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第24章 思っていたのと違う
432.根回しが出来ないタイプの魔王
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真剣な顔で、魔王が宣った。
「弟を義息子にしようと思う」
「いいんじゃないっすか」
「反対しません」
「僕は賛成、今までしなかったのがおかしいよね」
アベル、ベリアル、ルキフェルはそれぞれに仕事をこなしながら、ルシファーに返事をした。両肘を机について、真剣に悩む姿を見せる魔王だが、周囲は見慣れている。この姿勢のときは、大して重要ではない案件で悩んでいるのだ。
過去の経験から側近や侍従長は学んでいた。いつもならアスタロト大公がツッコむ場面だが、彼は妻の出産休暇中である。アベルに言わせると「福利厚生がしっかりしすぎてて、申し訳ないくらいっす」となるらしい。日本とやらは、よほど厳しい世界だったのだろう。
考えが逸れたことに気づいたルシファーは、作り上げた書類に署名して押印する。処理済み書類を持ち帰るアベルに持たせた。
「これで決まりだ!」
「あ、陛下。これは重要案件なので、おそらく大公様全員の署名と押印が必要です」
「え? どうして? オレだけでいいじゃん」
いつもは大公の過半数である3人の署名を、自分一人で終わらせる。ならば、逆に考えたらオレが署名したら、全員の賛成になるはずだ。よく分からない理論を振り翳したルシファーへ、呆れ顔のルキフェルが説明を始めた。
その間に、ルキフェルは書類を指先で摘んで回収し、さっさと自分の署名を終わらせる。レラジェが魔王の弟だろうが息子だろうが、大差ない。魔王の地位は世襲制ではないのだから。
もしイヴが最強なら、彼女が次の女魔王になるし、別の種族がトップに立つ可能性もあった。そもそもルシファーが負けなければ、現体制は維持されるのである。悩む必要はなかった。
単にイヴにお兄ちゃんができるだけの話。そこでルキフェルが慌てる。
「リリスに相談した?」
「もちろんだ! 昨日の夜、お風呂に入った時に尋ねたぞ。いいんじゃない? と言ってた」
たぶん、それ……ちゃんと聞いてない生返事だ。ルキフェルは溜め息を吐き、もう一度リリスと話すよう説得した。これを押し通すと、後で問題が大きくなる。
ルシファーは首を傾げたが、素直に私室へ戻った。その間にベールが呼ばれ、ルキフェルと同意見で署名する。ベルゼビュートは呼び出された文句を言いながら、書類も読まずにサインした。いつも通り汚い文字だが、解読不能で真似出来ない点で、サインとして優れている。
ルシファーが怪訝そうな顔で戻ってきた。
「リリスが、昨夜の話を覚えてないんだ」
「やっぱり。で、許可は取れたの?」
「ああ」
一緒に暮らす話も出たので、その辺はレラジェに確認する。あれこれと決まっていく中、執務室の棚を整えていたベリアルが手を止めた。魔王妃である妻への相談がいい加減だった主君のこと、もしかして? いや、流石にそれはないだろう。自問自答しながら、彼は覚悟を決めて振り返った。
もし聞き忘れていたら、大変だ。侍従長として、職務を遂行するべし! なぜか覚悟を決めて尋ねる。
「魔王陛下、まさかとは思いますが……いえ、絶対にないと思うんですけど」
前置きが長くなるベリアルの様子に首を傾げる。
「どうした?」
「レラジェ様にご相談していますよね?」
聞いた途端、ルシファーが目を見開いた。
「あ!」
「「あ?」」
やっぱりと肩を落とすベリアルと、まさかと責める視線のルキフェル。見事に二人の声はハモったが、音階が全く違う。尋ね返すベリアルの声は高く、はぁ? と顔を顰めたルキフェルの声は地を這うようだった。
「レラジェに話してくる」
飛び出すルシファーを見送り、ルキフェルは呟いた。
「あの人に根回しとか、絶対無理だ。アスタロトと正反対のタイプ」
ベリアルは無言で頷いた。
「弟を義息子にしようと思う」
「いいんじゃないっすか」
「反対しません」
「僕は賛成、今までしなかったのがおかしいよね」
アベル、ベリアル、ルキフェルはそれぞれに仕事をこなしながら、ルシファーに返事をした。両肘を机について、真剣に悩む姿を見せる魔王だが、周囲は見慣れている。この姿勢のときは、大して重要ではない案件で悩んでいるのだ。
過去の経験から側近や侍従長は学んでいた。いつもならアスタロト大公がツッコむ場面だが、彼は妻の出産休暇中である。アベルに言わせると「福利厚生がしっかりしすぎてて、申し訳ないくらいっす」となるらしい。日本とやらは、よほど厳しい世界だったのだろう。
考えが逸れたことに気づいたルシファーは、作り上げた書類に署名して押印する。処理済み書類を持ち帰るアベルに持たせた。
「これで決まりだ!」
「あ、陛下。これは重要案件なので、おそらく大公様全員の署名と押印が必要です」
「え? どうして? オレだけでいいじゃん」
いつもは大公の過半数である3人の署名を、自分一人で終わらせる。ならば、逆に考えたらオレが署名したら、全員の賛成になるはずだ。よく分からない理論を振り翳したルシファーへ、呆れ顔のルキフェルが説明を始めた。
その間に、ルキフェルは書類を指先で摘んで回収し、さっさと自分の署名を終わらせる。レラジェが魔王の弟だろうが息子だろうが、大差ない。魔王の地位は世襲制ではないのだから。
もしイヴが最強なら、彼女が次の女魔王になるし、別の種族がトップに立つ可能性もあった。そもそもルシファーが負けなければ、現体制は維持されるのである。悩む必要はなかった。
単にイヴにお兄ちゃんができるだけの話。そこでルキフェルが慌てる。
「リリスに相談した?」
「もちろんだ! 昨日の夜、お風呂に入った時に尋ねたぞ。いいんじゃない? と言ってた」
たぶん、それ……ちゃんと聞いてない生返事だ。ルキフェルは溜め息を吐き、もう一度リリスと話すよう説得した。これを押し通すと、後で問題が大きくなる。
ルシファーは首を傾げたが、素直に私室へ戻った。その間にベールが呼ばれ、ルキフェルと同意見で署名する。ベルゼビュートは呼び出された文句を言いながら、書類も読まずにサインした。いつも通り汚い文字だが、解読不能で真似出来ない点で、サインとして優れている。
ルシファーが怪訝そうな顔で戻ってきた。
「リリスが、昨夜の話を覚えてないんだ」
「やっぱり。で、許可は取れたの?」
「ああ」
一緒に暮らす話も出たので、その辺はレラジェに確認する。あれこれと決まっていく中、執務室の棚を整えていたベリアルが手を止めた。魔王妃である妻への相談がいい加減だった主君のこと、もしかして? いや、流石にそれはないだろう。自問自答しながら、彼は覚悟を決めて振り返った。
もし聞き忘れていたら、大変だ。侍従長として、職務を遂行するべし! なぜか覚悟を決めて尋ねる。
「魔王陛下、まさかとは思いますが……いえ、絶対にないと思うんですけど」
前置きが長くなるベリアルの様子に首を傾げる。
「どうした?」
「レラジェ様にご相談していますよね?」
聞いた途端、ルシファーが目を見開いた。
「あ!」
「「あ?」」
やっぱりと肩を落とすベリアルと、まさかと責める視線のルキフェル。見事に二人の声はハモったが、音階が全く違う。尋ね返すベリアルの声は高く、はぁ? と顔を顰めたルキフェルの声は地を這うようだった。
「レラジェに話してくる」
飛び出すルシファーを見送り、ルキフェルは呟いた。
「あの人に根回しとか、絶対無理だ。アスタロトと正反対のタイプ」
ベリアルは無言で頷いた。
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