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第25章 蘇った過去の思い出
443.本人が承諾するなら仕方ない
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夕食、お風呂、寝室。イヴは諦めなかった。どうしても犬が飼いたいのである。
「ダメなものはダメだ」
いつもは甘いルシファーも、ことが命に絡むなら厳しい。イヴはまだ幼く理解していないが、生き物の面倒を見るのは大変なのだ。
過去に拾ったエルフや竜族の卵……はアスタロトが世話をしたっけ。リリスとか……楽しかったから大変ではなかったな。
思い出す記憶は例えとして使い物にならない。仕方なく「ダメ」の一点張りで通そうとした。だが、イヴも保育園でただ遊んでいるわけではない。
友人達と言葉を交わし、要求を通して適度に引く。子どもながらに立派な駆け引きをしていた。おもちゃを交互に使うのもそう、奪われた時に抗議するのも、取り返した後に貸してあげるのも……すべて交渉術である。
「アシュタだって、魔族を飼ってるじゃん」
イヴは痛いところを指摘した。アスモデウスは別、と言いたいが……詳しい事情を話せないので説明に詰まる。
「あれはいいんだ」
「ずるい!」
「大人は狡いのが普通だ」
むっと唇を尖らせたイヴを、リリスは膝の上に招いた。鼻を啜りながら抱きついたイヴに、こそっと策を授ける。嬉しそうなイヴは振り返って、大声で言い放った。
「じゃあ、あの子をごえーにする!」
「うぐっ……卑怯な」
リリスに知恵をつけられたイヴは勝利を確信していた。何だかんだ言っても、パッパはあたしに甘いんだから。
「護衛の意味が分かってるのか?」
「ヤンでしょ」
ある意味ドンピシャで言い返されてしまった。ここで首を傾げたら、すぐにでも拒否するつもりだったのに。ぐぬぬと悔しそうに唸り、ルシファーは肩を落とした。
「わかった。本人と両親に確認してからだぞ」
実際、護衛は必要になる。それは事実だが……。ここであまり否定すると、フェンリルがダメなのかと勘違いさせる。護衛として灰色魔狼は最適なのだ。鼻が利き、言葉を喋り、忠誠心に厚い。一度主君と定めたら絶対に裏切らない。
幼い頃から交流し、その忠誠を受けられるなら……これ以上ない護衛だった。反対しづらい。だが幼い子狼を親から引き剥がすのは、嫌だと思う。自分が逆の立場なら、絶対に拒むのだから。
「今夜は寝なさい」
「はぁい」
すっかり上機嫌の娘は、拒まれる未来があるなんて想像もしないのだろう。明日の朝、断られて泣くとしても、それもひとつの経験だ。ルシファーはリリスとの間にイヴを寝かせ、幼い我が子の明日を思って目を閉じた。
「構いませんぞ」
朝から呼び出したヤンは、けろりと承諾する。昨夜悩んだルシファーの気持ちは、入り込む余地がなかった。
「えっと、護衛として訓練して預かるんだぞ? 両親と引き離すことになるが」
「問題ありませぬ。我らがフェンリルは魔王様の配下であることを誇りに思っております。イヴ姫の護衛に選ばれるなど、一族の誉れですぞ」
「それはいいとして、本人は親と離れることを承諾するのか?」
本人の意思が大事だろうと促せば、ヤンはすぐに連れて戻った。きょとんとした顔の子狼は、すでに大型犬サイズの立派な体格をしている。毛皮の色はやや濃ネズミ色で、四本の足に白い毛が生えていた。
「いいか、よく聞いてくれ。娘のイヴの護衛になるかどうか。もし護衛になれば、この魔王城に住むことになる。両親とは休みの日しか会えないが」
バゥ! 勢いよく返事をする子狼の言葉を、ヤンが翻訳した。承諾らしい。本当に理解しているのか、三回も確認したが……最終的にルシファーが折れた。というか、子狼はこの大きさになれば両親と離れて、同年代の群れで暮らすらしい。
親からの巣立ちと考えれば、ちょうどいい時期と説明され、早すぎるだろとルシファーは頭を抱える。各種族ごと、事情が異なるのは分かるが、自分なら耐えられない。
