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第29章 魔の森の大祭

507.手放しの賞賛が降り注ぐ

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「水蒸気爆発とは、考えましたね」

 アスタロトも絶賛の作戦だった。ルーサルカが仕掛けた土の爆発は、火や水を圧縮する場所を作るため。と同時に、ルシファーの意識を爆発へ逸らした。

 風を起こしたシトリーが囮を担当し、気を取られたところへ真下で爆発させる。良い作戦だった。それぞれの性質や個性をうまく活用している。

「意外でした。ここまで連携がスムーズなら、十分戦力になります」

 ベールが魔王軍の指揮官としてのコメントを出す。聞いた城下町の住人が大袈裟に伝えるため、わっと歓声が上がった。酒を片手に「いけぇ!」と煽る者もいれば、賭けの半券を握った拳を振り回す者も現れる。

 魔族は弱肉強食の掟がある。どうしても戦い好きが多かった。母親になったとはいえ、大公女達は若い娘に分類される年齢だ。魔王相手に善戦する姿は、応援する側も力が入る。

 子ども達や夫からも応援の声が飛び、芝の広場は熱気に包まれた。盛り上がる魔族の声や魔力が、魔の森にも伝わっていく。木々がざわりと大きく揺れた。

「陛下はいつも通りね」

 魔王チャレンジでは、ルシファーから仕掛けることは滅多にない。大公相手ならば動くが、挑戦者に華を持たせるのが通例だった。先手を譲り、一方的な攻撃を受け流し、最後に軽く仕留める。黄金パターンとなったやり方は、ルシファーの戦いの姿勢そのものだ。

「ダメね。なら次の作戦よ」

 ルーシアが魔力を高める。風で渦を作るシトリーは肩で息をしていた。彼女を支えながら、ルーサルカは大地へ働きかける。レライエは手のひらの魔法陣へ集中した。

 新しい技を見ようと、人々は身を乗り出し息を呑んだ。レライエが炎を放つ。竜巻になった風の渦が炎を巻き込み、雷雲を呼び寄せた。ルーシアが練り上げた魔力で氷を生み出す。

 平らな氷の板は円形をしていた。じっと見つめるルキフェルが「レンズだ」と呟く。中央が厚か透明な氷に雷が落ちた。増幅された稲妻がルシファーを包む。

 複数の落雷が大地へエネルギーを与え、ルーサルカの魔法を助けた。大地が応えて檻を作り出す。魔王を捕らえた檻は、太く立派な柱だった。鳥籠のような形で上が塞がっていく。

 この時点でもルシファーは動かない。口元に笑みを浮かべ、彼女達の最後の大技を楽しんでいた。

「いくよ」

「いつでも」

 掛け声でタイミングを合わせ、ルーシアの氷が水に戻される。シトリーの風が水を飛沫にして散らした。レライエは魔法陣を消して、炎による上昇気流で上空の雷雲を消し去る。

「ママ、あれ綺麗ねぇ」

 イヴがほぅと大きな息を吐き出す。その感嘆の褒め言葉は、魔族のあちこちで聞こえた。空いっぱい、複数の虹が円を作る。風で渦を維持するシトリーが「もう無理」と魔力を切った。途端に虹は円形を保てなくなる。それでも十分過ぎるほどに美しかった。

 鳥籠となった土の柱を切り裂いたルシファーが、デスサイズから手を離す。するりと犬の形へ移行したケルベロスが、先に大地へ降りた。

「素晴らしい魔法と技術の組み合わせだ。個人的に褒美を出そう」

 ルシファーが手放しで褒めたことで、大公女達の表情が明るくなる。魔王妃リリスの側近として、面目躍如を狙っていたのだろう。

「素晴らしかったですよ、感心しました」

「水蒸気爆発より虹のがポイント高いよね」

 アスタロトやルキフェルも素直に認めたことで、拍手と歓声が止まない。落ち着くまでに時間がかかった。

「じゃあ、僕はドラゴンで行くかな」

 体をほぐしたルキフェルは、水色の髪を結った簪をベールに預け、前に進み出た。
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