489 / 530
第28章 子ども達の自立?
487.魔王の一家団欒にわんわんが一匹
しおりを挟む
立ち上がったシャイターンは、ふらふらと移動する。体の軸が左右にブレるが、気にせず正面の目標に向かって一直線だった。到着!
「だぁ! ママ!!」
「シャイターンったら元気ね。驚いちゃったわ」
驚いた顔をする母に得意気な顔を向け、また歩き始める。少し離れた場所で遊ぶ姉に飛びついた。
「ねー!」
「あぁ……崩れちゃった」
残念そうな響きに覗き込んだ先は、崩れたおもちゃがあった。色もたくさんある。嬉しくなって握って振り回すと、すぐに姉イヴに回収されてしまう。
イヴが学校で使う色鉛筆だった。鉛筆と表現しているが、紙を巻いた色芯であり、クレヨンと呼ぶ方が近い。振り回して割れると困るので、イヴは回収した色鉛筆を収納へ放り込んだ。
「これはお勉強で使うの。だからダメ。違うおもちゃで遊ぼうね」
難しい言葉がいっぱいだったが、ダメと遊ぶは理解できた。これはダメ、イヴが取り出したおもちゃは大きなぬいぐるみだった。シャイターンは抱きついて遊ぶ。ぬいぐるみごと転がって、声を立てて笑った。イヴがぬいぐるみを動かすので、立ち上がって押し倒す。また転がった。
楽しくて嬉しくて、姉に「大好き」を伝えようと顔を上げたシャイターンは、大きな犬に顔を舐められた。
「わんわ!」
「ヤンよ、わんわんと呼んだらダメなの」
ダメはわかる。でも「わんわ」が「わんわん」になった? 混乱しながら首を傾げると、大きなわんわが顔を舐めた。ぱくっと食べちゃいそうな大きさの口に押され、後ろへ倒れた。頭を打たないよう、イヴが支えてくれる。
両手足を動かして、じたばたしながら笑った。毎日がとにかく楽しい。シャイターンにとって、起きて寝るまでが驚きや嬉しさの連続だった。
「ヤン、イヴ、任せていいかしら。ルシファーを連れてくるわ」
リリスの頼みに、護衛のヤンとまだ幼いイヴは大きく頷いた。シャイターンを毛皮に乗せて滑らせ、イヴが受け止める。大好きな姉に向かって滑るのは楽しく、何度もせがんで繰り返した。
「おお、ご機嫌だな」
顔を上げると純白のパパがいる。シャイターンは両手を伸ばし、ルシファーに抱っこを強請った。すぐに願いは叶い、綺麗な顔が近づく。
シャイターンの知る世界は狭い。言葉はいくつも覚えたが、まだ使いこなせなかった。移動できる範囲も狭いし、うまく魔力も扱えない。ルシファーはそれでもいいと笑う。
ゆっくり育てばいい。そう言われるたびに、シャイターンは笑顔を浮かべた。自分が笑うと、皆が笑ってくれる。肯定感高めに育つシャイターンは無敵だ。
「シャイターンも学校へ通うと言い出しそうだな」
「イヴが通うのを追いかけるかも」
リリスも相槌を打つ。とにかく姉大好きな弟だった。後ろをついて回り、構ってもらおうとする。それをまたイヴが振り返って足を止め、追いつくのを待っていた。仲のいい姉弟で何よりだ。
「イヴは無理していないか」
「本人に聞きなさいよ」
ふふっと笑うリリスが、シャイターンを抱き上げてヤンの上に座る。心得た様子で、ヤンはくるりと丸まった。中央の窪みにハマった状態で、リリスはシャイターンを擽り始める。
「ほぉら! 擽ったいわよぉ」
「きゃぁああ! やぁ」
身をのけ反って笑うシャイターンは、母リリスから逃れようと必死だ。しかしヤンに包み込まれた体は抜け出せず、脇や腹、背中や首筋、手のひらに至るまで、擽り尽くされた。笑いすぎて苦しそうだ。
「イヴ、話をしようか」
「うん」
嬉しそうに頷くイヴを久しぶりに抱き上げる。リリスもそうだが、一定年齢になると抱っこの回数が減る。今は抱っこされまくるシャイターンもいずれは、同じように抱っこが減るのだろう。
懐かしく思いながら頬を寄せれば、イヴは両手を首に回して強く抱きしめ返した。
「だぁ! ママ!!」
「シャイターンったら元気ね。驚いちゃったわ」
驚いた顔をする母に得意気な顔を向け、また歩き始める。少し離れた場所で遊ぶ姉に飛びついた。
「ねー!」
「あぁ……崩れちゃった」
残念そうな響きに覗き込んだ先は、崩れたおもちゃがあった。色もたくさんある。嬉しくなって握って振り回すと、すぐに姉イヴに回収されてしまう。
イヴが学校で使う色鉛筆だった。鉛筆と表現しているが、紙を巻いた色芯であり、クレヨンと呼ぶ方が近い。振り回して割れると困るので、イヴは回収した色鉛筆を収納へ放り込んだ。
「これはお勉強で使うの。だからダメ。違うおもちゃで遊ぼうね」
難しい言葉がいっぱいだったが、ダメと遊ぶは理解できた。これはダメ、イヴが取り出したおもちゃは大きなぬいぐるみだった。シャイターンは抱きついて遊ぶ。ぬいぐるみごと転がって、声を立てて笑った。イヴがぬいぐるみを動かすので、立ち上がって押し倒す。また転がった。
楽しくて嬉しくて、姉に「大好き」を伝えようと顔を上げたシャイターンは、大きな犬に顔を舐められた。
「わんわ!」
「ヤンよ、わんわんと呼んだらダメなの」
ダメはわかる。でも「わんわ」が「わんわん」になった? 混乱しながら首を傾げると、大きなわんわが顔を舐めた。ぱくっと食べちゃいそうな大きさの口に押され、後ろへ倒れた。頭を打たないよう、イヴが支えてくれる。
両手足を動かして、じたばたしながら笑った。毎日がとにかく楽しい。シャイターンにとって、起きて寝るまでが驚きや嬉しさの連続だった。
「ヤン、イヴ、任せていいかしら。ルシファーを連れてくるわ」
リリスの頼みに、護衛のヤンとまだ幼いイヴは大きく頷いた。シャイターンを毛皮に乗せて滑らせ、イヴが受け止める。大好きな姉に向かって滑るのは楽しく、何度もせがんで繰り返した。
「おお、ご機嫌だな」
顔を上げると純白のパパがいる。シャイターンは両手を伸ばし、ルシファーに抱っこを強請った。すぐに願いは叶い、綺麗な顔が近づく。
シャイターンの知る世界は狭い。言葉はいくつも覚えたが、まだ使いこなせなかった。移動できる範囲も狭いし、うまく魔力も扱えない。ルシファーはそれでもいいと笑う。
ゆっくり育てばいい。そう言われるたびに、シャイターンは笑顔を浮かべた。自分が笑うと、皆が笑ってくれる。肯定感高めに育つシャイターンは無敵だ。
「シャイターンも学校へ通うと言い出しそうだな」
「イヴが通うのを追いかけるかも」
リリスも相槌を打つ。とにかく姉大好きな弟だった。後ろをついて回り、構ってもらおうとする。それをまたイヴが振り返って足を止め、追いつくのを待っていた。仲のいい姉弟で何よりだ。
「イヴは無理していないか」
「本人に聞きなさいよ」
ふふっと笑うリリスが、シャイターンを抱き上げてヤンの上に座る。心得た様子で、ヤンはくるりと丸まった。中央の窪みにハマった状態で、リリスはシャイターンを擽り始める。
「ほぉら! 擽ったいわよぉ」
「きゃぁああ! やぁ」
身をのけ反って笑うシャイターンは、母リリスから逃れようと必死だ。しかしヤンに包み込まれた体は抜け出せず、脇や腹、背中や首筋、手のひらに至るまで、擽り尽くされた。笑いすぎて苦しそうだ。
「イヴ、話をしようか」
「うん」
嬉しそうに頷くイヴを久しぶりに抱き上げる。リリスもそうだが、一定年齢になると抱っこの回数が減る。今は抱っこされまくるシャイターンもいずれは、同じように抱っこが減るのだろう。
懐かしく思いながら頬を寄せれば、イヴは両手を首に回して強く抱きしめ返した。
10
お気に入りに追加
744
あなたにおすすめの小説
転生してスローライフ?そんなもの絶対にしたくありません!
シンさん
ファンタジー
婚約を破棄して、自由気ままにスローライフをしたいなんて絶対にあり得ない。
悪役令嬢に転生した超貧乏な前世をおくっいた泰子は、贅沢三昧でくらせるならバッドエンドも受け入れると誓う。
だって、何にも出来ない侯爵令嬢が、スローライフとか普通に無理でしょ。
ちょっと人生なめてるよね。
田舎暮らしが簡単で幸せだとでもおもっているのかしら。
そのおめでたい考えが、破滅を生むのよ!
虐げられてきた女の子が、小説の残虐非道な侯爵令嬢に転生して始まるズッコケライフ。
異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝
饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。
話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。
混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。
そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変!
どうなっちゃうの?!
異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。
★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。
★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。
★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。
「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。
亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません!
いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。
突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。
里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。
そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。
三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。
だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。
とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。
いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。
町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。
落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。
そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。
すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。
ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。
姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。
そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった……
これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。
※ざまぁまで時間かかります。
ファンタジー部門ランキング一位
HOTランキング 一位
総合ランキング一位
ありがとうございます!
大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ
さとう
ファンタジー
書籍1~8巻好評発売中!
コミカライズ連載中! コミックス1~3巻発売決定!
ビッグバロッグ王国・大貴族エストレイヤ家次男の少年アシュト。
魔法適正『植物』という微妙でハズレな魔法属性で将軍一家に相応しくないとされ、両親から見放されてしまう。
そして、優秀な将軍の兄、将来を期待された魔法師の妹と比較され、将来を誓い合った幼馴染は兄の婚約者になってしまい……アシュトはもう家にいることができず、十八歳で未開の大地オーベルシュタインの領主になる。
一人、森で暮らそうとするアシュトの元に、希少な種族たちが次々と集まり、やがて大きな村となり……ハズレ属性と思われた『植物』魔法は、未開の地での生活には欠かせない魔法だった!
これは、植物魔法師アシュトが、未開の地オーベルシュタインで仲間たちと共に過ごすスローライフ物語。
異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】
ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎
って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!
何故こうなった…
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
そして死亡する原因には不可解な点が…
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる