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第26章 魔の森の目覚め

462.森林浴ならぬ魔力浴

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 楽しかった浜焼きバーベキューが終わり、後片付けを魔王軍が担当する。軍と銘打っているが、現時点で魔王城公認の何でも屋さんだった。

 戦う相手がそもそもいなかった。数の暴力に訴える人族は滅びたし、魔族が種族で反乱を起こしても大公が鎮圧する。まれに魔王自身も出陣するが。反乱を起こしても他種族の理解が得られない。ならば逆らうより、魔王チャレンジを選ぶのが賢い選択だった。

 魔王の座を狙うことが出来る魔王チャレンジの存在で、逆に反乱が減る結果を生んでいた。

「ねえ、ルシファー」

「なんだ、リリス」

 魔王城の庭に並べた長椅子に寝そべった妻へ、膝枕する魔王は首を傾げる。目の前に設置されたテントは、現在イヴと友人達の遊び場だった。テント内で寝転んだり、玩具を広げたり、絵本を読んだり。子ども達は自分達だけの閉鎖空間を楽しんでいた。

 まだ赤子のシャイターンは無理なので、長椅子に寝るリリスの腕でお昼寝中だ。とにかくよく眠る子で、正直助かっていた。夜泣きもイヴと比べたら半分以下だった。

「吸血鬼だったりしてな」

 よく眠る種族の代表として挙げられる吸血種だが、可能性がないとは言えない。先祖が不明な二人に、別種族の血が流れている可能性があるからだ。おそらくリリンが直接創り上げただろうが、当人が本来の姿に戻って話せないため、事情は不明だった。

「でもルシファーも数十年寝たんでしょう? 魔王史に書いてあったわ」

 読破したリリスは、50年ほど起きなかった事例を口に出した。当時の勇者と戦って疲れた、と理由が書かれていた。実際は違うらしい。単に色々な後処理が嫌になり、ストライキをしただけ。アスタロトには内緒と言われ、リリスはしっかり約束を守っていた。

「そうだな、そう考えたらオレに似たのか」

 息子が自分に似ていた。そう考えたら、寝てばかりのシャイターンへの愛情が高まる。顔立ちが似るのは当然だが、魔力もイヴより多いようだ。

 赤子のうちは不安定なので、正確な測定は出来ない。それでも時折イヴを上回る魔力量を見せた。彼女が伯爵位程度なので、公爵に匹敵する辺りか。魔力量だけで爵位を決めるわけではないが、ひとつの目安になっていた。

「体調はどうだ?」

「魔の森の魔力が強くて、すごく心地いいわ」

 イザヤによれば森林浴というらしい。魔力を放出する魔の森は、リリスにとって居心地のよい環境のようだ。ルシファーにとっては微量なので、さほど影響は感じない。これは魔力量より、持って生まれた性質の差か。

「パッパ、ママ。お腹すいた」

 テントからひょっこり顔を出した愛娘は、お絵描きをしていたようだ。自分の顔にも絵が描かれていた。バランスの良い花の絵に、マーリーンあたりが書いたのだろうと見当をつける。直後、横から顔を出したマーリーンも、額に蜂のような絵が描かれていた。

「顔に花が咲いているぞ」

「うん、可愛いからいいの」

 満足そうなイヴだが、なぜ友人の額に花ではなく蜂を描いたのか。子どもの真意を理解できず、ルシファーは首を傾げた。

「どうしてマーリーンは蜂なんだ?」

「お花とセットだから」

 けろりと答えた子どもらしい理論に、ルシファーはなるほどと頷いた。だが、当事者のマーリーンは驚いた顔を見せる。

「え? 花じゃないの?」

 泣きそうな彼女に、慌てたイヴがクレヨンを手に取った。頬に花を描く。それからマーリーンの手の甲にも。

「花と蜂はセットなのよ」

「うん……」

 微妙に不満を窺わせるマーリーンだが、イヴに反論はしなかった。お姉ちゃんだから自分が我慢すべきと思っているのか。

「イヴ、花とセットなのは蝶よ」

 相変わらず空気を読まない発言をしたリリスは、夫を青ざめさせた。
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