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第28章 子ども達の自立?

489.子どもは不条理な生き物です

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 学校へ通うイヴは忙しい。だが魔族の学校は、宿題を出さなかった。両親へ「これ教えて」と子どもが無邪気に強請る可能性が高いからだ。

 強さを尊ぶ魔族にとって、両親は尊敬の対象であることが多い。にもかかわらず、過去に学校がなかったので学んでいない両親ばかりだった。もし我が子に尋ねられ、質問の意味すら理解できなかったら……。

 一時期、その心配をした親が我が子を学校へ通わせることを反対したのだ。気持ちは分かる。ルシファーも拳を握った。幸いにしてアスタロトのスパルタのお陰で、文字は読めるし書ける。だが陳情書が口述筆記されて届くことも珍しくない。

 魔族にとって読み書きができることは、特別なことだった。だが読み書きが上手でも、物を言うのは強さ一択だ。

 学校へ通う子は、まず最初にひとつのルールを叩き込まれた。勉強は友達と行ってもよいが、仕事で疲れた両親の邪魔をしてはいけない。宿題がなくとも、予習や復習で両親に問う可能性を潰した。

 このルールにより、我が子を安心して通わせる魔獣や魔族も現れる。いつも実行して問題が起きたら対処が基本だが、何だかんだで解決しているのだ。

「うーん」

 真剣に問題用紙に向き合う娘の後ろで、ルシファーはそわそわしていた。尋ねて欲しい。それで答えを聞いて「パパすごい」と褒められたかった。しかし、ルールを守るイヴは尋ねてくれない。

「あのな、オレは答えを……」

「ダメ。パッパはあっち!」

 シャイターンが一人で積み木で遊ぶスペースを指さされる。あそこで遊んでいなさい。そんな口調だった。両親の仕事の邪魔をしないルールが、いつの間にか魔王が娘の勉強の邪魔をしないに変更されたようだ。

 しょんぼりしながら、シャイターンの近くに座る。

「パパ」

 座ってじっとイヴの手元を見つめるルシファー。目の前の息子が何をしているか、気づいていなかった。膝の上や肩に大量の積み木が並ぶ。器用にバランスを取った積み木は、純白の魔王をカラフルに彩った。

「……我が君、大変なお姿に……」

 ヤンに指摘され、ようやく気づく。ふわりと浮かせて片付けると、シャイターンが地団駄を踏んで怒った。

「やぁ! やああああ!」

 手足を揺らして全身で抗議するシャイターンの大声に、勉強の手を止めたイヴが叫び返した。

「パッパ、静かにさせて」

「すまん」

 不条理にもルシファーが叱られた。慌てて積み木を元に戻し、シャイターンを泣き止ませる。積み木に埋もれた主君の姿に、ヤンは前足でそっと涙を拭った。

「なんという……お気の毒な」

 これでも魔族最強なのだ。とてもそうは見えないけれど。ヤンの嘆きをよそに、イヴは引っかかっていた問題を解いた。途端に並んだすべての問題の答えが分かる。同じ公式を当てはめればいい。目を輝かせて、すべての解答欄を埋め尽くした。

「終わった」

 ここでようやくルシファーも解放される。眠気を耐えて遊んでいたシャイターンは、泣き叫んだことで疲れたらしい。ころんと横たわり、すやすやと寝息を立て始めた。

 音を立てないよう、魔力で操った積み木を箱に片付ける。子どもの使用する物は、基本的に部屋に用意した棚や籠にしまうのだ。ルシファーが収納へ片付けると、いない時に取り出せなくなってしまう。

「パッパ、終わったから遊んであげる」

 大喜びで構ってもらうルシファーも、答えを書き終えたイヴも気づかない。だが、計算のできないヤンは見つけてしまった。答えが一段ズレていることを。

「楽しそうですな、後にしましょう」

 このまま伝え忘れ、翌日のイヴは予習の答えをすべて間違える事となった。
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