「我が君、よろしくお願いします」
ガウゥ! ご機嫌な子狼の頭を撫で、ひとまず言葉から教えるようヤンへ指示を出した。
「ダメなものはダメだ」
いつもは甘いルシファーも、ことが命に絡むなら厳しい。イヴはまだ幼く理解していないが、生き物の面倒を見るのは大変なのだ。
過去に拾ったエルフや竜族の卵……はアスタロトが世話をしたっけ。リリスとか……楽しかったから大変ではなかったな。
思い出す記憶は例えとして使い物にならない。仕方なく「ダメ」の一点張りで通そうとした。だが、イヴも保育園でただ遊んでいるわけではない。
友人達と言葉を交わし、要求を通して適度に引く。子どもながらに立派な駆け引きをしていた。おもちゃを交互に使うのもそう、奪われた時に抗議するのも、取り返した後に貸してあげるのも……すべて交渉術である。
「アシュタだって、魔族を飼ってるじゃん」
イヴは痛いところを指摘した。アスモデウスは別、と言いたいが……詳しい事情を話せないので説明に詰まる。
「あれはいいんだ」
「ずるい!」
「大人は狡いのが普通だ」
むっと唇を尖らせたイヴを、リリスは膝の上に招いた。鼻を啜りながら抱きついたイヴに、こそっと策を授ける。嬉しそうなイヴは振り返って、大声で言い放った。
「じゃあ、あの子をごえーにする!」
「うぐっ……卑怯な」
リリスに知恵をつけられたイヴは勝利を確信していた。何だかんだ言っても、パッパはあたしに甘いんだから。
「護衛の意味が分かってるのか?」
「ヤンでしょ」
ある意味ドンピシャで言い返されてしまった。ここで首を傾げたら、すぐにでも拒否するつもりだったのに。ぐぬぬと悔しそうに唸り、ルシファーは肩を落とした。
「わかった。本人と両親に確認してからだぞ」
実際、護衛は必要になる。それは事実だが……。ここであまり否定すると、フェンリルがダメなのかと勘違いさせる。護衛として灰色魔狼は最適なのだ。鼻が利き、言葉を喋り、忠誠心に厚い。一度主君と定めたら絶対に裏切らない。
幼い頃から交流し、その忠誠を受けられるなら……これ以上ない護衛だった。反対しづらい。だが幼い子狼を親から引き剥がすのは、嫌だと思う。自分が逆の立場なら、絶対に拒むのだから。
「今夜は寝なさい」
「はぁい」
すっかり上機嫌の娘は、拒まれる未来があるなんて想像もしないのだろう。明日の朝、断られて泣くとしても、それもひとつの経験だ。ルシファーはリリスとの間にイヴを寝かせ、幼い我が子の明日を思って目を閉じた。
「構いませんぞ」
朝から呼び出したヤンは、けろりと承諾する。昨夜悩んだルシファーの気持ちは、入り込む余地がなかった。
「えっと、護衛として訓練して預かるんだぞ? 両親と引き離すことになるが」
「問題ありませぬ。我らがフェンリルは魔王様の配下であることを誇りに思っております。イヴ姫の護衛に選ばれるなど、一族の誉れですぞ」
「それはいいとして、本人は親と離れることを承諾するのか?」
本人の意思が大事だろうと促せば、ヤンはすぐに連れて戻った。きょとんとした顔の子狼は、すでに大型犬サイズの立派な体格をしている。毛皮の色はやや濃ネズミ色で、四本の足に白い毛が生えていた。
「いいか、よく聞いてくれ。娘のイヴの護衛になるかどうか。もし護衛になれば、この魔王城に住むことになる。両親とは休みの日しか会えないが」
バゥ! 勢いよく返事をする子狼の言葉を、ヤンが翻訳した。承諾らしい。本当に理解しているのか、三回も確認したが……最終的にルシファーが折れた。というか、子狼はこの大きさになれば両親と離れて、同年代の群れで暮らすらしい。
親からの巣立ちと考えれば、ちょうどいい時期と説明され、早すぎるだろとルシファーは頭を抱える。各種族ごと、事情が異なるのは分かるが、自分なら耐えられない。
「我が君、よろしくお願いします」
ガウゥ! ご機嫌な子狼の頭を撫で、ひとまず言葉から教えるようヤンへ指示を出した。
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