上 下
514 / 530
第29章 魔の森の大祭

512.レラジェ、大健闘!

しおりを挟む
 外見年齢は学校に通う子どもだ。それでも魔族は外見で判断しない。ルキフェルが一万五千年ほど幼子の姿でいたこともあり、実力を外見で測る愚か者はいなかった。

 ルシファーがデスサイズをくるりと回し、刃を下にした。三日月形の美しい刃が、光を弾く。

「陛下が持ち替えるとは」

「結構派手にやるのかな?」

 ベールとルキフェルは、先ほど張った結界を確認して頷き合う。普段、ルシファーがデスサイズを構えるときは刃を上にして背中側に回す。理由は簡単だ。すぐに対処できるよう構えるほど、強い敵と遭遇していないから。

 相手を見くびっているというより、単にケガをさせないための対応だった。それを鎌という武器特有の構え方で迎えるなら、相対する挑戦者への敬意だった。義息子だからではない。

「いきます」

「いつでも来い」

 レラジェは手のひらに爪を立て、そこから剣を取り出した。といっても縦にまっすぐ伸びる剣ではない。半月に曲がった剣で、まるでデスサイズに似せたように見えた。

 顔立ちは幼い頃のルシファーによく似ており、色はリリス譲りだ。赤い瞳に黒と見間違う濃灰色の髪。二人の実子と言われても納得の外見だった。

「あの剣は魔力で生み出したのでしょうか」

「そんなにこごったように見えないね」

 アスタロトの疑問に、目を細めたルキフェルが首を傾げる。同じようにじっくり観察するベルゼビュートは「次はあんな形の剣もいいわね」と呟いた。剣のコレクターなので、過去の勇者の剣も含めて大量に保管している美女は、目を輝かせて観察する。

 呼び出し方もデスサイズに似ている、誰もがそう感じた。体に合わせて小型化したような武器を、レラジェはくるりと回した。手首を使って回転させた動きは、扱いに慣れた感じだ。

 ふっと息を吐いてタイミングを合わせ、レラジェが地を蹴る。小柄な体が消えた。そう錯覚するほど速い動きで、ルシファーの手が届く距離に飛び込んだ。咄嗟に下がろうとしたルシファーだが、結界を強化して踏みとどまる。

 キン! 甲高い音がして、レラジェの振るった剣が弾かれた。舌打ちや残念そうな表情を見せることなく、彼は剣を左から右へ持ち替える。そのまま下から切り上げる形で攻撃を続行した。

 ぴしっ、先ほどと違う音が響き、一番外側の結界が可視化される。ヒビが走ったのだ。視界を曇らせる結界を破棄したルシファーに、レラジェはさらに踏み込んだ。また一歩近づいた分だけ、深く剣を払う。半月の形は、振り抜きやすいようだ。

 回転する足の動きは踊りのようで、剣は動きに追従した。ぱちんとレラジェが指を鳴らす。剣が二つに増え、四つになり……最後に十二に分裂した。増えたのか、呼び出したのか。魔族は息を呑んで見守る。

「増やせるなら、やっぱり魔力で作ったのかも」
 
 ルキフェルは頷きながら、レラジェの思わぬ健闘に目を見張った。数万年を生きる大公と違い、レラジェは生み出されて間もない。魔の森の一部だったとしても、自ら身に付けた戦闘能力だろう。

 なぜなら生贄になる予定だったレラジェに、魔の森が戦闘能力を授ける理由がない。同じ理由で、リリスも戦う能力は低かった。体力は驚くほどない上、普段使用する魔法は雷のみ。レラジェも同様で、身体能力は高くなかった。

