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第25章 蘇った過去の思い出
445.交渉手腕が凄すぎて怖い
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発注を受けたドワーフは大喜びだった。勝手に設計図を数本持ち込み、その場でさらに追加の設計図が仕上がっていく。
「魔王様、どれがいいだ?」
「……この辺かな」
図面の読み方はよくわからないが、あまり細かく部屋を区切るのは好きではない。その程度の感覚で数枚を選んだ。それを元にディスカッションが始まり、施主である魔王は弾き出される。
「あとは決めとくでさ、魔王様はいいで」
遠回しに作業の邪魔だと言われてしまった。仕方なく寝室へ移動し、レラジェの荷物を片付け始める。収納魔法で持ち込んだ中から、日常使うものを出してもらっていた。それを棚に片付けていく。
一段落したので、侍従に声をかけて執務室へ足を踏み入れ……ぐるりと反転するが時遅し。がっと腕を掴まれた。
「ルシファー様、どちらへ行くのですか?」
「い、いや……」
どこと尋ねられれば、お前のいない場所と答えたい。積まれた書類を分類する側近は、淡い金髪を揺らして首を傾げた。その整った顔に浮かんだ笑みが怖い。
「まだ休暇中じゃないのか、アスタロト」
「延長した休暇は昨日で終わりましたよ」
ちゃんと確認しろと言わんばかりに、机に一枚の書類が置かれた。首を伸ばして恐る恐る確認すれば、休暇の許可書だった。確かに昨日までになっている。
「仕事頑張ってくれ」
「お待ちください。ドワーフ達は何を始めたのですか」
「ああ、レラジェの部屋を作っている。子供部屋が必要だからな」
「設計図と予算は?」
「……親方が持ってる、と思う」
予算の確認なんてしなかったぞ。ベールに聞いたら「私財でお願いします」と言われたし、個人資産から出すなら問題ないと思っていた。
侍従に指示を出したアスタロトにより、ドワーフの親方は現場から呼び出された。当然不機嫌で、むすっとした顔で槌を担いでいる。
「なんだぁ、細ぇこと言いやがって」
ぶつぶつ言いながら、さっと図面を広げた。机の上に広げられた書類を無視し、さらに見積もりを置く。いつの間に……というか、オレの時は出てこなかったぞ?
ルシファーが首を傾げる間に、予算の調整が終わった。さらに図面の一部に変更が入り、親方が唸る。
「ここは強度がよぉ」
「おや、これは失礼しました。ドワーフに作れない建築物があったとは」
「やってやらぁよ」
いつもの親方が腰を痛めたので、代理で送りこまれたのだが、魔王城の仕事を請け負うのは初めてだ。過去に魔王城の再建で協力したが、親方として魔王城の現場を仕切った経験はない。故に、アスタロトの口のうまさに乗せられた。
職人気質なので、交渉術はどうしても文官に劣る。言い包められていく姿に、なんとも言えない表情の魔王が同情を示した。もちろん言葉にしたりしない。邪魔をすれば痛い目を見るのはルシファーなのだ。
「打ち合わせは終わりです。ではよろしくお願いしますね」
「おう、任しときな!」
元気よく出ていく親方は気づいていない。予算が当初の8割に削られ、扉などの装飾が増えたことを。手間は増えて予算が減ったのだ。上手に煽て、時に出来ないのかと嘲り、アスタロトは己の手のひらで親方を転がした。
見ていて哀れになるほどの手腕は、アスタロトの手際の良さを引き立てる。
「子供部屋は二つ作ります。後日、また増やすでしょうが……ひとまず足りますね」
「ああ、助かった」
レラジェとイヴの部屋だ。シャイターンは成長度合いがまだわからないので、準備は数年後でも間に合うだろう。イヴのようにゆっくり育つ可能性が高いので、急ぐ必要もなかった。
「さて、では休み中のルシファー様の仕事を確認します。その間、こちらを処理してください」
顔を引き攣らせたルシファーだが、不備の指摘は数枚で済んだ。お陰で家族揃っての夕食には、十分間に合ったらしい。
「魔王様、どれがいいだ?」
「……この辺かな」
図面の読み方はよくわからないが、あまり細かく部屋を区切るのは好きではない。その程度の感覚で数枚を選んだ。それを元にディスカッションが始まり、施主である魔王は弾き出される。
「あとは決めとくでさ、魔王様はいいで」
遠回しに作業の邪魔だと言われてしまった。仕方なく寝室へ移動し、レラジェの荷物を片付け始める。収納魔法で持ち込んだ中から、日常使うものを出してもらっていた。それを棚に片付けていく。
一段落したので、侍従に声をかけて執務室へ足を踏み入れ……ぐるりと反転するが時遅し。がっと腕を掴まれた。
「ルシファー様、どちらへ行くのですか?」
「い、いや……」
どこと尋ねられれば、お前のいない場所と答えたい。積まれた書類を分類する側近は、淡い金髪を揺らして首を傾げた。その整った顔に浮かんだ笑みが怖い。
「まだ休暇中じゃないのか、アスタロト」
「延長した休暇は昨日で終わりましたよ」
ちゃんと確認しろと言わんばかりに、机に一枚の書類が置かれた。首を伸ばして恐る恐る確認すれば、休暇の許可書だった。確かに昨日までになっている。
「仕事頑張ってくれ」
「お待ちください。ドワーフ達は何を始めたのですか」
「ああ、レラジェの部屋を作っている。子供部屋が必要だからな」
「設計図と予算は?」
「……親方が持ってる、と思う」
予算の確認なんてしなかったぞ。ベールに聞いたら「私財でお願いします」と言われたし、個人資産から出すなら問題ないと思っていた。
侍従に指示を出したアスタロトにより、ドワーフの親方は現場から呼び出された。当然不機嫌で、むすっとした顔で槌を担いでいる。
「なんだぁ、細ぇこと言いやがって」
ぶつぶつ言いながら、さっと図面を広げた。机の上に広げられた書類を無視し、さらに見積もりを置く。いつの間に……というか、オレの時は出てこなかったぞ?
ルシファーが首を傾げる間に、予算の調整が終わった。さらに図面の一部に変更が入り、親方が唸る。
「ここは強度がよぉ」
「おや、これは失礼しました。ドワーフに作れない建築物があったとは」
「やってやらぁよ」
いつもの親方が腰を痛めたので、代理で送りこまれたのだが、魔王城の仕事を請け負うのは初めてだ。過去に魔王城の再建で協力したが、親方として魔王城の現場を仕切った経験はない。故に、アスタロトの口のうまさに乗せられた。
職人気質なので、交渉術はどうしても文官に劣る。言い包められていく姿に、なんとも言えない表情の魔王が同情を示した。もちろん言葉にしたりしない。邪魔をすれば痛い目を見るのはルシファーなのだ。
「打ち合わせは終わりです。ではよろしくお願いしますね」
「おう、任しときな!」
元気よく出ていく親方は気づいていない。予算が当初の8割に削られ、扉などの装飾が増えたことを。手間は増えて予算が減ったのだ。上手に煽て、時に出来ないのかと嘲り、アスタロトは己の手のひらで親方を転がした。
見ていて哀れになるほどの手腕は、アスタロトの手際の良さを引き立てる。
「子供部屋は二つ作ります。後日、また増やすでしょうが……ひとまず足りますね」
「ああ、助かった」
レラジェとイヴの部屋だ。シャイターンは成長度合いがまだわからないので、準備は数年後でも間に合うだろう。イヴのようにゆっくり育つ可能性が高いので、急ぐ必要もなかった。
「さて、では休み中のルシファー様の仕事を確認します。その間、こちらを処理してください」
顔を引き攣らせたルシファーだが、不備の指摘は数枚で済んだ。お陰で家族揃っての夕食には、十分間に合ったらしい。
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