491 / 530
第28章 子ども達の自立?
489.子どもは不条理な生き物です
しおりを挟む
学校へ通うイヴは忙しい。だが魔族の学校は、宿題を出さなかった。両親へ「これ教えて」と子どもが無邪気に強請る可能性が高いからだ。
強さを尊ぶ魔族にとって、両親は尊敬の対象であることが多い。にもかかわらず、過去に学校がなかったので学んでいない両親ばかりだった。もし我が子に尋ねられ、質問の意味すら理解できなかったら……。
一時期、その心配をした親が我が子を学校へ通わせることを反対したのだ。気持ちは分かる。ルシファーも拳を握った。幸いにしてアスタロトのスパルタのお陰で、文字は読めるし書ける。だが陳情書が口述筆記されて届くことも珍しくない。
魔族にとって読み書きができることは、特別なことだった。だが読み書きが上手でも、物を言うのは強さ一択だ。
学校へ通う子は、まず最初にひとつのルールを叩き込まれた。勉強は友達と行ってもよいが、仕事で疲れた両親の邪魔をしてはいけない。宿題がなくとも、予習や復習で両親に問う可能性を潰した。
このルールにより、我が子を安心して通わせる魔獣や魔族も現れる。いつも実行して問題が起きたら対処が基本だが、何だかんだで解決しているのだ。
「うーん」
真剣に問題用紙に向き合う娘の後ろで、ルシファーはそわそわしていた。尋ねて欲しい。それで答えを聞いて「パパすごい」と褒められたかった。しかし、ルールを守るイヴは尋ねてくれない。
「あのな、オレは答えを……」
「ダメ。パッパはあっち!」
シャイターンが一人で積み木で遊ぶスペースを指さされる。あそこで遊んでいなさい。そんな口調だった。両親の仕事の邪魔をしないルールが、いつの間にか魔王が娘の勉強の邪魔をしないに変更されたようだ。
しょんぼりしながら、シャイターンの近くに座る。
「パパ」
座ってじっとイヴの手元を見つめるルシファー。目の前の息子が何をしているか、気づいていなかった。膝の上や肩に大量の積み木が並ぶ。器用にバランスを取った積み木は、純白の魔王をカラフルに彩った。
「……我が君、大変なお姿に……」
ヤンに指摘され、ようやく気づく。ふわりと浮かせて片付けると、シャイターンが地団駄を踏んで怒った。
「やぁ! やああああ!」
手足を揺らして全身で抗議するシャイターンの大声に、勉強の手を止めたイヴが叫び返した。
「パッパ、静かにさせて」
「すまん」
不条理にもルシファーが叱られた。慌てて積み木を元に戻し、シャイターンを泣き止ませる。積み木に埋もれた主君の姿に、ヤンは前足でそっと涙を拭った。
「なんという……お気の毒な」
これでも魔族最強なのだ。とてもそうは見えないけれど。ヤンの嘆きをよそに、イヴは引っかかっていた問題を解いた。途端に並んだすべての問題の答えが分かる。同じ公式を当てはめればいい。目を輝かせて、すべての解答欄を埋め尽くした。
「終わった」
ここでようやくルシファーも解放される。眠気を耐えて遊んでいたシャイターンは、泣き叫んだことで疲れたらしい。ころんと横たわり、すやすやと寝息を立て始めた。
音を立てないよう、魔力で操った積み木を箱に片付ける。子どもの使用する物は、基本的に部屋に用意した棚や籠にしまうのだ。ルシファーが収納へ片付けると、いない時に取り出せなくなってしまう。
「パッパ、終わったから遊んであげる」
大喜びで構ってもらうルシファーも、答えを書き終えたイヴも気づかない。だが、計算のできないヤンは見つけてしまった。答えが一段ズレていることを。
「楽しそうですな、後にしましょう」
このまま伝え忘れ、翌日のイヴは予習の答えをすべて間違える事となった。
強さを尊ぶ魔族にとって、両親は尊敬の対象であることが多い。にもかかわらず、過去に学校がなかったので学んでいない両親ばかりだった。もし我が子に尋ねられ、質問の意味すら理解できなかったら……。
一時期、その心配をした親が我が子を学校へ通わせることを反対したのだ。気持ちは分かる。ルシファーも拳を握った。幸いにしてアスタロトのスパルタのお陰で、文字は読めるし書ける。だが陳情書が口述筆記されて届くことも珍しくない。
魔族にとって読み書きができることは、特別なことだった。だが読み書きが上手でも、物を言うのは強さ一択だ。
学校へ通う子は、まず最初にひとつのルールを叩き込まれた。勉強は友達と行ってもよいが、仕事で疲れた両親の邪魔をしてはいけない。宿題がなくとも、予習や復習で両親に問う可能性を潰した。
このルールにより、我が子を安心して通わせる魔獣や魔族も現れる。いつも実行して問題が起きたら対処が基本だが、何だかんだで解決しているのだ。
「うーん」
真剣に問題用紙に向き合う娘の後ろで、ルシファーはそわそわしていた。尋ねて欲しい。それで答えを聞いて「パパすごい」と褒められたかった。しかし、ルールを守るイヴは尋ねてくれない。
「あのな、オレは答えを……」
「ダメ。パッパはあっち!」
シャイターンが一人で積み木で遊ぶスペースを指さされる。あそこで遊んでいなさい。そんな口調だった。両親の仕事の邪魔をしないルールが、いつの間にか魔王が娘の勉強の邪魔をしないに変更されたようだ。
しょんぼりしながら、シャイターンの近くに座る。
「パパ」
座ってじっとイヴの手元を見つめるルシファー。目の前の息子が何をしているか、気づいていなかった。膝の上や肩に大量の積み木が並ぶ。器用にバランスを取った積み木は、純白の魔王をカラフルに彩った。
