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第24章 思っていたのと違う
435.パパは許しません!
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本人の承諾と、魔王に大公全員の署名が揃った書類により、養子縁組が認められた。魔族の養子は簡単である。
まず本人達が顔合わせし、承諾を伝える。その際、両者の仲介に立つ者へ伝える慣わしだった。直接面と向かって「あなたが親になるのは嫌」と伝えられる子どもはいないからだ。両方の意見が対立すれば、この時点で縁組は消滅する。
一度養子縁組をして親子になっても、気が合わない、きちんと面倒を見ないなどの理由で、解消となることも少なくなかった。その場合、片方の申し出を受けて、あっさり解消される。両者の言い分を聞いてもいいのだが、一度拗れた関係は元に戻らないからだ。
解消後、逆にご近所さんとしては仲良く過ごせる事例もあった。縁組解消を求められた側の言い分も、文官達はきちんと書面に起こしている。後で揉めた際の証拠にするためだった。過去の失敗やトラブルを糧として、日々アップデートに勤しむ魔王城の事務能力は高い。
ただ書類処理に「魔王か大公の署名」という古いシステムが紛れていた。そのため毎回上層部が苦労していただけの話だ。現在は日本人のアンナが提唱した組織図に従い処理がなされるので、かなり負担は軽減されていた。
「レラジェは本当にいいの? 私の弟でもいいのよ」
リリスは心配そうに最終確認を行う。姉弟のような関係なのに、いきなり母親として接して平気か。リリスなりに迷った末の言葉だった。
「いいよ。僕はパパも欲しかったから。顔も似てるし、ちょうどいい」
母親は魔の森でありリリンと置き換えられる。だが父親は最初からいなかった。それが大好きなルシファーが父親になると聞いて、レラジェは喜んだ。可愛い妹や弟が出来るのも大歓迎だ。
一緒にソファーに腰掛け、目の前に出された焼き菓子をイヴと分け合うレラジェは、どこから見ても面倒見のいい兄だった。外見年齢の割に落ち着きすぎだが。
「今日からレラジェは、イヴのお兄ちゃんだ」
「やだ!」
イヴの大声での拒否に、全員がぴたりと動きを止めた。そういえば、レラジェの意思確認はしたが、イヴに尋ねるのを忘れていた。魔王夫妻の一人娘から、弟が生まれ、兄が出来る。激しすぎる変化の中、彼女の新たな反抗期だろうか。
「なぜ嫌なんだ?」
そんなことを言ってはいけないと叱るのは簡単だ。しかし、幼いながらもイヴには意思がある。己の意見を通す権利もあった。きちんと理由を聞いて、話し合って、それでも決裂するなら考えよう。ルシファーは気長に構えるつもりだった……しかし、イヴの発言で顔を引き攣らせる。
「だってお兄ちゃんは結婚できないって聞いたもん」
「け、っこん……?」
誰に聞いたのか、それ以前に相談した相手がいるのか? それは異性だったりないだろうな。レラジェとの結婚は認めないぞ。イヴはオレの娘として、一生一緒に暮らすんだ。様々な思いが早口言葉のように脳裏を流れ、吐き出したのは間抜けな声だった。
「相談、いや結婚は……一生、無理」
きょとんとした顔になったイヴだが、すぐに表情を引き締めた。伸ばされた父ルシファーの手をペチンと叩く。
「パッパ! ダメでしょ」
何がダメなのか。オレはイヴのためなら死ねるぞ。いやリリスのためでも死ねるがそうじゃなくて。あ、シャイターンを忘れてた。混乱でパンクしそうな頭の中で、意味不明の考えが流れる。ここでルシファーはすべてを放棄した。
というより、都合のいい言葉を見つけたのだ。
「兄と妹でも結婚できるぞ? 血が繋がってないからな」
「うん」
イヴは納得した。複雑そうな顔だが、レラジェは反論を呑み込む。向かいでは妻リリスが呆れ顔で、シャイターンにミルクを与えていた。
