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20.今は逃げずに時間稼ぎの時よ
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ぐっすり眠って目が覚めると……部屋の模様替えが終わっていた。いえ、そんなレベルじゃないわ。部屋自体が違う。今まではシルの部屋を改造して監禁したのに、別の部屋だった。窓は明かり取りを兼ねて大きいけど、小鳥が止まる世界樹の芸術的な鉄格子に変わった。
ベッドの大きさが5割増しになり、クローゼットのあった西側に扉がある。怠い体を起こして開けたら、シルが仕事をしていた。書斎みたいな部屋は、おそらく執務用ね。お父様の執務室によく似ていた。
「起きたのか! レティ」
心配したよと言いながら抱き締めに来るので、目の前でぴしゃんと扉を閉めた。大きく溜め息を吐き、扉のノブをしっかり握る。押して開く扉だったから、体重をかけて引っ張った。
「開けて、レティ。恥ずかしがらなくていい」
「恥ずかしくないけど開けないわ」
バッタンバッタンと音を立て、攻防戦は続く。扉が悲鳴を上げた。蝶番が嫌な音を立てて、吹き飛ぶ……やだ、実家よりヤワな金具ね。
すぐに後ずさり、鞭を探して……太腿を撫でる手が止まった。しまった、何も武器がない!
「寝ている間に部屋を移動したから怒っているのか? ここは我が家で最も安全な部屋だよ」
「近づかないで」
「お預けかい?」
攻略対象として選ばれる整った顔が、きらきらと輝きを増す。放置プレイに喜ぶなんて、犬以下じゃないの。でも可愛いんだけど……気の迷いと己の思い違いを正す。可愛くなんてないわ、ストーカー監禁惨殺男よ?
自分に言い聞かせたが、ひとまず息を吐き出す。ゆっくり吸って気持ちを落ち着けた。待って、ストーカー監禁は現行犯だけど、惨殺はまだ未遂よ。このまま未遂で終わらせなきゃいけないわ。
「待てが出来るの?」
「レティのためなら頑張るよ。ちゃんと褒美をくれるなら」
「……分かったわ」
歩み寄る姿勢を見せる。油断させてから逃げるなり、上下関係を入れ替える必要があるわ。ヒロインの情報が入るまで、何としても惨殺は回避しなくちゃ。今の様子を見る限り、逆鱗に触れなければ平気ね。ヤンデレ男の逆鱗は、おそらく私の逃走だわ。
逃げて捕まるのが最悪のシナリオで、逃げられないよう足を切られたり殺される可能性が高くなる。だったら大人しくして、時間稼ぎをしましょう。大丈夫、前世の知識があるんだもの。このゲームの勝者は私よ。
言い聞かせて笑顔を浮かべた。実家で下僕にした騎士と同じように扱えばいい。私の得意分野じゃない。
「レティ?」
「お仕事は終わったのかしら」
「ああ、今日の分は終わった。今手掛けているのは、明日以降でも間に合う案件ばかりだ」
「なら……おいでなさい。ご褒美をあげるわ」
手招きしてベッドに腰掛け、足を組む。室内用の布靴を引っ掛けた足をぶらりと揺らせば、シルは大喜びで足下に座った。公爵家の次期当主としてどうなのかしら。いつ性癖に目覚めたのか知らないけど、ご両親は知らないんでしょうね。
「いいのか?」
「ええ」
恭しく靴を脱がせ、足に口付ける。部屋に侍女がいないのが幸いだわね。見ていてもロザリーは気にしないかな。撫でるように手を滑らせ、膝まで来ると指が戻っていく。丹念に口付けて撫で回す夫を見下ろしながら、ほんの僅かな危機感を覚えた。
先日の指を舐め回した時より、手が上に伸びる気がするのよ。乙女のピンチだわ。
ベッドの大きさが5割増しになり、クローゼットのあった西側に扉がある。怠い体を起こして開けたら、シルが仕事をしていた。書斎みたいな部屋は、おそらく執務用ね。お父様の執務室によく似ていた。
「起きたのか! レティ」
心配したよと言いながら抱き締めに来るので、目の前でぴしゃんと扉を閉めた。大きく溜め息を吐き、扉のノブをしっかり握る。押して開く扉だったから、体重をかけて引っ張った。
「開けて、レティ。恥ずかしがらなくていい」
「恥ずかしくないけど開けないわ」
バッタンバッタンと音を立て、攻防戦は続く。扉が悲鳴を上げた。蝶番が嫌な音を立てて、吹き飛ぶ……やだ、実家よりヤワな金具ね。
すぐに後ずさり、鞭を探して……太腿を撫でる手が止まった。しまった、何も武器がない!
「寝ている間に部屋を移動したから怒っているのか? ここは我が家で最も安全な部屋だよ」
「近づかないで」
「お預けかい?」
攻略対象として選ばれる整った顔が、きらきらと輝きを増す。放置プレイに喜ぶなんて、犬以下じゃないの。でも可愛いんだけど……気の迷いと己の思い違いを正す。可愛くなんてないわ、ストーカー監禁惨殺男よ?
自分に言い聞かせたが、ひとまず息を吐き出す。ゆっくり吸って気持ちを落ち着けた。待って、ストーカー監禁は現行犯だけど、惨殺はまだ未遂よ。このまま未遂で終わらせなきゃいけないわ。
「待てが出来るの?」
「レティのためなら頑張るよ。ちゃんと褒美をくれるなら」
「……分かったわ」
歩み寄る姿勢を見せる。油断させてから逃げるなり、上下関係を入れ替える必要があるわ。ヒロインの情報が入るまで、何としても惨殺は回避しなくちゃ。今の様子を見る限り、逆鱗に触れなければ平気ね。ヤンデレ男の逆鱗は、おそらく私の逃走だわ。
逃げて捕まるのが最悪のシナリオで、逃げられないよう足を切られたり殺される可能性が高くなる。だったら大人しくして、時間稼ぎをしましょう。大丈夫、前世の知識があるんだもの。このゲームの勝者は私よ。
言い聞かせて笑顔を浮かべた。実家で下僕にした騎士と同じように扱えばいい。私の得意分野じゃない。
「レティ?」
「お仕事は終わったのかしら」
「ああ、今日の分は終わった。今手掛けているのは、明日以降でも間に合う案件ばかりだ」
「なら……おいでなさい。ご褒美をあげるわ」
手招きしてベッドに腰掛け、足を組む。室内用の布靴を引っ掛けた足をぶらりと揺らせば、シルは大喜びで足下に座った。公爵家の次期当主としてどうなのかしら。いつ性癖に目覚めたのか知らないけど、ご両親は知らないんでしょうね。
「いいのか?」
「ええ」
恭しく靴を脱がせ、足に口付ける。部屋に侍女がいないのが幸いだわね。見ていてもロザリーは気にしないかな。撫でるように手を滑らせ、膝まで来ると指が戻っていく。丹念に口付けて撫で回す夫を見下ろしながら、ほんの僅かな危機感を覚えた。
先日の指を舐め回した時より、手が上に伸びる気がするのよ。乙女のピンチだわ。
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