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第27章 春の芽吹き

475.隠された行方不明事件

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 シエルは朝から張り切って、保育園へ向かった。学校へイヴを送ってきたルシファーと鉢合わせし、アイムはきちんと挨拶をする。

「おはようございます」

「ああ、おはよう。よく眠れたか?」

「はい」

 姉が丁寧に受け答えする横で、手を繋いだシエルは興奮状態だった。落ち着かなく、そわそわと保育園を見つめる。

「ねえ、早く!」

 急かす弟をアイムが叱る前に、ルシファーが動いた。

「話は執務室で聞こう。オレもイヴを送っていかないと遅刻だ」

 さっと引いて、保育園の先にある学校へと急ぐ。途中で手を離したイヴは、友人達に手を振りながら登校する。見送って、踵を返した。

 転移を使うと叱られる。歩いて戻る魔王の姿に、同じように我が子に付き添った親達は親近感を覚えた。挨拶だけでなく世間話も始まる。

「少し前に騒ぎになった行方不明事件ですが、進展がありましたか?」

「ん? 行方不明??」

 そんな話聞いてないぞ。首を傾げるルシファーに、竜人族の父親は驚いた。普段は魔王に話が上がる案件だ。どこで話が止まったのか。

「ご存知ないのですか。我らの谷にも応援要請がありました。なんでも獣人が数人、森で消えたとか。帰ってこないそうです。家族からの要請で、竜族と共に空から探しました」

 わずか数週間前の事件だという。獣人、森で行方不明、最近のこと。これだけ重なれば、アイムの叔父も含まれるのは間違いない。

「助かった。感謝する」

 礼を言って、歩く足を早めた。大急ぎで城の階段を上る。執務室に入ると、昨日頼んだベールが報告に来ていた。いや、それどころか大公が四人揃っている。

「行方不明事件、聞いてないぞ」

「当然です。お伝えしておりません」

 知らないのが当たり前と言い切られ、ベールに食ってかかる。

「どうして言わなかった!」

「すでに魔王軍が捜索に出ており、報告できる詳細が集まらないからです」

 対策は大公の権限で行なった。しかし、報告できる情報が集まらない。そう言われたらその通りなのだが、ルシファーは違和感を覚えた。

 考えるまでもなく、いつもは事件発生時点で報告を受ける。進捗がなくとも、事件そのものは耳に入るのだ。それが隠されたように……ん? そこでルシファーは大公達の顔を順番に見つめた。

 きょとんとしたベルゼビュートはオレと同じ。知らなかったはず。だが、ベールは目を逸らし、ルキフェルは顔ごとそっぽを向いた。アスタロトは仮面のような笑みを貼り付けている。

「もう一度聞くぞ? なぜ隠した」

 誰に聞くのが確実か。付き合いの長いルシファーは、一番与し易い相手を選んだ。

「ルキフェル、答えろ」

「っ、僕なの? もう!」

 ぷくりと頬を膨らませ、不満そうに唇を尖らせる。彼を問い詰めれば、ベールが喋るだろう。そう踏んでの指名だったが、ノックの音に遮られた。
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