43 / 58
43.晩餐会はいろいろ台無しだった
しおりを挟む
長細いテーブルの端と端で食事するのかと思ったら、奥の一角に纏まってセッティングがされていた。嫌そうに鼻に皺を寄せるシルは、吠える直前の犬だった。
「シル、下ろして頂戴」
「ダメだ」
上座に第一王子と王子妃の席が、向かいに私とシルの席が用意されている。お分かりかしら。私と第一王子、王子妃とシルが向かい合う形よ。男性と女性を交互に座らせるのは分かるし、第一王子が最上位の位置に座るから、こうなったのかな。考えながら座ろうとしたら、シルが笑顔で自分の席に座った。
……私を抱いたまま。つまり私は王子妃殿下の正面で、横抱きにされるという、なんとも複雑な形になった。王子妃にそっぽ向くのは失礼だけど、膝に座らされると横向きなのよ。
「シル、いい加減になさい。下ろして」
「ダメ。さっき悪い言葉を使った罰だよ」
罰なの? あなたにとっては褒美じゃない! むっとした私が暗器へ手を伸ばすが、その前にからりと明るく笑う第一王子が口を挟んだ。
「いいよ、好きにして」
驚いて目を見開く侍従に合図し、長椅子を用意させる。届いた椅子を確認し、シルはすっと立ち上がった。やっぱり私を抱いたまま。おかしいわ、米俵を担いでスクワットするくらい、辛いと思うんだけど。うっとりしてるなんて。
豪華な調度品や美しい食器、見事に磨かれたカトラリーの輝きも目に入らなかった。王子妃は柔らかな微笑みを浮かべる茶髪の美人。紅茶のような赤茶色の髪は、丁寧に編み込まれている。
「挨拶なら気になさらないで。女性は男性の我が侭に寛大な方が、幸せになれますわ」
お言葉ですが、これ以上寛大にしたら何されるか。本気で命と監禁の心配が必要なんですのよ。そう言いたい口元がひくひくと動くが、根性で耐え切った。たぶん、理解してもらえない。
「ありがとうございます」
曖昧に誤魔化す。シルは私を膝に座らせて、長椅子に陣取った。王族との晩餐会で、幼子でもないのに長椅子で横抱きなんて、私が初めてでしょうね。ある意味、歴史に名を残しちゃうわ。
「では始めようか」
第一王子の合図で、料理が運ばれてくる。ところで、この王子の名前、なんだったかしら。貴族名鑑で覚えた気がするんだけど、忘れた。名を呼ばずに「殿下」で通過しようと心に決める。
スープを掬った夫は、平然と「あーん」を強要してきた。ここで羞恥プレイなの? 目の前にいるのは王族よ? 目で問うが、シルは機嫌が直って笑顔を振り撒く。仕方なく口を開けた。高価なドレスがシミだらけになっても、知らないんだからね。
「隣に座って食べたいわ。じゃないと、あなたが食べられないでしょう? シル」
それっぽい理由を付けて、小首を傾げる。耳が赤くなったシルの唇が「レティが俺の心配を?」と呟く。大きく頷いて「ええ、あなたも同じものを食べて欲しいの」とバカップルの甘い砂糖菓子に似たセリフを吐いた。
「シル、下ろして頂戴」
「ダメだ」
上座に第一王子と王子妃の席が、向かいに私とシルの席が用意されている。お分かりかしら。私と第一王子、王子妃とシルが向かい合う形よ。男性と女性を交互に座らせるのは分かるし、第一王子が最上位の位置に座るから、こうなったのかな。考えながら座ろうとしたら、シルが笑顔で自分の席に座った。
……私を抱いたまま。つまり私は王子妃殿下の正面で、横抱きにされるという、なんとも複雑な形になった。王子妃にそっぽ向くのは失礼だけど、膝に座らされると横向きなのよ。
「シル、いい加減になさい。下ろして」
「ダメ。さっき悪い言葉を使った罰だよ」
罰なの? あなたにとっては褒美じゃない! むっとした私が暗器へ手を伸ばすが、その前にからりと明るく笑う第一王子が口を挟んだ。
「いいよ、好きにして」
驚いて目を見開く侍従に合図し、長椅子を用意させる。届いた椅子を確認し、シルはすっと立ち上がった。やっぱり私を抱いたまま。おかしいわ、米俵を担いでスクワットするくらい、辛いと思うんだけど。うっとりしてるなんて。
豪華な調度品や美しい食器、見事に磨かれたカトラリーの輝きも目に入らなかった。王子妃は柔らかな微笑みを浮かべる茶髪の美人。紅茶のような赤茶色の髪は、丁寧に編み込まれている。
「挨拶なら気になさらないで。女性は男性の我が侭に寛大な方が、幸せになれますわ」
お言葉ですが、これ以上寛大にしたら何されるか。本気で命と監禁の心配が必要なんですのよ。そう言いたい口元がひくひくと動くが、根性で耐え切った。たぶん、理解してもらえない。
「ありがとうございます」
曖昧に誤魔化す。シルは私を膝に座らせて、長椅子に陣取った。王族との晩餐会で、幼子でもないのに長椅子で横抱きなんて、私が初めてでしょうね。ある意味、歴史に名を残しちゃうわ。
「では始めようか」
第一王子の合図で、料理が運ばれてくる。ところで、この王子の名前、なんだったかしら。貴族名鑑で覚えた気がするんだけど、忘れた。名を呼ばずに「殿下」で通過しようと心に決める。
スープを掬った夫は、平然と「あーん」を強要してきた。ここで羞恥プレイなの? 目の前にいるのは王族よ? 目で問うが、シルは機嫌が直って笑顔を振り撒く。仕方なく口を開けた。高価なドレスがシミだらけになっても、知らないんだからね。
「隣に座って食べたいわ。じゃないと、あなたが食べられないでしょう? シル」
それっぽい理由を付けて、小首を傾げる。耳が赤くなったシルの唇が「レティが俺の心配を?」と呟く。大きく頷いて「ええ、あなたも同じものを食べて欲しいの」とバカップルの甘い砂糖菓子に似たセリフを吐いた。
13
お気に入りに追加
1,210
あなたにおすすめの小説
【1章完結】経験値貸与はじめました!〜但し利息はトイチです。追放された元PTメンバーにも貸しており取り立てはもちろん容赦しません〜
コレゼン
ファンタジー
冒険者のレオンはダンジョンで突然、所属パーティーからの追放を宣告される。
レオンは経験値貸与というユニークスキルを保持しており、パーティーのメンバーたちにレオンはそれぞれ1000万もの経験値を貸与している。
そういった状況での突然の踏み倒し追放宣言だった。
それにレオンはパーティーメンバーに経験値を多く貸与している為、自身は20レベルしかない。
適正レベル60台のダンジョンで追放されては生きては帰れないという状況だ。
