7 / 128
07.男女同衾するなかれ、3歳だよ?
しおりを挟む
我の正体をエリュはすでに知っている。無用な知恵を付けず、この子の自由にさせよ。
蛇神の命令に、二人は静かに頭を下げた。魔族を庇護する神として知られ、この大地に身を沈めていた大いなる存在の言葉に、反論はない。友人としてエウリュアレを守ってくれるなら、これ以上は望めない最高の護衛だった。すでに加護を授けたという蛇神は「シェン」と名乗ることも付け足す。
「今後はシェンと呼べ」
「承知いたしました。陛下のご友人として、お部屋をご用意いたします」
宰相のベリアルの硬い言葉遣いに、シェンは眉を寄せた。その隣で、リリンが続ける。
「シェン様、我が君の……」
「そなたらは、あの子にそのような態度で接しているのか? 距離があり、寂しいであろうに」
すぐ近くのベッドで眠るエリュを見つめ、シェンは悲しそうに呟いた。あの子は、巨大な蛇を見て「お友達」と表現した。誰もが彼女を「皇帝陛下」として接するため、同等の存在が欲しかったのだろう。そこまで考えての行動ではないかも知れない。だが幼子が寂しさを感じていたのは、事実と思われた。
「僕はこれからエリュの親友になる。お前達も気楽に接しろ」
「は、はい」
「頑張りますわ」
砕けた口調で肩を竦める幼子の姿に、二人は苦い感情を噛み殺した。エリュに友人が必要なのは、かねてより気付いていた。子どもは互いに傷つけ合い、許し合って成長する。忙しい二人がその立場にいることは難しかった。
侍女はあくまでも使用人だ。同じ年頃の子どもを探して遊ばせることも考えたが、エリュの特殊性が邪魔をした。両親が存命なら、また対応は違ったのだろう。
「エリュのためだからね」
にこりとシェンは笑った。その表情は幼子らしく屈託ない。
長く過ごした洞窟を出た時、空はすでに夜色だった。濃紺に紫を溶かした空は、明るい月が二つ並ぶ。東から西へ向かう月と、北から南へ移動する月があるのだ。大きさはどちらも変わらないが、東西の月は青白く、南北の月は赤いのが特徴だった。
そのため魔力に準え、南北を「魔の月」東西は「神の月」と呼ぶ。夕食を四人で摂った後、すぐにエリュは眠ってしまった。午後の花摘みからの大冒険は、幼女には過酷だったらしい。
「じゃ、僕も一緒に休むかな」
「お待ちください、一緒に……ですか?」
「お部屋を隣に用意しております。未婚の男女が同衾など許しません」
驚いたリリンの語尾に被せて、ベリアルがピシャリと言い放った。相手が神だろうが、世界の創造主だろうが関係ない。エリュはまだ未婚の幼女なのだ。うっかり誰かに見られて噂になったらどうするのか!
「……3歳でも同衾?」
「何歳でも関係ありません」
ベリアルは、譲らないと強い口調で抗議する。少し考えた後、シェンは笑顔になった。そのまま、着用する服をぺろっと捲る。
「どう、これなら問題ない?」
僕という一人称と、短い髪やきりっとした 顔立ちに騙された。いや、神だから都合よく性別を変化させたのか。ベリアルは苦々しく思いながら、床に目を逸らす。
「女の子だったのね」
リリンはぽんと手を叩いて微笑む。意外と騙されやすいタイプらしい。今後はリリンの言動にも注意が必要だな。甲斐甲斐しいベリアルは、未来の苦労を思って溜め息を吐いた。
「女児なら構いません。途中で性別を変えるのは無しですからね」
一応、言い聞かせてから抱き上げて、ベッドで眠るエリュの隣へ横たえた。
蛇神の命令に、二人は静かに頭を下げた。魔族を庇護する神として知られ、この大地に身を沈めていた大いなる存在の言葉に、反論はない。友人としてエウリュアレを守ってくれるなら、これ以上は望めない最高の護衛だった。すでに加護を授けたという蛇神は「シェン」と名乗ることも付け足す。
「今後はシェンと呼べ」
「承知いたしました。陛下のご友人として、お部屋をご用意いたします」
宰相のベリアルの硬い言葉遣いに、シェンは眉を寄せた。その隣で、リリンが続ける。
「シェン様、我が君の……」
「そなたらは、あの子にそのような態度で接しているのか? 距離があり、寂しいであろうに」
すぐ近くのベッドで眠るエリュを見つめ、シェンは悲しそうに呟いた。あの子は、巨大な蛇を見て「お友達」と表現した。誰もが彼女を「皇帝陛下」として接するため、同等の存在が欲しかったのだろう。そこまで考えての行動ではないかも知れない。だが幼子が寂しさを感じていたのは、事実と思われた。
「僕はこれからエリュの親友になる。お前達も気楽に接しろ」
「は、はい」
「頑張りますわ」
砕けた口調で肩を竦める幼子の姿に、二人は苦い感情を噛み殺した。エリュに友人が必要なのは、かねてより気付いていた。子どもは互いに傷つけ合い、許し合って成長する。忙しい二人がその立場にいることは難しかった。
侍女はあくまでも使用人だ。同じ年頃の子どもを探して遊ばせることも考えたが、エリュの特殊性が邪魔をした。両親が存命なら、また対応は違ったのだろう。
「エリュのためだからね」
にこりとシェンは笑った。その表情は幼子らしく屈託ない。
長く過ごした洞窟を出た時、空はすでに夜色だった。濃紺に紫を溶かした空は、明るい月が二つ並ぶ。東から西へ向かう月と、北から南へ移動する月があるのだ。大きさはどちらも変わらないが、東西の月は青白く、南北の月は赤いのが特徴だった。
そのため魔力に準え、南北を「魔の月」東西は「神の月」と呼ぶ。夕食を四人で摂った後、すぐにエリュは眠ってしまった。午後の花摘みからの大冒険は、幼女には過酷だったらしい。
「じゃ、僕も一緒に休むかな」
「お待ちください、一緒に……ですか?」
「お部屋を隣に用意しております。未婚の男女が同衾など許しません」
驚いたリリンの語尾に被せて、ベリアルがピシャリと言い放った。相手が神だろうが、世界の創造主だろうが関係ない。エリュはまだ未婚の幼女なのだ。うっかり誰かに見られて噂になったらどうするのか!
「……3歳でも同衾?」
「何歳でも関係ありません」
ベリアルは、譲らないと強い口調で抗議する。少し考えた後、シェンは笑顔になった。そのまま、着用する服をぺろっと捲る。
「どう、これなら問題ない?」
僕という一人称と、短い髪やきりっとした 顔立ちに騙された。いや、神だから都合よく性別を変化させたのか。ベリアルは苦々しく思いながら、床に目を逸らす。
「女の子だったのね」
リリンはぽんと手を叩いて微笑む。意外と騙されやすいタイプらしい。今後はリリンの言動にも注意が必要だな。甲斐甲斐しいベリアルは、未来の苦労を思って溜め息を吐いた。
「女児なら構いません。途中で性別を変えるのは無しですからね」
一応、言い聞かせてから抱き上げて、ベッドで眠るエリュの隣へ横たえた。
33
お気に入りに追加
925
あなたにおすすめの小説
私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!
りーさん
ファンタジー
ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。
でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。
こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね!
のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!
英雄になった夫が妻子と帰還するそうです
白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。
愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。
好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。
今、目の前にいる人は誰なのだろう?
ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。
珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥)
ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。
転生貴族可愛い弟妹連れて開墾します!~弟妹は俺が育てる!~
桜月雪兎
ファンタジー
祖父に勘当された叔父の襲撃を受け、カイト・ランドール伯爵令息は幼い弟妹と幾人かの使用人たちを連れて領地の奥にある魔の森の隠れ家に逃げ込んだ。
両親は殺され、屋敷と人の住まう領地を乗っ取られてしまった。
しかし、カイトには前世の記憶が残っており、それを活用して魔の森の開墾をすることにした。
幼い弟妹をしっかりと育て、ランドール伯爵家を取り戻すために。
気づいたら異世界ライフ、始まっちゃってました!?
飛鳥井 真理
ファンタジー
何だか知らない間に異世界、来ちゃってました…。 どうするのこれ? 武器なしカネなし地図なし、おまけに記憶もなんですけど? 白い部屋にいた貴方っ、神だか邪神だか何だか知りませんけどクーリングオフを要求します!……ダメですかそうですか。
気づいたらエルフとなって異世界にいた女の子が、お金がないお金がないと言いながらも仲間と共に冒険者として生きていきます。
努力すれば必ず報われる優しい世界を、ほんのりコメディ風味も加えて進めていく予定です。
※一応、R15有りとしていますが、軽度の予定です。
※ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
※連載中も随時、加筆・修正をしていきます。(第1話~第161話まで修正済)
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない
丙 あかり
ファンタジー
ハミルトン侯爵家のアリスはレノワール王国でも有数の優秀な魔法士で、王立学園卒業後には婚約者である王太子との結婚が決まっていた。
しかし、王立学園の卒業記念パーティーの日、アリスは王太子から婚約破棄を言い渡される。
王太子が寵愛する伯爵令嬢にアリスが嫌がらせをし、さらに魔法士としては禁忌である『魔法を使用した通貨偽造』という理由で。
身に覚えがないと言うアリスの言葉に王太子は耳を貸さず、国外追放を言い渡す。
翌日、アリスは実父を頼って隣国・グランディエ帝国へ出発。
パーティーでアリスを助けてくれた帝国の貴族・エリックも何故か同行することに。
祖父のハミルトン侯爵は爵位を返上して王都から姿を消した。
アリスを追い出せたと喜ぶ王太子だが、激怒した国王に吹っ飛ばされた。
「この馬鹿息子が!お前は帝国を敵にまわすつもりか!!」
一方、帝国で仰々しく迎えられて困惑するアリスは告げられるのだった。
「さあ、貴女のお父君ーー皇帝陛下のもとへお連れ致しますよ、お姫様」と。
******
週3日更新です。
ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します
たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』
*書籍化2024年9月下旬発売
※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。
彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?!
王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。
しかも、私……ざまぁ対象!!
ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!!
※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。
感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる