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第30章 受け継がれる未来へ

523.個性際立つ食事会

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 料理は共通点がある。魔王、大公四人、大公女四人。合計九人が順番に用意するのだ。作るのは料理人でも、材料の提供や料理の指示は、持ち回りになっていた。

 そして、もう一つの特徴が「大皿料理」だということ。大きな皿へ山盛りにした料理を取り分けるのが、恒例になった。今回運ばれてきたのは、コカトリスの唐揚げ。この時点でリリスの発案だとわかる。柚子ドレッシングやマヨネーズを添えた唐揚げは、誰もが好きな料理だった。

「たくさん召し上がれ」

「いつもの唐揚げだが、楽しんでくれ」

 材料のコカトリスも、ここ数年の保護で数が増えた。魔の森の魔力が安定したこともあり、着々と生息域を拡大している。狩猟の数量制限を解除できそうなほどだった。今回は調査捕獲した個体を、収納保存から取り出している。

 数百年前ではなく、安心の昨年捕獲だった。シチュー案件で怒られた記憶も新しいルシファーとしては、きちんと誠意を見せている。リリスもそこは理解しているので、文句はなかった。

 昨年のコカトリスは、料理長の手で丁寧に調理されている。料理を指定した魔王一家の次は、アスタロト達だ。そのため取り分ける役は家長のアスタロトだった。これも決まりなのだ。前回の料理指定をしたベルゼビュート達は、飲み物の準備を担当した。

 それぞれに打ち合わせる連携を見せる大公女達と違い、ルシファーや大公は事前連絡を取らない。あまりに長い時間を過ごし、互いの考えをある程度読み取るからだ。

 どうせ唐揚げと決めつけ、ベルゼビュートは麦酒を持ち込んだ。子ども達は麦茶である。料理や麦茶を受け取ったゴルティーが目を輝かせた。イヴはその隣で、にこにこと座っている。

「イヴはこちらじゃないか?」

「今日はダメ。ゴルティーが一人になっちゃうから」

 一人というか、一匹だろ。人化しない琥珀竜を睨み、ルシファーがぶつぶつと文句を言う。愛娘に睨まれて、ぴたりと口を噤んだ。リリスに言われた「嫌われる」の一言がリフレインする。

「そんな意地悪言わないでよ、パッパ」

「すまん」

 食事前に魔王が撃沈し、何だか沈んだ雰囲気で食事会が始まった。だがすぐに子どもや孫が騒ぎ始め、親達もくつろいだ様子で酒を酌み交わす。こうなると席順も自由になり、イヴの背後にぺたりと魔王が張り付く事態も発生した。

「近すぎないか?」

「パッパ、うるさい」

「ルシファー様の方が近いですね」

 イヴに余計なことを言って叱られるルシファーに、アスタロトが追い打ちをかけた。いつもの光景だ。ルキフェルは頬が膨らむほど詰め込んだ唐揚げを、咀嚼することに必死である。呆れ顔のベルゼビュートの差し出した麦酒を飲み干し、ほっと一息ついた。

 読みたい本があったようで、早く食べ終えたルキフェルはさっと広げた。するとベールが取り上げて収納へ投げ込む。

「あっ!」

「ルキフェル、先ほども言いましたが……本は明日にしてください」

 でも、とルキフェルは続けた。この本がいかに貴重で、重要で、どれだけ長い期間探したか。ようやく実物を見つけたのに、読むのを後回しにしろとは酷い。そう訴えるものの、自分が不利なのは分かっているらしい。

 糠に釘状態で、まったく効果がないと分かり肩を落とした。

「後で返してね」

「もちろんです。明日の朝にお返ししましょう」

 ベールも意地悪をしているわけではない。ルキフェルが三日も徹夜していなければ、取り上げたりしなかっただろう。寝食を忘れるタイプの養い子は、再び料理の山を崩し始めた。
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