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第29章 魔の森の大祭
515.禁止されておりません
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剣ではなく、振り回す自分の技量が足りていない。そう嘆くベルゼビュートは、魔力を纏わせていた剣を撫でた。魔力が消えることで虹色の輝きは消え、鈍銀の刃が姿を現す。
悲しそうなベルゼビュートに絆され、ルシファーは時間を巻き戻す魔法陣を差し出した。かつて城の高そうな壺を割り、こっそり直すために開発した曰く付きの魔法陣だった。だが効果は間違いない。
「今回の褒美だ。大甘で譲りに譲って、これをやる」
「ありがとうございます」
彼女自身もすんなり納得した。本来なら褒美はない。自分の技量が足りずに剣が折れたも同然の状況だが、直せるなら剣は元通りに復元したかった。そのためかなり譲歩したルシファーの魔法陣を、素直に受け取ったのだ。
拍手が起こったので、見ていた民は楽しめたらしい。上から攻撃するのは物理的な力の弱いベルゼビュートらしい作戦だったし、あの立派な胸が揺れたり足がちらつくのも拍手の一因らしい。いろいろ問題はあるが当人が好き好んで着用する以上、誰も文句は言えなかった。
ましてやベルゼビュートの剣戟の技術は高い。アスタロトと一二を争う剣術の腕前とあれば、見物人もさぞ楽しめただろう。うんうんと納得するルシファーへ、アスタロトは愛用の剣を取り出しながら声をかけた。
「では、ルシファー様。参ります」
「え? へ? は?!」
間抜けな声が上がるたび、金属音が重なる。ベルゼビュートは剣に魔力を纏わせたが、アスタロトは全く違う。剣の柄や刃のすべてが魔力そのものだった。よく練られた魔力は、物体として力を持つ。
キンッ! 甲高い音に、雑談を始めていた魔族の民が静まり返っていく。食い入るように見つめる先、右手で剣技を繰り出すアスタロトをルシファーが受け止めた。普通の戦いに見えるが、いつもと同じなのか? ちょっとがっかりした民の期待を、アスタロトはいい意味で裏切った。
「少しばかり、攻めますよ」
言葉通り、速度が上がる。息もつかせぬ速さで攻防を繰り返す二人だが、ルシファーが珍しく飛び退った。足元を睨んでから、純白の髪を乱暴にかき乱す。魔法陣で固定された髪飾りは落ちないが、結い上げた髪はぐしゃりと崩れた。
「足元の影を使うのは、ありなのか?」
「禁止されておりません。挑戦者は全力を持って魔王に挑むもの、ではありませんか」
にやりと笑うアスタロトのセリフに、民は期待を込めて歓声を送る。こうして戦う魔王と大公の姿を見るのは初ではない。彼らは酒を飲み、料理を堪能しながら盛り上がった。完全に見世物である。
「なら、オレも手を打つぞ」
とんとんとデスサイズの柄で、地面を叩いた。動きは地味だし、魔法陣が現れるなどの派手なアクションもない。見た目は何もなかったように感じられたが、アスタロトは舌打ちした。と同時に、ルキフェルが指差して叫ぶ。
「影が消えた!」
その発言に身を乗り出した民が騒ぎ始め、観戦する彼らは再び大盛り上がりした。手を叩いて喜び、アスタロトやルシファーを思い思いに応援する。
賭けの胴元を務めるバアルが声を上げた。
「張った張った! 今回の対象は戦いの決着がつくまでの時間だ」
「半刻に金貨ニ枚」
大公女達が挑戦権を放棄したため、賭けに負けたベルゼビュートが金貨を取り出す。一枚負けたら二枚賭ける。これで勝てば取り返せるんだから。ギャンブルで大損するタイプの賭け方だった。
悲しそうなベルゼビュートに絆され、ルシファーは時間を巻き戻す魔法陣を差し出した。かつて城の高そうな壺を割り、こっそり直すために開発した曰く付きの魔法陣だった。だが効果は間違いない。
「今回の褒美だ。大甘で譲りに譲って、これをやる」
「ありがとうございます」
彼女自身もすんなり納得した。本来なら褒美はない。自分の技量が足りずに剣が折れたも同然の状況だが、直せるなら剣は元通りに復元したかった。そのためかなり譲歩したルシファーの魔法陣を、素直に受け取ったのだ。
拍手が起こったので、見ていた民は楽しめたらしい。上から攻撃するのは物理的な力の弱いベルゼビュートらしい作戦だったし、あの立派な胸が揺れたり足がちらつくのも拍手の一因らしい。いろいろ問題はあるが当人が好き好んで着用する以上、誰も文句は言えなかった。
ましてやベルゼビュートの剣戟の技術は高い。アスタロトと一二を争う剣術の腕前とあれば、見物人もさぞ楽しめただろう。うんうんと納得するルシファーへ、アスタロトは愛用の剣を取り出しながら声をかけた。
「では、ルシファー様。参ります」
「え? へ? は?!」
間抜けな声が上がるたび、金属音が重なる。ベルゼビュートは剣に魔力を纏わせたが、アスタロトは全く違う。剣の柄や刃のすべてが魔力そのものだった。よく練られた魔力は、物体として力を持つ。
キンッ! 甲高い音に、雑談を始めていた魔族の民が静まり返っていく。食い入るように見つめる先、右手で剣技を繰り出すアスタロトをルシファーが受け止めた。普通の戦いに見えるが、いつもと同じなのか? ちょっとがっかりした民の期待を、アスタロトはいい意味で裏切った。
「少しばかり、攻めますよ」
言葉通り、速度が上がる。息もつかせぬ速さで攻防を繰り返す二人だが、ルシファーが珍しく飛び退った。足元を睨んでから、純白の髪を乱暴にかき乱す。魔法陣で固定された髪飾りは落ちないが、結い上げた髪はぐしゃりと崩れた。
「足元の影を使うのは、ありなのか?」
「禁止されておりません。挑戦者は全力を持って魔王に挑むもの、ではありませんか」
にやりと笑うアスタロトのセリフに、民は期待を込めて歓声を送る。こうして戦う魔王と大公の姿を見るのは初ではない。彼らは酒を飲み、料理を堪能しながら盛り上がった。完全に見世物である。
「なら、オレも手を打つぞ」
とんとんとデスサイズの柄で、地面を叩いた。動きは地味だし、魔法陣が現れるなどの派手なアクションもない。見た目は何もなかったように感じられたが、アスタロトは舌打ちした。と同時に、ルキフェルが指差して叫ぶ。
「影が消えた!」
その発言に身を乗り出した民が騒ぎ始め、観戦する彼らは再び大盛り上がりした。手を叩いて喜び、アスタロトやルシファーを思い思いに応援する。
賭けの胴元を務めるバアルが声を上げた。
「張った張った! 今回の対象は戦いの決着がつくまでの時間だ」
「半刻に金貨ニ枚」
大公女達が挑戦権を放棄したため、賭けに負けたベルゼビュートが金貨を取り出す。一枚負けたら二枚賭ける。これで勝てば取り返せるんだから。ギャンブルで大損するタイプの賭け方だった。
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