「……我が君、大変なお姿に……」
ヤンに指摘され、ようやく気づく。ふわりと浮かせて片付けると、シャイターンが地団駄を踏んで怒った。
「やぁ! やああああ!」
手足を揺らして全身で抗議するシャイターンの大声に、勉強の手を止めたイヴが叫び返した。
「パッパ、静かにさせて」
「すまん」
不条理にもルシファーが叱られた。慌てて積み木を元に戻し、シャイターンを泣き止ませる。積み木に埋もれた主君の姿に、ヤンは前足でそっと涙を拭った。
「なんという……お気の毒な」
これでも魔族最強なのだ。とてもそうは見えないけれど。ヤンの嘆きをよそに、イヴは引っかかっていた問題を解いた。途端に並んだすべての問題の答えが分かる。同じ公式を当てはめればいい。目を輝かせて、すべての解答欄を埋め尽くした。
「終わった」
ここでようやくルシファーも解放される。眠気を耐えて遊んでいたシャイターンは、泣き叫んだことで疲れたらしい。ころんと横たわり、すやすやと寝息を立て始めた。
音を立てないよう、魔力で操った積み木を箱に片付ける。子どもの使用する物は、基本的に部屋に用意した棚や籠にしまうのだ。ルシファーが収納へ片付けると、いない時に取り出せなくなってしまう。
「パッパ、終わったから遊んであげる」
大喜びで構ってもらうルシファーも、答えを書き終えたイヴも気づかない。だが、計算のできないヤンは見つけてしまった。答えが一段ズレていることを。
「楽しそうですな、後にしましょう」
このまま伝え忘れ、翌日のイヴは予習の答えをすべて間違える事となった。
0
お気に入りに追加
735
あなたにおすすめの小説
不遇な公爵令嬢は無愛想辺境伯と天使な息子に溺愛される
Yapa
ファンタジー
初夜。
「私は、あなたを抱くつもりはありません」
「わたしは抱くにも値しないということでしょうか?」
「抱かれたくもない女性を抱くことほど、非道なことはありません」
継母から不遇な扱いを受けていた公爵令嬢のローザは、評判の悪いブラッドリー辺境伯と政略結婚させられる。
しかし、ブラッドリーは初夜に意外な誠実さを見せる。
翌日、ブラッドリーの息子であるアーサーが、意地悪な侍女に虐められているのをローザは目撃しーーー。
政略結婚から始まる夫と息子による溺愛ストーリー!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します
たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』
*書籍化2024年9月下旬発売
※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。
彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?!
王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。
しかも、私……ざまぁ対象!!
ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!!
※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。
感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!
りーさん
ファンタジー
ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。
でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。
こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね!
のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!
【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
〜花が良く育つので「緑の手」だと思っていたら「癒しの手」だったようです〜
王都の隅っこで両親から受け継いだ花屋「ブルーメ」を経営するアンネリーエ。
彼女のお店で売っている花は、色鮮やかで花持ちが良いと評判だ。
自分で花を育て、売っているアンネリーエの店に、ある日イケメンの騎士が現れる。
アンネリーエの作る花束を気に入ったイケメン騎士は、一週間に一度花束を買いに来るようになって──?
どうやらアンネリーエが育てている花は、普通の花と違うらしい。
イケメン騎士が買っていく花束を切っ掛けに、アンネリーエの隠されていた力が明かされる、異世界お仕事ファンタジーです。
*HOTランキング1位、エールに感想有難うございました!とても励みになっています!
※花の名前にルビで解説入れてみました。読みやすくなっていたら良いのですが。(;´Д`)
話の最後にも花の名前の解説を入れてますが、間違ってる可能性大です。
雰囲気を味わってもらえたら嬉しいです。
※完結しました。全41話。
お読みいただいた皆様に感謝です!(人´∀`).☆.。.:*・゚
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる