33 / 58
33.俺の大切なお姫様だ――SIDEシル
しおりを挟む
何度も自分から言おうとした。気づいて欲しい、でも気づかれたくない。相反する気持ちが口を重くする。
大切なお姫様だ。前世でも守った。あの日のことは今も忘れられない記憶だ。出会いは両親の交流だった。母の親友の娘ヒメミに、俺は一目惚れする。可愛くて愛おしくて、常に見守るために大学も変更した。都会の専門学校を選んだヒメミを守るため、俺も近くの大学に通う。
有名大学のひとつだったので、両親も反対しなかった。大学の授業は最低限こなし、空いた時間のすべてをヒメミのために費やした。彼女の欲しがった限定品を手に入れ、望むイベントのチケットを予約した。
幸いにして俺は親達の信頼が厚い。地元の名士の跡取りで、見た目も悪くない。ヒメミも俺に好意的だった。一人暮らしの彼女の面倒を見てあげるよう言われ、彼女の母親から部屋の鍵をもらう。これが一つのきっかけだった。
初めて足を踏み入れた彼女のアパートが、魅力的過ぎたのだ。落ちた髪を拾い、交換した歯ブラシをコレクションし、彼女の捨てたゴミを確認した。好みを把握し、徐々に距離を詰める。世間ではストーカーと呼ぶらしいが、俺は彼女を守る騎士だ。
いつも通り尾行する俺は、周囲の異変に気づくのが遅れた。夢中になってヒメミを見ていたせいだろう。前方からナイフを翳して駆け寄る不審者に、ヒメミが甲高い悲鳴をあげた。背を向けて逃げ出した彼女の背に、振り上げられた銀の凶刃が迫る。
「危ない!」
咄嗟に飛び出し、彼女の手を掴んで抱き締めた。間に合わず、ヒメミの肩を刃が掠める。ぱっと赤い血が散った。
「痛っ、タカシ、兄さん?」
「すぐに逃げるんだ」
彼女を背に庇った俺は、かなり頑張ったと思う。すぐに到着すると踏んだ警察は姿もなく、あっという間に全身が痛みと血で覆われた。がくりと膝をついた俺は、殺されるだろう。それでも満足していた。
大切なヒメミを守れたから。これからを見守れないのは残念だが……。俺が思うより彼女は強かった。少し離れた店舗から拝借した傘を手に、俺を助けようと走ってくる。ダメだ。そう叫んだ声は悲鳴に変わった。目の前で傷つけられたヒメミを抱き締め、全身で包む。
背中に、脇腹に、激痛と衝撃が走った。それでも両手は緩めない。腕の中で痛みに泣く彼女を、これ以上傷つけさせないために。
記憶はそこで途切れる。目が覚めた時、俺は世界も器も変わっていた。見慣れた黒髪なのに青い瞳、何より年齢が幼い。10歳前後か。異世界に転生の小説は、ヒメミの部屋でいくつか読んだ。彼女の好みなのか、時折強烈な内容の小説もあったが。
貴族階級に馴染みがない日本人としての違和感より、居心地の良さに環境へ順応した。権力と財力で、人を思うがままに扱うことが可能な世界だ。あの通り魔事件で俺が死んだなら、ヒメミは助かっただろうか。
もし彼女が亡くなっていたら、同じ世界にくる可能性が高い。婚約者を作らず、ヒメミを探し続けた。その甲斐あって、裏路地で見つける。眩しい素足を晒して、俺を魅了した。
シモン侯爵令嬢レオンティーヌは、俺の大切なヒメミだ。俺が間違うはずはない。ようやく手に入れたのだ。二度と離さない。記憶はなくて構わなかった。新しく思い出を重ねていこう。
――前世から、愛してるよ。
大切なお姫様だ。前世でも守った。あの日のことは今も忘れられない記憶だ。出会いは両親の交流だった。母の親友の娘ヒメミに、俺は一目惚れする。可愛くて愛おしくて、常に見守るために大学も変更した。都会の専門学校を選んだヒメミを守るため、俺も近くの大学に通う。
有名大学のひとつだったので、両親も反対しなかった。大学の授業は最低限こなし、空いた時間のすべてをヒメミのために費やした。彼女の欲しがった限定品を手に入れ、望むイベントのチケットを予約した。
幸いにして俺は親達の信頼が厚い。地元の名士の跡取りで、見た目も悪くない。ヒメミも俺に好意的だった。一人暮らしの彼女の面倒を見てあげるよう言われ、彼女の母親から部屋の鍵をもらう。これが一つのきっかけだった。
初めて足を踏み入れた彼女のアパートが、魅力的過ぎたのだ。落ちた髪を拾い、交換した歯ブラシをコレクションし、彼女の捨てたゴミを確認した。好みを把握し、徐々に距離を詰める。世間ではストーカーと呼ぶらしいが、俺は彼女を守る騎士だ。
いつも通り尾行する俺は、周囲の異変に気づくのが遅れた。夢中になってヒメミを見ていたせいだろう。前方からナイフを翳して駆け寄る不審者に、ヒメミが甲高い悲鳴をあげた。背を向けて逃げ出した彼女の背に、振り上げられた銀の凶刃が迫る。
