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05.お友達が空いてるから、そこでいい?

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 開いたのは大きな瞳だった。その大きさはエリュの両手を広げた程あり、幼子は凄いと呟く。

「大きいねぇ」

「ふむ。まだ子ども……それも生まれたてではないか」

「エリュはね、もう3歳だよ」

 自分で立てる。そう言って起き上がり、尻餅をついたお尻の汚れを払った。手も叩いて埃を落とし、期待の眼差しを向ける。いつもならここでベリアルやリリンが褒めてくれるのだが……。

 大きな生き物は目を細めただけだった。不満で、唇がちょっと尖る。でもちょっとだけだから、とエリュは言い訳した。こうやって唇を尖らせると、お行儀が悪いんだって。

「エリュとやら。どこから入ってきた?」

 再び尋ねる巨大生物の前で、エリュは思い出せる限りを話した。優しい二人にお花をあげたいと思ったこと。青いアリスターではなく、薔薇を選んで侍女に切ってもらったこと。その横に咲いていた黄色い花を掴んだら転がって、頭を打ったこと。痛かったけど泣かなかったことまで。

 途中で話が脱線し、痛くても泣かないことがどれだけ素晴らしいかで話を締め括った。

「なるほど、エリュは頑張った偉い子なのだね」

「うん」

 褒められることに慣れた幼女は、素直に頷いた。大きく頭が揺れると、薄暗い中でも髪色が光を弾く。その様子に目を細め、大きな影は思わぬことを口にした。

「懐かしい。その髪色はアドラメレクと同じ、瞳もフルーレティにそっくりじゃないか」

 突然聞こえた父と母の名に、ぱちくりと瞬いたエリュはにっこりと笑った。己の立場をまだ理解出来ぬからこそ、あっさりと正体をバラしてしまう。

「パパとママを知ってるの?」

「おやおや。本当にあの二人の子かい? ならばアドラメレクを呼び出すとしようか」

「パパもママも、もういないよ」

 死んだと聞かされていない幼女は、もういないと認識していた。呼んでも会えないし、泣いても抱っこしてくれない。そのことだけ理解していた。泣かないエリュの様子に察した生き物は、ぐぐっと身を起こした。巨大すぎて全容が掴めない体が、洞窟を壊していく。

 ばらばらと落ちる欠片から庇いながら、巨体は身を起こした。日の光が差し込み、明るくなった元洞窟内に座っていたのは――見上げる程の大きな蛇。

「そなたの父と母の親友じゃ。今後はそなたの後見人となろうほどに」

 言い回しがよくわからないエリュは首を傾げ、素直に問い返す。

「なろうほどって何?」

「ほっほっほ。これは簡潔に話さねばならぬなぁ。エリュの親代わりをする約束だ」

 うーんと考える。エリュにとって、父と母はよく覚えていない人達だ。優しく抱っこするのはリリンの腕だし、絵本を読んだり寝かしつける人はベリアルだった。だから他に欲しいのは……そうだ!

「あのね、ベリァルとリリンがいるから……お友達が空いてるの。お友達して?」

 絵本でお友達という存在は知っている。いろいろと話したり出来る相手で、一緒に遊んだりする存在だ。でもエリュの周囲には大人ばかりで、一緒に遊べる人はいなかった。侍女も遊んでくれるけど、長くて疲れる言葉を使う。

 断られるなんて考えもしない幼子の視線を受けて、蛇はしばらく固まった。それからするすると小さくなり、人の形を作る。出来るだけエリュの大きさに近づけて、手足を短く、頭を大きく。己の体を作り替えて、蛇は笑った。

「いいよ、仲良くしよう。僕の名前は――」
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