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第27章 春の芽吹き
473.仲睦まじい猫獣人の姉弟
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「謝らなくていいです。いなくなった保護者は叔父でした。私とシエルの面倒を見てくれていたんですが、狩りに出た半月前から戻っていません」
まだ子どもとは思えない、しっかりした口ぶりだ。叔父が育てている環境なら、両親はいないのだろう。保護者の躾が厳しかったのか。または保護者がかなり緩い人で、自然と鍛えられたのか。どちらにしても、ルシファーが同情する話ではない。
「叔父の捜索願は出したか?」
「はい、隣のおばさんが代わりに。家にあったお金が尽きるので、働こうと思ったんです」
率先して事情を話してくれたので、ルシファーは状況を頭の中で整理した。すでに捜索願が出ているなら、魔王軍が率先して動いているはず。この子はしばらく保護するか。
「仕事はあるんですよね!」
きらきらと目を輝かせる少女に、ただ保護されろと言うのも可哀想だ。本人にやる気があり、それだけの能力があるなら、年齢や外見に捉われず仕事を与えるべきだろう。
「ああ、嘘は言わないぞ。きちんとした教師の仕事だ。それとは別に計算関係の仕事もある」
「私、文字が書けません」
肉球の手を差し出す彼女に、ルシファーは笑顔で返した。
「安心しろ、肉球の種族は他にも勤めている。魔法陣の自動筆記が使えるからな。そちらの方が高給取りだから、お勧めだ」
給与が高い。そう聞いた少女の目が大きく見開かれた。猫獣人の縦に入った瞳孔が、すぅと細められる。手がくしくしと顔を洗う仕草をした。
「お金いっぱいの方がいいです」
「そうか、助かる。計算係は急ぎで人を集めていたんだ」
上手に誘導して、執務室で仕事をしてもらうつもりらしい。過去に子育て用で拡張したこともあり、室内は広い。目が行き届く場所で、安全を確保する策だった。
「分かりました」
「寮の部屋はいつでも入れるよう準備しておく。弟のシエルと予定を決めて連絡してくれ」
「はい」
聞き分けが良すぎて、なんだか可哀想なくらいだ。イヴがあと数年でここまで成長するかと問われたら、首を横に振る。育った環境環境、種族、財政状況……様々な違いがあるとしても、長寿な魔族だからこそ、幼い時期を大切に過ごして欲しかった。
お菓子の入ったバスケットを大切に抱き締めるアイムに、ひとつ提案をした。
「お菓子をシエルへ届けに行こう。まだ仕事の振り分けがあるから戻る必要があるけれど、二人が望むなら一緒に来てもいい」
ぱちくりと瞬いて、嬉しそうに笑う。その笑顔は年齢相応だった。手を繋いで座標を彼女のイメージに合わせて飛ぶ。難しい転移をあっさりとこなし、ルシファーは薄暗い部屋の中を見回した。
木造の家で、壁や柱には爪を研いだ跡が残っている。家具は少なく、明かり取りになる窓はすべて雨戸が閉まっていた。
「シエル、どこ? 帰ってきたよ」
アイムが呼ぶと、ちらりと顔を見せる幼子が首を引っ込める。見慣れないルシファーの姿に、用心しているようだ。威圧感を与えないよう、ぺたんと床に座って胡座をかいた。
「お菓子も軽食もあるぞ。ほら……おいで」
人たらしの笑みで手招きし、手が届く位置まで呼ぶのに数分。シエルは姉と同じ色の猫獣人だった。柔らかい茶色の髪に、緑の瞳がそっくりだ。
姉から受け取った焼き菓子を頬張りながら、シエルはこてりと首を傾げる。
「お姉ちゃん、仕事あったの?」
「うん。魔王城でお仕事する」
途端にシエルは泣き出した。ぽろぽろ溢れる涙を、手の甲で乱暴に拭う。彼の手も肉球で、甲は柔らかな茶色の毛で覆われていた。しゃくりあげながら泣く弟に、アイムは困惑した顔で唇を尖らせた。
「泣かなくていい。シエルもアイムと一緒に暮らせる。心配するな」
「ほんと?」
アイムはようやく弟の涙の理由に気づいた。離れ離れになると思ったらしい。そんなことしないのに。
まだ子どもとは思えない、しっかりした口ぶりだ。叔父が育てている環境なら、両親はいないのだろう。保護者の躾が厳しかったのか。または保護者がかなり緩い人で、自然と鍛えられたのか。どちらにしても、ルシファーが同情する話ではない。
「叔父の捜索願は出したか?」
「はい、隣のおばさんが代わりに。家にあったお金が尽きるので、働こうと思ったんです」
率先して事情を話してくれたので、ルシファーは状況を頭の中で整理した。すでに捜索願が出ているなら、魔王軍が率先して動いているはず。この子はしばらく保護するか。
「仕事はあるんですよね!」
きらきらと目を輝かせる少女に、ただ保護されろと言うのも可哀想だ。本人にやる気があり、それだけの能力があるなら、年齢や外見に捉われず仕事を与えるべきだろう。
「ああ、嘘は言わないぞ。きちんとした教師の仕事だ。それとは別に計算関係の仕事もある」
「私、文字が書けません」
肉球の手を差し出す彼女に、ルシファーは笑顔で返した。
「安心しろ、肉球の種族は他にも勤めている。魔法陣の自動筆記が使えるからな。そちらの方が高給取りだから、お勧めだ」
給与が高い。そう聞いた少女の目が大きく見開かれた。猫獣人の縦に入った瞳孔が、すぅと細められる。手がくしくしと顔を洗う仕草をした。
「お金いっぱいの方がいいです」
「そうか、助かる。計算係は急ぎで人を集めていたんだ」
上手に誘導して、執務室で仕事をしてもらうつもりらしい。過去に子育て用で拡張したこともあり、室内は広い。目が行き届く場所で、安全を確保する策だった。
「分かりました」
「寮の部屋はいつでも入れるよう準備しておく。弟のシエルと予定を決めて連絡してくれ」
「はい」
聞き分けが良すぎて、なんだか可哀想なくらいだ。イヴがあと数年でここまで成長するかと問われたら、首を横に振る。育った環境環境、種族、財政状況……様々な違いがあるとしても、長寿な魔族だからこそ、幼い時期を大切に過ごして欲しかった。
お菓子の入ったバスケットを大切に抱き締めるアイムに、ひとつ提案をした。
「お菓子をシエルへ届けに行こう。まだ仕事の振り分けがあるから戻る必要があるけれど、二人が望むなら一緒に来てもいい」
ぱちくりと瞬いて、嬉しそうに笑う。その笑顔は年齢相応だった。手を繋いで座標を彼女のイメージに合わせて飛ぶ。難しい転移をあっさりとこなし、ルシファーは薄暗い部屋の中を見回した。
木造の家で、壁や柱には爪を研いだ跡が残っている。家具は少なく、明かり取りになる窓はすべて雨戸が閉まっていた。
「シエル、どこ? 帰ってきたよ」
アイムが呼ぶと、ちらりと顔を見せる幼子が首を引っ込める。見慣れないルシファーの姿に、用心しているようだ。威圧感を与えないよう、ぺたんと床に座って胡座をかいた。
「お菓子も軽食もあるぞ。ほら……おいで」
人たらしの笑みで手招きし、手が届く位置まで呼ぶのに数分。シエルは姉と同じ色の猫獣人だった。柔らかい茶色の髪に、緑の瞳がそっくりだ。
姉から受け取った焼き菓子を頬張りながら、シエルはこてりと首を傾げる。
「お姉ちゃん、仕事あったの?」
「うん。魔王城でお仕事する」
途端にシエルは泣き出した。ぽろぽろ溢れる涙を、手の甲で乱暴に拭う。彼の手も肉球で、甲は柔らかな茶色の毛で覆われていた。しゃくりあげながら泣く弟に、アイムは困惑した顔で唇を尖らせた。
「泣かなくていい。シエルもアイムと一緒に暮らせる。心配するな」
「ほんと?」
アイムはようやく弟の涙の理由に気づいた。離れ離れになると思ったらしい。そんなことしないのに。
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