「危ない!」
咄嗟に飛び出し、彼女の手を掴んで抱き締めた。間に合わず、ヒメミの肩を刃が掠める。ぱっと赤い血が散った。
「痛っ、タカシ、兄さん?」
「すぐに逃げるんだ」
彼女を背に庇った俺は、かなり頑張ったと思う。すぐに到着すると踏んだ警察は姿もなく、あっという間に全身が痛みと血で覆われた。がくりと膝をついた俺は、殺されるだろう。それでも満足していた。
大切なヒメミを守れたから。これからを見守れないのは残念だが……。俺が思うより彼女は強かった。少し離れた店舗から拝借した傘を手に、俺を助けようと走ってくる。ダメだ。そう叫んだ声は悲鳴に変わった。目の前で傷つけられたヒメミを抱き締め、全身で包む。
背中に、脇腹に、激痛と衝撃が走った。それでも両手は緩めない。腕の中で痛みに泣く彼女を、これ以上傷つけさせないために。
記憶はそこで途切れる。目が覚めた時、俺は世界も器も変わっていた。見慣れた黒髪なのに青い瞳、何より年齢が幼い。10歳前後か。異世界に転生の小説は、ヒメミの部屋でいくつか読んだ。彼女の好みなのか、時折強烈な内容の小説もあったが。
貴族階級に馴染みがない日本人としての違和感より、居心地の良さに環境へ順応した。権力と財力で、人を思うがままに扱うことが可能な世界だ。あの通り魔事件で俺が死んだなら、ヒメミは助かっただろうか。
もし彼女が亡くなっていたら、同じ世界にくる可能性が高い。婚約者を作らず、ヒメミを探し続けた。その甲斐あって、裏路地で見つける。眩しい素足を晒して、俺を魅了した。
シモン侯爵令嬢レオンティーヌは、俺の大切なヒメミだ。俺が間違うはずはない。ようやく手に入れたのだ。二度と離さない。記憶はなくて構わなかった。新しく思い出を重ねていこう。
――前世から、愛してるよ。
3
お気に入りに追加
1,210
あなたにおすすめの小説
【1章完結】経験値貸与はじめました!〜但し利息はトイチです。追放された元PTメンバーにも貸しており取り立てはもちろん容赦しません〜
コレゼン
ファンタジー
冒険者のレオンはダンジョンで突然、所属パーティーからの追放を宣告される。
レオンは経験値貸与というユニークスキルを保持しており、パーティーのメンバーたちにレオンはそれぞれ1000万もの経験値を貸与している。
そういった状況での突然の踏み倒し追放宣言だった。
それにレオンはパーティーメンバーに経験値を多く貸与している為、自身は20レベルしかない。
適正レベル60台のダンジョンで追放されては生きては帰れないという状況だ。
パーティーメンバーたち全員がそれを承知の追放であった。
追放後にパーティーメンバーたちが去った後――
「…………まさか、ここまでクズだとはな」
レオンは保留して溜めておいた経験値500万を自分に割り当てると、一気に71までレベルが上がる。
この経験値貸与というスキルを使えば、利息で経験値を自動で得られる。
それにこの経験値、貸与だけでなく譲渡することも可能だった。
利息で稼いだ経験値を譲渡することによって金銭を得ることも可能だろう。
また経験値を譲渡することによってゆくゆくは自分だけの選抜した最強の冒険者パーティーを結成することも可能だ。
そしてこの経験値貸与というスキル。
貸したものは経験値や利息も含めて、強制執行というサブスキルで強制的に返済させられる。
これは経験値貸与というスキルを授かった男が、借りた経験値やお金を踏み倒そうとするものたちに強制執行ざまぁをし、冒険者メンバーを選抜して育成しながら最強最富へと成り上がっていく英雄冒険譚。
※こちら小説家になろうとカクヨムにも投稿しております
ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む
紫楼
ファンタジー
酔っ払って寝て起きたらなんか手が小さい。びっくりしてベットから落ちて今の自分の情報と前の自分の記憶が一気に脳内を巡ってそのまま気絶した。
私は放置された16歳の少女リーシャに転生?してた。自分の状況を理解してすぐになぜか王様の命令で辺境にお嫁に行くことになったよ!
辺境はイケメンマッチョパラダイス!!だったので天国でした!
食べ物が美味しくない国だったので好き放題食べたい物作らせて貰える環境を与えられて幸せです。
もふもふ?に出会ったけどなんか違う!?