パーティーメンバーたち全員がそれを承知の追放であった。
追放後にパーティーメンバーたちが去った後――
「…………まさか、ここまでクズだとはな」
レオンは保留して溜めておいた経験値500万を自分に割り当てると、一気に71までレベルが上がる。
この経験値貸与というスキルを使えば、利息で経験値を自動で得られる。
それにこの経験値、貸与だけでなく譲渡することも可能だった。
利息で稼いだ経験値を譲渡することによって金銭を得ることも可能だろう。
また経験値を譲渡することによってゆくゆくは自分だけの選抜した最強の冒険者パーティーを結成することも可能だ。
そしてこの経験値貸与というスキル。
貸したものは経験値や利息も含めて、強制執行というサブスキルで強制的に返済させられる。
これは経験値貸与というスキルを授かった男が、借りた経験値やお金を踏み倒そうとするものたちに強制執行ざまぁをし、冒険者メンバーを選抜して育成しながら最強最富へと成り上がっていく英雄冒険譚。
※こちら小説家になろうとカクヨムにも投稿しております
ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む
紫楼
ファンタジー
酔っ払って寝て起きたらなんか手が小さい。びっくりしてベットから落ちて今の自分の情報と前の自分の記憶が一気に脳内を巡ってそのまま気絶した。
私は放置された16歳の少女リーシャに転生?してた。自分の状況を理解してすぐになぜか王様の命令で辺境にお嫁に行くことになったよ!
辺境はイケメンマッチョパラダイス!!だったので天国でした!
食べ物が美味しくない国だったので好き放題食べたい物作らせて貰える環境を与えられて幸せです。
もふもふ?に出会ったけどなんか違う!?
もふじゃない爺と契約!?とかなんだかなーな仲間もできるよ。
両親のこととかリーシャの真実が明るみに出たり、思わぬ方向に物事が進んだり?
いつかは立派な辺境伯夫人になりたいリーシャの日常のお話。
主人公が結婚するんでR指定は保険です。外見とかストーリー的に身長とか容姿について表現があるので不快になりそうでしたらそっと閉じてください。完全な性表現は書くの苦手なのでほぼ無いとは思いますが。
倫理観論理感の強い人には向かないと思われますので、そっ閉じしてください。
小さい見た目のお転婆さんとか書きたかっただけのお話。ふんわり設定なので軽ーく受け流してください。
描写とか適当シーンも多いので軽く読み流す物としてお楽しみください。
タイトルのついた分は少し台詞回しいじったり誤字脱字の訂正が済みました。
多少表現が変わった程度でストーリーに触る改稿はしてません。
カクヨム様にも載せてます。
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
あなたが私を愛さないとおっしゃるのなら、いっそこのまま殺してくださいませ
石河 翠
恋愛
小国の王女であるカレンは妹に婚約者を奪われ、婚約を破棄されてしまう。それはカレンにとって二度目の裏切りだった。実は婚約者は前世の恋人で、その時も妹に寝取られていたのだ。
愛を伝えれば愛が重いと言われ、控えめに過ごせば自分に興味がないのだろうとなじられる。うんざりした彼女は、新たな嫁ぎ先である魔王相手に先制パンチを食らわせることにした。
お飾りの妻なんてまっぴらごめんだ。愛されないならいっそ死んでやる!
メンヘラ全開で啖呵を切ったはすなのに、なぜか相手の反応はカレンの想像とは異なっていて……。
愛が重い一途なヒロインと、彼女の幸せを見届けたい拗らせヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:208733)をお借りしています。
完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!
音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。
頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。
都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。
「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」
断末魔に涙した彼女は……
転移先は薬師が少ない世界でした
饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。
神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。
職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。
神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。
街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。
薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。
試される愛の果て
野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。
スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、
8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。
8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。
その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、
それは喜ぶべき縁談ではなかった。
断ることなったはずが、相手と関わることによって、
知りたくもない思惑が明らかになっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる