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第27章 春の芽吹き
478.最初から勝てない相手でしたね
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魔王ルシファーによく似た純白の髪を持つ犯人、その噂はまだ広まっていなかった。行方不明事件は知られているが、容疑者の容姿に関しては緘口令が敷かれる。
混乱をもたらさないため、その理由に目撃者達も素直に頷いた。実際、自分の目で見た当人が困惑している。魔王陛下の色をした、でも絶対に魔王陛下以外の誰か。
純白という色を纏うには、相応の魔力が必要だ。長い髪が純白となれば、魔王に匹敵する膨大な魔力が必要だった。
大公アスタロトが「四人揃って勝てるかどうか」と称したのは昔の話。魔力量の増えたルシファーに勝てるのは、魔王妃リリスだけだろう。
魔力の面ではなく、絶対に攻撃されないという意味で。その話になれば、娘のイヴや息子シャイターンも含まれる。特に結界を無効化出来るイヴは、物理面でも強かった。
「ルカ、お話があります」
訪ねてきた義父を、ルーサルカは笑顔で迎え入れた。魔王城の一角に与えられた部屋は、子ども部屋を含めて六部屋もある。広い居間のソファーを勧め、彼女はお茶を淹れ始めた。家族は外出している。
「囮作戦に名乗りを上げたそうですね」
直球で核心に触れる。それだけアスタロトが動揺した証拠だった。いつもなら遠回りに、真綿で首を絞めるように距離を詰めるタイプだ。
「お茶をどうぞ」
話を逸らすように、ルーサルカは緑茶の入ったカップを置いた。日本人が好むお茶で、最近は民の間にも広がっている。紅茶とは色も香りも全く違う。同じお茶の木から収穫できるのが不思議だった。
一口飲んで、アスタロトが顔を上げる。待っていたように、ルーサルカは切り出した。
「お義父様、私より条件のいい囮がいますか?」
「いえ……ですが」
「身内だからと贔屓するのは、アスタロト大公閣下らしくないです」
お義父様と呼んだばかりなのに、肩書きで釘を刺された。これは大公として判断して欲しいと言われたのも同じだ。大公として判断すれば、ルーサルカは条件を満たす最高の餌だった。
「守ってくださるでしょう? 昔のように名を呼んだら、お義父様は助けてくれる。影に潜んで、私を守れるのはお義父さまだけです」
「……っ、ずるいですね。アデーレの知恵ですか」
「お義母様は、やめておきなさいと仰いました。お義父様が発狂するわと」
くすくす笑う義娘の茶色い髪に手を伸ばし、久しぶりに撫でる。半獣人のルーサルカは、自慢の狐尻尾をひらりと振る。人族との間に生まれたので、獣耳はなかった。それでも獣人の特徴である尻尾があれば、囮になれるはず。
「お役に立ちたいのがひとつ、幼い子を残して行方不明になった若い母親の気持ちを思うと苦しいのがひとつ」
数えるルーサルカの声に、アスタロトは苦笑いを浮かべた。これは勝てそうにありませんね。実の娘が生まれても、養女のルーサルカを愛する気持ちは変わらない。それどころか強くなった気がした。
「私が役立てるなら、動きたい。応援してくれませんか」
「いいでしょう。影に潜み、あなたを傷ひとつ付けず守ってみせます。それでも、無茶はしないでください。本能で危険と判断したら、迷わず私を頼ること。いいですね?」
「はい、お義父様」
にっこり笑った娘に、アスタロトは不思議な強さを感じていた。強く生まれついて、溢れんばかりの魔力を持つ自分より、ルーサルカの方が強いのではないか。
短命な魔族は精神的な成長が早く、その分だけ強い。長寿である私達は、それだけで負けているのかも知れませんね。
「作戦を練るので、明日の朝、ルシファー様の執務室に来てください」
約束を取り付け立ち上がると、思わぬ提案をされた。
「お義母様もお呼びしたので、一緒に夕食を食べましょう。もう準備してあります。スイやルイも帰ってくるので、ぜひ」
誘いに微笑んで頷いた。
「お招きに与り恐縮です」
戯けた口調で返すと、ルーサルカは楽しそうに声を立てて笑った。
混乱をもたらさないため、その理由に目撃者達も素直に頷いた。実際、自分の目で見た当人が困惑している。魔王陛下の色をした、でも絶対に魔王陛下以外の誰か。
純白という色を纏うには、相応の魔力が必要だ。長い髪が純白となれば、魔王に匹敵する膨大な魔力が必要だった。
大公アスタロトが「四人揃って勝てるかどうか」と称したのは昔の話。魔力量の増えたルシファーに勝てるのは、魔王妃リリスだけだろう。
魔力の面ではなく、絶対に攻撃されないという意味で。その話になれば、娘のイヴや息子シャイターンも含まれる。特に結界を無効化出来るイヴは、物理面でも強かった。
「ルカ、お話があります」
訪ねてきた義父を、ルーサルカは笑顔で迎え入れた。魔王城の一角に与えられた部屋は、子ども部屋を含めて六部屋もある。広い居間のソファーを勧め、彼女はお茶を淹れ始めた。家族は外出している。
「囮作戦に名乗りを上げたそうですね」
直球で核心に触れる。それだけアスタロトが動揺した証拠だった。いつもなら遠回りに、真綿で首を絞めるように距離を詰めるタイプだ。
「お茶をどうぞ」
話を逸らすように、ルーサルカは緑茶の入ったカップを置いた。日本人が好むお茶で、最近は民の間にも広がっている。紅茶とは色も香りも全く違う。同じお茶の木から収穫できるのが不思議だった。
一口飲んで、アスタロトが顔を上げる。待っていたように、ルーサルカは切り出した。
「お義父様、私より条件のいい囮がいますか?」
「いえ……ですが」
「身内だからと贔屓するのは、アスタロト大公閣下らしくないです」
お義父様と呼んだばかりなのに、肩書きで釘を刺された。これは大公として判断して欲しいと言われたのも同じだ。大公として判断すれば、ルーサルカは条件を満たす最高の餌だった。
「守ってくださるでしょう? 昔のように名を呼んだら、お義父様は助けてくれる。影に潜んで、私を守れるのはお義父さまだけです」
「……っ、ずるいですね。アデーレの知恵ですか」
「お義母様は、やめておきなさいと仰いました。お義父様が発狂するわと」
くすくす笑う義娘の茶色い髪に手を伸ばし、久しぶりに撫でる。半獣人のルーサルカは、自慢の狐尻尾をひらりと振る。人族との間に生まれたので、獣耳はなかった。それでも獣人の特徴である尻尾があれば、囮になれるはず。
「お役に立ちたいのがひとつ、幼い子を残して行方不明になった若い母親の気持ちを思うと苦しいのがひとつ」
数えるルーサルカの声に、アスタロトは苦笑いを浮かべた。これは勝てそうにありませんね。実の娘が生まれても、養女のルーサルカを愛する気持ちは変わらない。それどころか強くなった気がした。
「私が役立てるなら、動きたい。応援してくれませんか」
「いいでしょう。影に潜み、あなたを傷ひとつ付けず守ってみせます。それでも、無茶はしないでください。本能で危険と判断したら、迷わず私を頼ること。いいですね?」
「はい、お義父様」
にっこり笑った娘に、アスタロトは不思議な強さを感じていた。強く生まれついて、溢れんばかりの魔力を持つ自分より、ルーサルカの方が強いのではないか。
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「お義母様もお呼びしたので、一緒に夕食を食べましょう。もう準備してあります。スイやルイも帰ってくるので、ぜひ」
誘いに微笑んで頷いた。
「お招きに与り恐縮です」
戯けた口調で返すと、ルーサルカは楽しそうに声を立てて笑った。
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