分からなければ、金額も出ない。きょとんとした後、エリュは悩み始めた。何種類もある果物をじっくり選ぶ。
「この赤いのがケイトのお土産で、こっちの黄色いのを食べる」
「いくつお土産にしようか」
シェンが手助けすると、唸りながら指を折り始めた。どうやら青宮殿の侍女を数え始めたらしい。ちらっと視線を向けると、心得た様子でベリアルが手で示す。
「ケイトと一緒に働いてるのは、5人だって」
「じゃあ、5個?」
惜しい! 片手を開いて、反対の手で指に触りながら数える。
「1、2、3、4、5、でケイトが6」
「6個!」
「よくできました」
褒められて、エリュは笑顔を振りまく。話を聞いていたおばさんが、紅林檎を6個数えて袋に入れた。それから黄色い蜜柑を手に取り、シェンに目配せを寄越す。頷いて、エリュに尋ねた。
「蜜柑はいくつ買う?」
「私、お姉ちゃん、ベリアル。えっと、3個」
おばさんが蜜柑を3個選んだ。慣れた様子で甘い蜜柑を選ぶ姿は、プロだった。それからお金をもう一度見せる。3枚を抜いて、色の違う1枚が返ってきた。
「ありがとう。あれ? 返ってきちゃった」
「お釣りだよ」
説明したら受け取って、お金を全部ポシェットに捩じ込もうとした。苦笑いしながらシェンは、はみ出した紙幣を一緒に押し込む。
エリュは嬉しそうに両手で果物の袋を受け取った。もちろん、すぐにベリアルに渡すことになる。両手が塞がってると蜜柑が食べられないからね。
「いっぱい知ってるね」
「果物のお店のおばさんは、甘い果物を見ただけでわかるの」
「それは凄い」
子どもにとっては魔法と同じ。コツがあって見分けているのだが、そんな野暮は言わない。楽しそうなエリュに相槌を打ち、一緒に走り回った。すぐ後ろを付かず離れずの距離を保ち、ベリアルが追いかける。
「ベルぅ、あれ食べたい」
エリュはいつも通りに強請る。欲しいものがあれば我慢せず言ってください、と彼に言われてたからだ。間違ってはいないが、折角なので買い物体験をさせることに決めた。シェンに手招きされて近づいたベリアルは、彼女に言われるまま紙幣を取り出す。
「こっちに寄越して」
横からシェンが紙幣を掴んだ。この国には貨幣がない。そのため紙幣がすべてだった。小額の紙幣を確認し、シェンは首を傾げる。
「以前と変わらないな」
「価値は百年で1割前後の上下です」
紙幣の価値の差は行ったり来たり、最終的にシェンが知る昔と大差なかった。治世が安定していた証拠だろう。大きな戦や災害があれば、紙幣は数倍単位で価値が変動したはず。納得しながら、紙幣をエリュに渡した。
「これなぁに?」
そこからか。ふふっと笑いながら、シェンがお姉さんぶった口調で教え始めた。
「これはお金、紙幣というの。これと引き換えに果物を貰うんだよ」
「私はこれ、使ったことない。前はどうして果物くれたんだろう」
素直に疑問を口にしたエリュへ、以前はベリアルが払ってくれたことを説明した。真剣に聞いて、頷く。
「わかった、今度は私がやる」
「うん。僕も見てるから頑張って」
気合を入れて紙幣を握る幼女を、果物屋のおばさんが気長に見守ってくれた。急かすでもなく、優しい笑みを浮かべて待つ。心優しく穏やかな住人が多いのは、それだけ政が公正なのだ。さまざまなことを読み取りながら、シェンはエリュの動きに頬を緩める。
「何枚ですか?」
幾らという概念がないので、このお金が何枚必要か尋ねたのだろう。お金を見せて尋ねる。これが治安の悪い国で、同行した大人が近くにいなければ、いいように騙されるカモだった。女性はじっくりお金を見た後、ふふっと笑う。
「何がいくつ欲しいの?」
まずはそこから。金額を聞く前に、何の果物をいくつ食べたいか。購入する数が分からなければ、金額も出ない。きょとんとした後、エリュは悩み始めた。何種類もある果物をじっくり選ぶ。
「この赤いのがケイトのお土産で、こっちの黄色いのを食べる」
「いくつお土産にしようか」
シェンが手助けすると、唸りながら指を折り始めた。どうやら青宮殿の侍女を数え始めたらしい。ちらっと視線を向けると、心得た様子でベリアルが手で示す。
「ケイトと一緒に働いてるのは、5人だって」
「じゃあ、5個?」
惜しい! 片手を開いて、反対の手で指に触りながら数える。
「1、2、3、4、5、でケイトが6」
「6個!」
「よくできました」
褒められて、エリュは笑顔を振りまく。話を聞いていたおばさんが、紅林檎を6個数えて袋に入れた。それから黄色い蜜柑を手に取り、シェンに目配せを寄越す。頷いて、エリュに尋ねた。
「蜜柑はいくつ買う?」
「私、お姉ちゃん、ベリアル。えっと、3個」
おばさんが蜜柑を3個選んだ。慣れた様子で甘い蜜柑を選ぶ姿は、プロだった。それからお金をもう一度見せる。3枚を抜いて、色の違う1枚が返ってきた。
「ありがとう。あれ? 返ってきちゃった」
「お釣りだよ」
説明したら受け取って、お金を全部ポシェットに捩じ込もうとした。苦笑いしながらシェンは、はみ出した紙幣を一緒に押し込む。
エリュは嬉しそうに両手で果物の袋を受け取った。もちろん、すぐにベリアルに渡すことになる。両手が塞がってると蜜柑が食べられないからね。
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