「このままじゃ、イヴは結婚させてもらえないわね」
一歩間違えば、自分も同じ運命を辿っていたリリスは、同情を滲ませて首を横に振った。
まず本人達が顔合わせし、承諾を伝える。その際、両者の仲介に立つ者へ伝える慣わしだった。直接面と向かって「あなたが親になるのは嫌」と伝えられる子どもはいないからだ。両方の意見が対立すれば、この時点で縁組は消滅する。
一度養子縁組をして親子になっても、気が合わない、きちんと面倒を見ないなどの理由で、解消となることも少なくなかった。その場合、片方の申し出を受けて、あっさり解消される。両者の言い分を聞いてもいいのだが、一度拗れた関係は元に戻らないからだ。
解消後、逆にご近所さんとしては仲良く過ごせる事例もあった。縁組解消を求められた側の言い分も、文官達はきちんと書面に起こしている。後で揉めた際の証拠にするためだった。過去の失敗やトラブルを糧として、日々アップデートに勤しむ魔王城の事務能力は高い。
ただ書類処理に「魔王か大公の署名」という古いシステムが紛れていた。そのため毎回上層部が苦労していただけの話だ。現在は日本人のアンナが提唱した組織図に従い処理がなされるので、かなり負担は軽減されていた。
「レラジェは本当にいいの? 私の弟でもいいのよ」
リリスは心配そうに最終確認を行う。姉弟のような関係なのに、いきなり母親として接して平気か。リリスなりに迷った末の言葉だった。
「いいよ。僕はパパも欲しかったから。顔も似てるし、ちょうどいい」
母親は魔の森でありリリンと置き換えられる。だが父親は最初からいなかった。それが大好きなルシファーが父親になると聞いて、レラジェは喜んだ。可愛い妹や弟が出来るのも大歓迎だ。
一緒にソファーに腰掛け、目の前に出された焼き菓子をイヴと分け合うレラジェは、どこから見ても面倒見のいい兄だった。外見年齢の割に落ち着きすぎだが。
「今日からレラジェは、イヴのお兄ちゃんだ」
「やだ!」
イヴの大声での拒否に、全員がぴたりと動きを止めた。そういえば、レラジェの意思確認はしたが、イヴに尋ねるのを忘れていた。魔王夫妻の一人娘から、弟が生まれ、兄が出来る。激しすぎる変化の中、彼女の新たな反抗期だろうか。
「なぜ嫌なんだ?」
そんなことを言ってはいけないと叱るのは簡単だ。しかし、幼いながらもイヴには意思がある。己の意見を通す権利もあった。きちんと理由を聞いて、話し合って、それでも決裂するなら考えよう。ルシファーは気長に構えるつもりだった……しかし、イヴの発言で顔を引き攣らせる。
「だってお兄ちゃんは結婚できないって聞いたもん」
「け、っこん……?」
誰に聞いたのか、それ以前に相談した相手がいるのか? それは異性だったりないだろうな。レラジェとの結婚は認めないぞ。イヴはオレの娘として、一生一緒に暮らすんだ。様々な思いが早口言葉のように脳裏を流れ、吐き出したのは間抜けな声だった。
「相談、いや結婚は……一生、無理」
きょとんとした顔になったイヴだが、すぐに表情を引き締めた。伸ばされた父ルシファーの手をペチンと叩く。
「パッパ! ダメでしょ」
何がダメなのか。オレはイヴのためなら死ねるぞ。いやリリスのためでも死ねるがそうじゃなくて。あ、シャイターンを忘れてた。混乱でパンクしそうな頭の中で、意味不明の考えが流れる。ここでルシファーはすべてを放棄した。
というより、都合のいい言葉を見つけたのだ。
「兄と妹でも結婚できるぞ? 血が繋がってないからな」
「うん」
イヴは納得した。複雑そうな顔だが、レラジェは反論を呑み込む。向かいでは妻リリスが呆れ顔で、シャイターンにミルクを与えていた。
「このままじゃ、イヴは結婚させてもらえないわね」
一歩間違えば、自分も同じ運命を辿っていたリリスは、同情を滲ませて首を横に振った。
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