 イポスの元に預けられた、イヴの護衛ディックとコリーの二人と仲良くなり、彼らと共に鍛えたことで得た能力だった。

「っ、届かないなんて」

 ぎりっと歯を食いしばり、レラジェはすべての剣に一斉攻撃を指示する。ぎらりと光を弾く十二本の半月が、魔王に襲いかかった。

「ふむ。そろそろいいか」

 左手に掴んだデスサイズに魔力を流し、ルシファーが動く。攻撃の魔力を流した時間差で、わずかにズレた剣を次々と叩き落とし、最後の一本も地に突き立てた。

「その年齢でよくそこまで……っ? いや、さすがオレの息子だ」

 途中で言葉を変えたルシファーは、長いローブの裾を引っ張った。剣が一本掠めており、その刃は裾を切り裂いている。

 わっと歓声が上がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝

饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。 話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。 混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。 そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変! どうなっちゃうの?! 異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。 ★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。 ★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。 ★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~

夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。 「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。 だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。 時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。 そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。 全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。 *小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。

【HIDE LEVELING】転生者は咎人だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいから、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜

久遠ノト@マクド物書き
ファンタジー
【ステータス1の最弱主人公が送るゆるやか異世界転生ライフ】✕【バレたら殺される世界でハイドレベリング】✕【異世界人達と織り成すヒューマンドラマ】 毎日更新を再開しました。 20時に更新をさせていただきます。 第四創造世界『ARCUS』は単純なファンタジーの世界、だった。 しかし、【転生者】という要素を追加してしまってから、世界のパワーバランスが崩壊をし始めていた。挙句の果てに、この世界で転生者は罪人であり、素性が知られたら殺されてしまう程憎まれているときた! こんな世界オワコンだ! 終末までまっしぐら――と思っていたトコロ。  ▽『彼』が『初期ステータス』の状態で転生をさせられてしまった! 「こんな世界で、成長物語だって? ふざけるな!」と叫びたいところですが、『彼』はめげずに順調に協力者を獲得していき、ぐんぐんと力を伸ばしていきます。 時には強敵に負け、挫折し、泣きもします。その道は決して幸せではありません。 ですが、周りの人達に支えられ、また大きく羽ばたいていくことでしょう。弱い『彼』は努力しかできないのです。 一章:少年が異世界に馴染んでいく過程の複雑な感情を描いた章 二章:冒険者として活動し、仲間と力を得ていく成長を描いた章 三章:一人の少年が世界の理不尽に立ち向かい、理解者を得る章 四章:救いを求めている一人の少女が、歪な縁で少年と出会う章 ──四章後、『彼』が強敵に勝てるほど強くなり始めます── 【お知らせ】 他サイトで総合PVが20万行った作品の加筆修正版です 第一回小説大賞ファンタジー部門、一次審査突破(感謝) 【作者からのコメント】 成長系スキルにステータス全振りの最弱の主人公が【転生者であることがバレたら殺される世界】でレベルアップしていき、やがて無双ができるまでの成長過程を描いた超長編物語です。 力をつけていく過程をゆっくりと描いて行きますので「はやく強くなって!」と思われるかもしれませんが、第四章終わりまでお待ち下さい。 第四章までは主人公の成長と葛藤などをメインで描いた【ヒューマンドラマ】 第五章からは主人公が頭角を現していくバトル等がメインの【成り上がり期】 という構成でしています。 『クラディス』という少年の異世界ライフを描いた作品ですので、お付き合い頂けたら幸いです。 ※ヒューマンドラマがメインのファンタジーバトル作品です。 ※設定自体重めなのでシリアスな描写を含みます。 ※ゆるやか異世界転生ライフですが、ストレスフルな展開があります。 ※ハッピーエンドにするように頑張ります。(最終プロットまで作成済み) ※カクヨムでも更新中

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

異世界トリップだって楽じゃない!

yyyNo.1
ファンタジー
「いたぞ!異世界人だ!捕まえろ!」 誰よ?異世界行ったらチート貰えたって言った奴。誰よ?異世界でスキル使って楽にスローライフするって言った奴。ハーレムとか論外だから。私と変われ!そんな事私の前で言う奴がいたら百回殴らせろ。 言葉が通じない、文化も価値観すら違う世界に予告も無しに連れてこられて、いきなり追いかけられてみなさいよ。ただの女子高生にスマホ無しで生きていける訳ないじゃん! 警戒心MAX女子のひねくれ異世界生活が始まる。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...