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第25章 蘇った過去の思い出
439.魔の森が人を食った?
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突如現れた青年は、十分過ぎるほど見覚えがあった。悩む時間すら必要ない。ルシファーの眉間に皺が寄る。気に入らないと思いながら、睨みつけた。
散歩中で一緒だったリリスとシャイターンを庇う位置に立つ。幸い、イヴは保育園で留守だった。
魔王ルシファーは己の立場や地位を理解している。だから特定の誰かを嫌うことは少なかった。いや、嫌っても表に出さない。ここまで顕著に態度に出すのは珍しい。それ以上に、ベールも表情を強張らせた。
中庭に冷たい空気が流れる。ルシファーとベール以外、この場でアスモデウスの過去を知っている者はいない。ほぼ初対面の状況で、ここまで嫌われる高魔力保持者は注目の的となった。
「何の用だ?」
「へぇ、アスタロトの話を聞いても半信半疑だったが、本当にあのガキが魔王になったんだな」
「陛下、殺害の許可を」
「いいよ。全力で潰そう」
無礼な物言いにベールがキレ、楽しそうだとルキフェルが便乗する。ルシファーはしばらく考えた後、嫌そうに舌打ちした。
「ここへお前を寄越したのは、アスタロトだな? 面倒を押し付けやがって」
使用された転移魔法の痕跡は、アスタロトの物だった。アスモデウスの魔力ではない。となれば、面倒臭い奴が起きてきたが相手をするのが面倒なので、こちらへ放り投げた。事情を察して、さらに顔を歪めた。
アスモデウスは意思の疎通が可能な魔力持ち、すなわち魔族に分類される。大公3人と同じ、初期の魔族だ。まだ魔の森が不安定だった頃吐き出された魔力の一つで、それ故に強大な魔力を保有した。
戦えば、かなり被害が大きくなる。魔力量が激増した今のルシファーなら余裕で勝てるが、被害を考えるとそうもいかない。悩む彼の袖を、くいっとリリスが引っ張った。
「おそらく、お母様が呼んだと思うの。リリンに引き渡しましょう」
「リリンが?」
何の為だろう。首を傾げるが、魔の森の意向なんて理解できるわけがない。彼女は世界そのものであり、人とは違う考え方の次元で生きてるのだから。
「魔の森に意思? 名前まで付けたのか」
「無礼な言い方は……」
ぶわっと森に生温かい風が吹いた。妙な気味の悪さに、全員が首を竦める。直後、アスモデウスが木の枝に捕獲された。あり得ない光景なのだが、そう表現する以外に言葉がない。
森の木が大きく伸びて、飲み込むようにアスモデウスを取り込んだ。暴れる彼の手足がちょっとはみ出ているが、すぐに中へ引き摺り込まれた。どう見ても、魔の森に食われたとしか思えない。
「……食われた、ぞ?」
掠れた声のルシファーが、ぎこちなく現場を指差す。通りかかったデュラハンは「何も見ませんでした」と明らかな嘘をついて逃げだした。面倒ごとに関わらないという強い意志を感じる。
「すげぇ、今の現象を記録しておけばよかった」
悔しそうにルキフェルが溜め息を吐いた。
「アスモデウスは何をしにきたのでしょうか」
「さあ」
ベールの疑問にルキフェルも首を傾げ、自然と視線は魔王夫妻へ向けられる。だがルシファーも知るわけがなく、隣のリリスへ注目した。
「リリス……今の……」
「リリンね。私達も行ってみましょうよ」
まるで遊びに行こうと誘うような口調のリリスに促され、ルシファーは転移した。リリンの魔力は座標固定しやすい。真っ暗な洞窟の出口のように、輝いて認識できるのだ。ルシファーを凌ぐ膨大な魔力の持ち主は、愛し子の登場に両手を広げて大歓迎した。
「ルシファー、リリス、シャイターンも! 嬉しい」
リリスによく似た少女は言葉以上に表情で、その喜びを伝えて飛びついた。
散歩中で一緒だったリリスとシャイターンを庇う位置に立つ。幸い、イヴは保育園で留守だった。
魔王ルシファーは己の立場や地位を理解している。だから特定の誰かを嫌うことは少なかった。いや、嫌っても表に出さない。ここまで顕著に態度に出すのは珍しい。それ以上に、ベールも表情を強張らせた。
中庭に冷たい空気が流れる。ルシファーとベール以外、この場でアスモデウスの過去を知っている者はいない。ほぼ初対面の状況で、ここまで嫌われる高魔力保持者は注目の的となった。
「何の用だ?」
「へぇ、アスタロトの話を聞いても半信半疑だったが、本当にあのガキが魔王になったんだな」
「陛下、殺害の許可を」
「いいよ。全力で潰そう」
無礼な物言いにベールがキレ、楽しそうだとルキフェルが便乗する。ルシファーはしばらく考えた後、嫌そうに舌打ちした。
「ここへお前を寄越したのは、アスタロトだな? 面倒を押し付けやがって」
使用された転移魔法の痕跡は、アスタロトの物だった。アスモデウスの魔力ではない。となれば、面倒臭い奴が起きてきたが相手をするのが面倒なので、こちらへ放り投げた。事情を察して、さらに顔を歪めた。
アスモデウスは意思の疎通が可能な魔力持ち、すなわち魔族に分類される。大公3人と同じ、初期の魔族だ。まだ魔の森が不安定だった頃吐き出された魔力の一つで、それ故に強大な魔力を保有した。
戦えば、かなり被害が大きくなる。魔力量が激増した今のルシファーなら余裕で勝てるが、被害を考えるとそうもいかない。悩む彼の袖を、くいっとリリスが引っ張った。
「おそらく、お母様が呼んだと思うの。リリンに引き渡しましょう」
「リリンが?」
何の為だろう。首を傾げるが、魔の森の意向なんて理解できるわけがない。彼女は世界そのものであり、人とは違う考え方の次元で生きてるのだから。
「魔の森に意思? 名前まで付けたのか」
「無礼な言い方は……」
ぶわっと森に生温かい風が吹いた。妙な気味の悪さに、全員が首を竦める。直後、アスモデウスが木の枝に捕獲された。あり得ない光景なのだが、そう表現する以外に言葉がない。
森の木が大きく伸びて、飲み込むようにアスモデウスを取り込んだ。暴れる彼の手足がちょっとはみ出ているが、すぐに中へ引き摺り込まれた。どう見ても、魔の森に食われたとしか思えない。
「……食われた、ぞ?」
掠れた声のルシファーが、ぎこちなく現場を指差す。通りかかったデュラハンは「何も見ませんでした」と明らかな嘘をついて逃げだした。面倒ごとに関わらないという強い意志を感じる。
「すげぇ、今の現象を記録しておけばよかった」
悔しそうにルキフェルが溜め息を吐いた。
「アスモデウスは何をしにきたのでしょうか」
「さあ」
ベールの疑問にルキフェルも首を傾げ、自然と視線は魔王夫妻へ向けられる。だがルシファーも知るわけがなく、隣のリリスへ注目した。
「リリス……今の……」
「リリンね。私達も行ってみましょうよ」
まるで遊びに行こうと誘うような口調のリリスに促され、ルシファーは転移した。リリンの魔力は座標固定しやすい。真っ暗な洞窟の出口のように、輝いて認識できるのだ。ルシファーを凌ぐ膨大な魔力の持ち主は、愛し子の登場に両手を広げて大歓迎した。
「ルシファー、リリス、シャイターンも! 嬉しい」
リリスによく似た少女は言葉以上に表情で、その喜びを伝えて飛びついた。
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