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第27章 春の芽吹き
482.追いかけて寒さに震える
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「アスタロトはどうした?」
魔力を辿りながら呟き、ルシファーは目を瞬いた。
「海?」
リリスの発言通り、海の方角からアスタロトの魔力を感じる。だが戦闘状態ではないので、差し迫った状態ではないと思われた。そう説明すると、リリスは「危険じゃないなら行きましょう」と促す。
イヴがいないので、結界無効化の心配もない。ならばルシファーが同行する以上、大きな心配はないだろう。自身でそう判断したルシファーが、足元に魔法陣を描いた。終点はアスタロトにしたいが、もし影の中なら入れない。少し離れた安全な地点を選び出した。
「空中だな」
「わたくしも同行しますわ」
ひょいっと飛び乗って便乗するベルゼビュートと共に、魔王夫妻は転移した。宣言の通り、海辺の上空だ。見回す範囲に、アスタロトやルーサルカの姿はなかった。
「あの辺だと思うんだが」
特定した地点を指差すが、完全に海の中である。追うなら海へ入らなくてはならない。ちらりと視線を向けた妻は、大きく頷いた。
「行きましょう、ルシファー」
「わかった」
リリスをしっかりと腕に閉じ込め、今度はルーサルカの魔力を終点に飛んだ。空中なので、結界を大きめに膨らませておく。強大な魔力による結界で保護された二人を、ベルゼビュートも追いかけた。
海中は明るく、きらきらと陽光に照らされて眩しい。大した深さはないが、海流は速いらしい。海藻が大きく左へ靡いていた。
「ルカだわ」
リリスが指差したのは、右側だった。海藻が茂みのようにわさっと生える一角に、狐尻尾が見える。ふさふさした様子から、濡れているわけではなさそうだ。
問題は足元の方だ。明らかに影が大きかった。他の影より色の濃い黒は、どこか恐ろしさを感じる。
「アスタロトに何かあったか?」
「どちらかといえば、不満がありそうよ」
ベルゼビュートは直感で指摘した。ほぼ本能に従って生きる精霊女王は、その読みを外さない。ぶわっと影がルーサルカを包み、瞬く間に金髪のアスタロト大公の姿を作り上げた。
娘を抱き寄せる義父は、どこか刺々しい雰囲気だ。海の種族がいるかどうか、よく見えなかった。が、近づくのは危険な気がする。その意見は、ベルゼビュートも同様だった。
「絶対に怒ってるわ」
「嫌な感じがするんだよな」
尻込みする二人に、リリスは腰に手を当てて唇を尖らせた。
「親友の危機なのよ、助けてちょうだい」
「助けるのに異論はないんだが……その……邪魔するとアスタロトが怖いぞ」
義娘にいいところを見せている最中なら、うっかり助けに入ると攻撃される。下手すると埋められてしまう。過去の経験から、ルシファーは部下の危険性を語って聞かせた。そこへベルゼビュートも追い打ちをかける。
「そうよ、アスタロトほど陰湿な魔族はいないんだから」
「……そうですか、お二人の気持ちはよく理解いたしましたよ。なるほど、そのように思っておられたんですね」
暖かな日差しが差し込む海水が、急激に冷える。凍えるような寒さは、氷河に触れているようだった。実際は錯覚……いや、もしかしたら魔力による干渉か。ぞくぞくと背筋が凍る寒さに震えながら、魔王と女大公は振り返った。
こういうとき、どうして人は振り返ってしまうのか。恐怖の対象がいると理解しているくせに、怖いもの見たさで確認する。そして悲鳴を上げるのだ。
「うわっ」
「きゃぁああ!」
「あら、アシュタ。ルカは無事みたいね」
まったく恐怖を感じていないリリスは、アスタロトが抱き上げた友人の姿に笑顔を向けた。
魔力を辿りながら呟き、ルシファーは目を瞬いた。
「海?」
リリスの発言通り、海の方角からアスタロトの魔力を感じる。だが戦闘状態ではないので、差し迫った状態ではないと思われた。そう説明すると、リリスは「危険じゃないなら行きましょう」と促す。
イヴがいないので、結界無効化の心配もない。ならばルシファーが同行する以上、大きな心配はないだろう。自身でそう判断したルシファーが、足元に魔法陣を描いた。終点はアスタロトにしたいが、もし影の中なら入れない。少し離れた安全な地点を選び出した。
「空中だな」
「わたくしも同行しますわ」
ひょいっと飛び乗って便乗するベルゼビュートと共に、魔王夫妻は転移した。宣言の通り、海辺の上空だ。見回す範囲に、アスタロトやルーサルカの姿はなかった。
「あの辺だと思うんだが」
特定した地点を指差すが、完全に海の中である。追うなら海へ入らなくてはならない。ちらりと視線を向けた妻は、大きく頷いた。
「行きましょう、ルシファー」
「わかった」
リリスをしっかりと腕に閉じ込め、今度はルーサルカの魔力を終点に飛んだ。空中なので、結界を大きめに膨らませておく。強大な魔力による結界で保護された二人を、ベルゼビュートも追いかけた。
海中は明るく、きらきらと陽光に照らされて眩しい。大した深さはないが、海流は速いらしい。海藻が大きく左へ靡いていた。
「ルカだわ」
リリスが指差したのは、右側だった。海藻が茂みのようにわさっと生える一角に、狐尻尾が見える。ふさふさした様子から、濡れているわけではなさそうだ。
問題は足元の方だ。明らかに影が大きかった。他の影より色の濃い黒は、どこか恐ろしさを感じる。
「アスタロトに何かあったか?」
「どちらかといえば、不満がありそうよ」
ベルゼビュートは直感で指摘した。ほぼ本能に従って生きる精霊女王は、その読みを外さない。ぶわっと影がルーサルカを包み、瞬く間に金髪のアスタロト大公の姿を作り上げた。
娘を抱き寄せる義父は、どこか刺々しい雰囲気だ。海の種族がいるかどうか、よく見えなかった。が、近づくのは危険な気がする。その意見は、ベルゼビュートも同様だった。
「絶対に怒ってるわ」
「嫌な感じがするんだよな」
尻込みする二人に、リリスは腰に手を当てて唇を尖らせた。
「親友の危機なのよ、助けてちょうだい」
「助けるのに異論はないんだが……その……邪魔するとアスタロトが怖いぞ」
義娘にいいところを見せている最中なら、うっかり助けに入ると攻撃される。下手すると埋められてしまう。過去の経験から、ルシファーは部下の危険性を語って聞かせた。そこへベルゼビュートも追い打ちをかける。
「そうよ、アスタロトほど陰湿な魔族はいないんだから」
「……そうですか、お二人の気持ちはよく理解いたしましたよ。なるほど、そのように思っておられたんですね」
暖かな日差しが差し込む海水が、急激に冷える。凍えるような寒さは、氷河に触れているようだった。実際は錯覚……いや、もしかしたら魔力による干渉か。ぞくぞくと背筋が凍る寒さに震えながら、魔王と女大公は振り返った。
こういうとき、どうして人は振り返ってしまうのか。恐怖の対象がいると理解しているくせに、怖いもの見たさで確認する。そして悲鳴を上げるのだ。
「うわっ」
「きゃぁああ!」
「あら、アシュタ。ルカは無事みたいね」
まったく恐怖を感じていないリリスは、アスタロトが抱き上げた友人の姿に笑顔を向けた。
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