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第24章 思っていたのと違う

434.うちの子は天才かも知れない

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※昨日の更新で、アデーレと別の侍女を勘違いして書いていました。違和感なく書いた自分が( /ω)ハズカチッ!!! ごめんなさい(o´-ω-)o)ペコッ 昨日分をかなり改稿しましたので、433からお読みになることをお勧めします。
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 アデーレは「よいせ」と身を起こし、慌てたアスタロトが抱き上げた。歩かせる気はないらしい。珍しい光景だが、じろじろ見ると後が怖い。ぎこちなく視線を床に逸らした。ちらちら見てしまうのは許して欲しい。

 階段を降りた部屋で、侍女達が慌ただしく走り回っていた。ルシファーやアスタロトの姿に、慌てて頭を下げる。

「忙しいなら悪かった。リリスや大公女達が心配していたので、大丈夫だと伝えておこう」

「はい、よろしくお願いします」

 元気に頭を下げる彼女は、出産の手伝いに来たのだろう。魔王城で見たことがない女性だった。

 室内から「痛い」の声が聞こえると、駆け込んで行った。アスタロトの腕を叩いて下ろしてもらったアデーレは、心配そうに中を覗く。

 陣痛に襲われた侍女が、腹を抱くように蹲った。クッションがいくつも転がり、彼女は右側を下にして丸まる。上掛けに覆われた足元で水音がした。

「破水です! 助産師、それから医師も! あとは総出で狩りに出なさい」

 吸血鬼の出産は独特だ。わっと手分けした一族の半数以上は、狩りの獲物を求めて空へ散った。

 呆然と見送り、ルシファーは廊下の壁に向かって立つ。女性の出産シーンを夫でもないのに、廊下で盗み見しないようにだ。後ろを夫らしき男性が走り、すぐに扉は閉められた。

 ほっと力を抜くルシファーだが、漆黒城はこれから忙しくなる。このまま抜け出すのは気が引けて、アスタロトに申し出てみた。

「アスタロト、狩りならオレも手伝えると思うんだが」

「……いえ、危険なので立ち去ってください。ルシファー様の血はかなり美味しそうなので」

「分かった、帰る」

 素直に申し出を引っ込めて転移魔法陣を展開する。ここでゴネても邪魔になる上、襲われでもしたら責任問題が発生した。吸血種同士なら危険が少ないのだろう。

 お急ぎで戻る魔王を見送り、アデーレがくすくすと笑う。アスタロトに支えられながら彼女は呟いた。

「わざと追い払ったわね?」

「当然でしょう。侍女達はこれからも城勤めで顔を合わせるのですよ。浅ましく血を吸う姿を見せれば、気後れします」

 アスタロトの気遣いは分かりづらい。故に周囲は誤解する人も多かった。それを恐れず、ルシファーの治世を支えるため、常に悪役を買って出た。こんな人だから惚れたのだ。

 アデーレは頬を緩め、絡めた腕に体重をかけた。

「疲れましたか?」

「そうね、戻りましょう」

「ええ。きっとモルガーナが寂しがっています」

 ふふッと笑う妻アデーレを再び抱き上げ、アスタロトは引き上げた。出産は夫婦の大事な行事だ。夫が駆けつけ、出産を手伝う女達の手が足りているなら、当主の出番などないだろう。精々が、出産後の母親達が必要とする血を得る狩りを命じる程度だった。

 愛娘モルガーナの待つ寝室へ戻り、二人で顔を覗き込む。親を交互に視界にとらえ、モルガーナと名付けられた娘は目を見開いた。瞳孔が縦になった吸血種の娘、真っ赤な瞳と金茶の髪をしている。まだ薄い髪に覆われた頭を撫で、アスタロトは呟く。

「魔力量も多いですし、長く一緒に過ごせそうで安心しています。元気に育ってくださいね」

「娘に対しても口調は崩れないのね。パパと仲良くしてあげてね、モルガーナ」

 両親の期待を一身に背負い、赤子ははふっと欠伸をした。小さく伸びるような仕草も見せる。気の所為かも知れないのに、うちの子は天才だと思ってしまう。親バカは例外なく、魔王以外の上位魔族にも現れた。

「モルガーナは天才かも知れません」

「……そうじゃないことを祈るわ」

 現実的な妻の一言に苦笑いしたが、アスタロトは発言を訂正しなかった。
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