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18.学院でヒロインと出会うんじゃなかった?

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 義父が家督を譲りたいと言い出し、シルが拒否した話を侍女伝いに聞いた。部屋に戻ってきたシルへ尋ねれば、あっさり頷く。

「ああ、父上が家督を譲ると言ったが、冗談ではない。ただでさえレティとの時間を削られているのに、これ以上仕事が増えるのはごめんだ。老衰で死ぬまで頑張ってもらおう」

「さすがに酷いわ」

 仕事が増えてうんざりしてるのは分かるけど……ん? あれれ? 何だろう、この違和感。疲れたと文句を言いながら、補給とほざいて私を抱き締めるシルヴァンの顔をじっくり眺める。

 何かおかしい。原作になった小説も派生したゲームも、シルに婚約者はいたけど、妻はいなかった。ある意味当然かも。恋愛小説やゲームで不倫はテーマが重すぎる。現実をそこまで突きつける必要ないもの。

 婚約者なら解消したり破棄したり出来るから、通常の攻略対象は婚約者がいる設定だ。なんでシルは結婚しちゃってるの? そこで追い討ちをかける異変に気付いた。

 それ以前に、シルとヒロインが知り合うのは貴族学院じゃなかった? よくあるご都合主義設定のせいね。貴族社会は完全ピラミッドよ。王族や公爵家に、男爵令嬢が近づくなんて無理だった。江戸時代の将軍様に農家の小娘が嫁ぐくらい、無理があるわ。

 学院はご都合主義で、貴族は全員通わなくてはならない。その上、地位を振り翳してのトラブルを防ぐため、不敬罪が適用されないルールだった。男爵令嬢も王子も同じ学校に通い、話しかけることが許される環境を作る。苦肉の策ね。

 そのご都合主義は建前で、実際のところは実家や婚約者の地位で、ある程度の立場が変わる。学校内カーストは生きていた。だから攻略対象の婚約者達は、建前のルールを盾に好き勝手振る舞う男爵令嬢を攻撃するんだもの。

「シル、学院って卒業した?」

「ああ。俺が学院に通う間の心配だな? 安心してくれ、成績優秀者に認められる飛び級で、すでに卒業が確定した。もう通う必要はない」

 日本のゲームなのに、なぜか外国のルールが適用された。秋に入学し、夏の終わりに卒業する。今が冬の終わりだから……あらやだ、まだ半年もあったはず。本来はこの期間に、ヒロインと出会うんじゃないの?

「が、学院通った方がいいわ」

「だが、もう通う義務はない。何より、レティと離れたくないんだ」

 離れて欲しいから、学院に通わせたいのよ! まさか事情を叫ぶわけにいかず、私は顔を引き攣らせた。どうしよう、ヒロインと愛を育むイベントや虐めが発生しない。バッドエンドかしら。

 バッドエンドのスチルは、真っ赤な私の血が床を濡らし、死んでいると示す指や金髪が散らばっていた。指は千切れてたっけ。思い出して気分が悪くなる。ヒロインは首輪で拘束された絵だったわ。致死量以上の血が流れていた画像から判断して、私、バラバラにされたと思う。

「あのね、シル。私……学院へ通いたいわ」

「首輪も鎖も外さないよ? ああ、そうだ。俺にも首輪をつけて鎖の先をレティが握ってくれたら……いっそ鞭で首を絞めてくれてもいい」

「そのまま絞め殺してあげたいわ」

「レティの愛なら受け止めるよ」

 冗談なのか、本気か。判断できない。ひとまず、鎖付き学院生活は社交と同様無理ね。他の方法で、ヒロインとハッピーエンドにさせなくちゃ。
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