もふじゃない爺と契約!?とかなんだかなーな仲間もできるよ。
両親のこととかリーシャの真実が明るみに出たり、思わぬ方向に物事が進んだり?
いつかは立派な辺境伯夫人になりたいリーシャの日常のお話。
主人公が結婚するんでR指定は保険です。外見とかストーリー的に身長とか容姿について表現があるので不快になりそうでしたらそっと閉じてください。完全な性表現は書くの苦手なのでほぼ無いとは思いますが。
倫理観論理感の強い人には向かないと思われますので、そっ閉じしてください。
小さい見た目のお転婆さんとか書きたかっただけのお話。ふんわり設定なので軽ーく受け流してください。
描写とか適当シーンも多いので軽く読み流す物としてお楽しみください。
タイトルのついた分は少し台詞回しいじったり誤字脱字の訂正が済みました。
多少表現が変わった程度でストーリーに触る改稿はしてません。
カクヨム様にも載せてます。
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
あなたが私を愛さないとおっしゃるのなら、いっそこのまま殺してくださいませ
石河 翠
恋愛
小国の王女であるカレンは妹に婚約者を奪われ、婚約を破棄されてしまう。それはカレンにとって二度目の裏切りだった。実は婚約者は前世の恋人で、その時も妹に寝取られていたのだ。
愛を伝えれば愛が重いと言われ、控えめに過ごせば自分に興味がないのだろうとなじられる。うんざりした彼女は、新たな嫁ぎ先である魔王相手に先制パンチを食らわせることにした。
お飾りの妻なんてまっぴらごめんだ。愛されないならいっそ死んでやる!
メンヘラ全開で啖呵を切ったはすなのに、なぜか相手の反応はカレンの想像とは異なっていて……。
愛が重い一途なヒロインと、彼女の幸せを見届けたい拗らせヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:208733)をお借りしています。
完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!
音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。
頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。
都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。
「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」
断末魔に涙した彼女は……
転移先は薬師が少ない世界でした
饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。
神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。
職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。
神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。
街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。
薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。
試される愛の果て
野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。
スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、
8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。
8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。
その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、
それは喜ぶべき縁談ではなかった。
断ることなったはずが、相手と関わることによって、
知りたくもない思惑が明らかになっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる