448 / 530
第25章 蘇った過去の思い出
446.仕事をしたら一家団欒も忘れずに
しおりを挟む
魔王一家の団欒は、夫婦二人から娘を交えた三人に増え、養子と末っ子が増えて五人になった。イポスに連れられて保育園へ向かったイヴとレラジェは、帰りもしっかり手を繋いで帰宅する。
「こっちにおいで」
執務室へ顔を出した二人を手招きし、リリスを呼んでくれるよう侍従のベリアルに頼んだ。来客用のテーブルへお菓子やお茶を用意し始める。相変わらずなんでも放り込まれた収納は、今日も元気にいつのだか不明なお菓子とお茶を出現させた。
「いい加減、腐ったのではありませんか?」
「平気だ。出来立てだぞ」
「……いつの出来立てですか」
眉を寄せて安全性と賞味期限を心配するアスタロトだが、収納空間で物が腐ったり劣化しないのは知っている。ただ、食べ物を数千年単位で保管するのをやめて欲しい。家族に平然と提供するのもどうだろうか。この辺はリリスの口から注意させよう。アスタロトは密かに決意した。
まあ収納し忘れた大量備蓄のお陰で、魔の森の草木から魔力が失われた時は助かったのだが。それはそれ、これはこれである。
レラジェとイヴは初めて見るお菓子に興味津々だった。いわゆる平べったい焼き菓子なのだが、色が非常に地味だ。リリスの好みで、焼き菓子は砂糖やチョコでコーティングされることが多い。木の実を入れることもあり、形状も様々だった。
丸いお菓子を上から叩き潰したような形、初めての香りに、二人は目を輝かせる。この姿を見ていると、見た目通りに幼く感じられた。
「これ、何? パッパ」
「人族が昔作っていたので、真似て作ったやつだな。甘くないお菓子だ」
「甘くないの?」
がっかりした様子を見せたのは、イヴだ。甘党の彼女は、初めて見るお菓子に興味を失ったらしい。不満そうに足を揺らす。そこへルシファーがジャムや蜂蜜を用意した。イヴの好きなチョコレートもたっぷり。
「これを塗って半分に畳んで食べるんだ。楽しそうだろ」
「そんな食べ方でしたっけ?」
普通に食べていた気がします。アスタロトの指摘に「これでいいんだ」とルシファーは開き直った。過去の食べ方と同じ必要はない。美味しければいいのだ。自分で塗れば甘さや量も調整できる。
野暮な指摘を諦め、アスタロトはレラジェに話しかけた。
「本当にこの父親で大丈夫ですか? 不安なら、別の家庭を紹介しますが」
「ううん、僕はパパとママの子がいい。可愛いイヴもいるし……シャイターンのお兄ちゃんになりたいから」
すでに呼び方がパパとママになっているなら、問題なさそうですね。ほっとした顔でアスタロトが頷いた。
「ルシファー、もうお仕事終わったの?」
「休憩だ、リリス」
手招きして、シャイターンを抱いたリリスを膝に乗せる。初めてのお菓子に手や服を汚しながら、イヴがご機嫌で頬張った。その世話を焼きながら、レラジェも齧り付く。大量にチョコを巻いたイヴのお手製クレープもどきは、反対側から勢いよくチョコが吹き出した。
その様子に笑い転げ、溢れたチョコをイヴが指で掬って舐める。子育て家庭によくある光景だが、一般的には悲鳴を上げる状況だろう。浄化魔法のある家庭なら、さほど問題視されない。
「アスモデウスは元気か?」
「ええ。毎日鳴きながら走り回っていますよ」
外へ散歩に連れ出す手間が省けて助かります。そんな口調のアスタロトに、追い回される子犬の光景が浮かぶ。可哀想だが、あいつの自業自得だ。過去にアスタロトが呪われた原因のひとつが、アスモデウスだからな。
懐かしく思い出しながら、ルシファーも差し出されたクレープもどきに口をつける。齧った途端、ぼたぼたとジャムが溢れた。少し考えて、結界でクレープ巻きを包む。ジャムだらけになったが、結界のお陰で溢さず食べ切った。
「それ、僕にも教えて」
キラキラした目で強請られ、ルシファーは機嫌よく息子レラジェに結界の作り方を伝授した。
「こっちにおいで」
執務室へ顔を出した二人を手招きし、リリスを呼んでくれるよう侍従のベリアルに頼んだ。来客用のテーブルへお菓子やお茶を用意し始める。相変わらずなんでも放り込まれた収納は、今日も元気にいつのだか不明なお菓子とお茶を出現させた。
「いい加減、腐ったのではありませんか?」
「平気だ。出来立てだぞ」
「……いつの出来立てですか」
眉を寄せて安全性と賞味期限を心配するアスタロトだが、収納空間で物が腐ったり劣化しないのは知っている。ただ、食べ物を数千年単位で保管するのをやめて欲しい。家族に平然と提供するのもどうだろうか。この辺はリリスの口から注意させよう。アスタロトは密かに決意した。
まあ収納し忘れた大量備蓄のお陰で、魔の森の草木から魔力が失われた時は助かったのだが。それはそれ、これはこれである。
レラジェとイヴは初めて見るお菓子に興味津々だった。いわゆる平べったい焼き菓子なのだが、色が非常に地味だ。リリスの好みで、焼き菓子は砂糖やチョコでコーティングされることが多い。木の実を入れることもあり、形状も様々だった。
丸いお菓子を上から叩き潰したような形、初めての香りに、二人は目を輝かせる。この姿を見ていると、見た目通りに幼く感じられた。
「これ、何? パッパ」
「人族が昔作っていたので、真似て作ったやつだな。甘くないお菓子だ」
「甘くないの?」
がっかりした様子を見せたのは、イヴだ。甘党の彼女は、初めて見るお菓子に興味を失ったらしい。不満そうに足を揺らす。そこへルシファーがジャムや蜂蜜を用意した。イヴの好きなチョコレートもたっぷり。
「これを塗って半分に畳んで食べるんだ。楽しそうだろ」
「そんな食べ方でしたっけ?」
