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第29章 魔の森の大祭

498.魔の森の目覚めを祝う大祭が来る

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 魔族にとって新しい能力は、歓迎の対象だ。他者と違うからと差別する者はいない。新しい種族や能力が生まれるということは、自分達が進化する兆候として受け取るからだ。変化をチャンスとして捉える、前向きな思考が根付いていた。

 赤い羽毛ばかりの鳳凰に、青い雛の鸞ピヨが混じっても平気なのは、こういった慣習が影響している。イヴの無効化も上手に使えば役に立つ。シャイターンが新しい巻き戻しの魔法を使っても、皆は手を叩いて歓迎した。

「魔族って楽天的だな」

「せめて前向きと言ってちょうだい」

 アベルの指摘にアンナが釘を刺す。いつもの光景に、イザヤは苦笑しながら執筆の手を止めない。穏やかな午後の日差しを浴びながら、城下町の屋敷で過ごしていた。日本から無理やり召喚されて、人族に監禁されたり魔王退治へ放り出され、苦労したのも懐かしい記憶だ。

「なあ、この世界ってさ……理想的だよな。もちろん人族が滅んでからのことだぞ」

 アベルはルーサルカの髪を撫でながら笑った。声を掛けられた妻は、大きな尻尾をゆらりと左右に振る。

「そうね。私は他の世界を知らないけれど、今に満足しているし不満はないわ」

 気づけば子ども達が独立する年齢になった。こうして立派な屋敷に住み、食事も不自由ない生活に不満はない。仕事も充実しており、のんびりした時間が流れていた。

「結局、シャイターン君の能力の話はどうなったの?」

「様子見だってさ。判明するまでほっとくのが魔族流らしい」

 アンナの疑問に、膝枕でご機嫌のアベルが返す。ルシファー達が静観する方針を固めたのは、事実だった。過去に起きた事例のほとんどが、時間が経つと理由が判明する。その確率の高さから、調べて記録はするが追求する必要はないと考えられてきた。

「ところで、もうすぐお祭りって話よ?」

「即位記念祭はまだ先じゃん」

 10年ごとの大祭の話かと首を傾げるアベルへ、アンナは聞き齧った新情報を披露した。

「違うのよ、100年に一度だったかな? とにかく凄く久しぶりのお祭りがあるんですって」

「その話なら私も聞いたわ。魔の森の恵みに感謝するお祭りで、数百年に一度行われるの。ほら、リリス様が魔の森の娘でしょう? 魔の森が目覚めたり眠ったりするタイミングがはっきりしたので、それに合わせてお祭りをすることになったのよ」

 なるほどとイザヤは納得しながら、物語を綴る手を止めた。異世界に転移して、異世界物の小説を書いてきたが、新作は日本の童話をアレンジしている。かぐや姫がモデルなのだが、盗作にはならないだろう。年数的に著作権が切れている上、異世界だからな。

 ペンを置いた夫イザヤを手招きし、アンナは腕を絡めて甘える。肩に頭を預け、撫でられながら茶菓子を口に放り込んだ。

 お祭りの情報をいくつか交換し、一緒に回ろうと約束して別れる。本邸と離れに別れた屋敷は、それぞれの夫婦が使っていた。普段は魔王城で暮らすが、休みがあると城下町で過ごす。別荘のような贅沢な使い方だ。

 離れに戻るアベルとルーサルカを見送り、アンナは大きく息を吐き出した。見渡す限りハーブや野菜が植えられた庭に、雑草を見つけてしまったのだ。前回草抜きしたの、いつだったかしら。

「ねえ、イザヤ。草抜きを委託しようと思うんだけど」

「以前頼んだモグラはもうやめてくれ。ハーブや野菜の根も根こそぎ刈ってしまった」

「あの時は大変だったわね。前回お願いしたヤギの獣人さんがいいと思うの。三軒ほど隣の家だったっけ」

 ヤギの獣人は髭の立派なお爺さんだ。草の見分けが上手で、野菜やハーブはきちんと残して雑草だけ食べてくれた。向こうは食料と賃金が手に入る。こちらは休暇中に草抜きの労働から解放される。

「わかった。彼に任せよう」

 草抜きの間、少し離れた湖までピクニックする計画を立てる。星が綺麗な夜だが、二人は仲良く抱き合って扉を閉めた。
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