普通に食べていた気がします。アスタロトの指摘に「これでいいんだ」とルシファーは開き直った。過去の食べ方と同じ必要はない。美味しければいいのだ。自分で塗れば甘さや量も調整できる。
野暮な指摘を諦め、アスタロトはレラジェに話しかけた。
「本当にこの父親で大丈夫ですか? 不安なら、別の家庭を紹介しますが」
「ううん、僕はパパとママの子がいい。可愛いイヴもいるし……シャイターンのお兄ちゃんになりたいから」
すでに呼び方がパパとママになっているなら、問題なさそうですね。ほっとした顔でアスタロトが頷いた。
「ルシファー、もうお仕事終わったの?」
「休憩だ、リリス」
手招きして、シャイターンを抱いたリリスを膝に乗せる。初めてのお菓子に手や服を汚しながら、イヴがご機嫌で頬張った。その世話を焼きながら、レラジェも齧り付く。大量にチョコを巻いたイヴのお手製クレープもどきは、反対側から勢いよくチョコが吹き出した。
その様子に笑い転げ、溢れたチョコをイヴが指で掬って舐める。子育て家庭によくある光景だが、一般的には悲鳴を上げる状況だろう。浄化魔法のある家庭なら、さほど問題視されない。
「アスモデウスは元気か?」
「ええ。毎日鳴きながら走り回っていますよ」
外へ散歩に連れ出す手間が省けて助かります。そんな口調のアスタロトに、追い回される子犬の光景が浮かぶ。可哀想だが、あいつの自業自得だ。過去にアスタロトが呪われた原因のひとつが、アスモデウスだからな。
懐かしく思い出しながら、ルシファーも差し出されたクレープもどきに口をつける。齧った途端、ぼたぼたとジャムが溢れた。少し考えて、結界でクレープ巻きを包む。ジャムだらけになったが、結界のお陰で溢さず食べ切った。
「それ、僕にも教えて」
キラキラした目で強請られ、ルシファーは機嫌よく息子レラジェに結界の作り方を伝授した。
10
お気に入りに追加
746
あなたにおすすめの小説
転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。
隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。
婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。
しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
クソガキ、暴れます。
サイリウム
ファンタジー
気が付いたら鬱エロゲ(SRPG)世界の曇らせ凌辱負けヒロイン、しかも原作開始10年前に転生しちゃったお話。自分が原作のようになるのは死んでも嫌なので、原作知識を使って信仰を失ってしまった神様を再降臨。力を借りて成長していきます。師匠にクソつよお婆ちゃん、騎馬にクソデカペガサスを連れて、完膚なきまでにシナリオをぶっ壊します。
ハーメルン、カクヨム、なろうでも投稿しております。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】
ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。
亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません!
いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。
突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。
里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。
そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。
三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。
だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。
とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。
いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。
町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。
落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。
そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。
すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。
ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。
姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。
そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった……
これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。
※ざまぁまで時間かかります。
ファンタジー部門ランキング一位
HOTランキング 一位
総合ランキング一位
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる