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第24章 思っていたのと違う
428.改善したのに改悪してまた戻す
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斜めを数回繰り返し、ひっくり返るほど捻れたイヴのご機嫌は、簡単に直らない。忙しかった理由も、愛しているの言葉ももらった。さらにルシファーは寝る際に毎回手を繋ぐ話も聞いている。事情は納得したのに、感情は嫌だと叫ぶ。
むっとした顔でルシファーの手を払いのけた。泣きそうな顔に、悪いことしたと謝りかけて……でも言いたくない。複雑な状況に、リリスはあっさりしていた。
「どうしよう」
「そのうち納得するわ。そういうものよ」
子どもには子どもの理屈があり、きちんと飲み込むまで昇華出来ない。大人はその領分へ踏み込むべきではない、とリリスは言い切った。そういうものかと頷くルシファーだが、視線に恨みがましい色が混じる。
可愛いイヴと手を繋ぐレラジェの姿だ。彼も可愛い弟として認めているし、家族だと思う。だが娘を口説くなら敵だった。じっと睨むルシファーに気づいたレラジェは、ほわりと笑ってみせる。その表情はまるで心配無用と知らせるようだった。
「ルシファーが大人げないわ」
「いつものことじゃん」
リリスの指摘にルキフェルは肩を竦めた。何ともレベルの低い争いだが、これが魔族の頂点に立つ王なのだ。
「ところで……こないだのスライム亜種だけど、本物のスライムと会話させてみたいんだよね。許可もらえる?」
「結界張って研究所でやる分にはいいんじゃないか?」
「アスタロトがいないから、誰に許可貰えばいいか……迷っちゃうよ」
ルキフェルが放った何気ない一言。それは事務仕事をこなす文官を束ねるアスタロトの不在を嘆くものだった。ちょうど虫の居所が悪いルシファーは、むっと眉を寄せる。おかしい、魔王はオレなのに誰も許可をもらいに来ない。
考えてみたら、過去は全部自分のところに回ってきたのに。何だか仕事を奪われた気分になった。
実際のところ、ルシファーが仕事を嫌って逃げるので、アスタロトやベールでも代行できるよう法整備した。アンナ達日本人の改革のお陰で、書類処理が減ったと喜んだのも、つい先日のことなのだが……。
誰しも喉元過ぎれば熱さを忘れる。ルシファーもその例に漏れず、あれほど嫌った書類が減った制度を、今になって改悪しようとしていた。
「よし、アスタロトの分も仕事はオレがこなす」
「え? 本当? 助かる!」
手を叩いて喜ぶルキフェルに、気をよくしたルシファーは気づいていない。これが地獄の始まりであることを――。
翌日から大量の書類が積まれた。アスタロトは再び休暇を延長し、戻る気配がない。そこへ追い打ちをかけるように、ベールも魔王軍の新人教育に駆り出された。助けてくれる人が誰もいない状況でも、ルシファーは己の首にかかったロープに気づいていなかった。ちょっと躓けば首が絞まるというのに。
大量の書類が運び込まれ、意気揚々と着手する。だがいくら書いても終わらない上に、分類されていない書類に押しつぶされそうだ。運ばれた時はきちんと分類されていたのだが、そこへ積めと適当に指示した結果……種類関係なく混じった。
お昼を食べる時間も取れず、半泣きになりながら書類に署名押印していく。魔法が使えないので手作業なのも、地味に時間を消費された。
「パッパ、ご飯食べないの?」
心配になったリリスに背を押され、イヴが執務室に顔を見せる。一日書類に埋もれた魔王は、やっと理解した。そうだ、この生活が嫌だから改善したのに、わざわざ苦労する必要はない。重要な書類は片付いているのを確かめ、彼は机にくるりと背を向けた。
扉の隙間から顔を見せる愛らしい娘を抱き上げ、鼻歌を歌いながら私室へ歩き出す。今日はもう終わりだ。明日は半分ほどを文官達へ差し戻そう。謝れば許してくれるさ。
「パッパ、そのお歌間違ってる」
娘イヴが思わぬ指摘をしたので、どこが違うか尋ね……予想外の説明をされた。いや、ルシファー以外からしたら、当然の答えだ。子守唄でリリスが歌った旋律と違う……なるほど。
「違うお歌なんだ」
「ふーん」
イヴは何かを悟った顔で頷く。これは触れてはいけない禁忌、危険を察知する能力は両親以上に優れているイヴであった。
むっとした顔でルシファーの手を払いのけた。泣きそうな顔に、悪いことしたと謝りかけて……でも言いたくない。複雑な状況に、リリスはあっさりしていた。
「どうしよう」
「そのうち納得するわ。そういうものよ」
子どもには子どもの理屈があり、きちんと飲み込むまで昇華出来ない。大人はその領分へ踏み込むべきではない、とリリスは言い切った。そういうものかと頷くルシファーだが、視線に恨みがましい色が混じる。
可愛いイヴと手を繋ぐレラジェの姿だ。彼も可愛い弟として認めているし、家族だと思う。だが娘を口説くなら敵だった。じっと睨むルシファーに気づいたレラジェは、ほわりと笑ってみせる。その表情はまるで心配無用と知らせるようだった。
「ルシファーが大人げないわ」
「いつものことじゃん」
リリスの指摘にルキフェルは肩を竦めた。何ともレベルの低い争いだが、これが魔族の頂点に立つ王なのだ。
「ところで……こないだのスライム亜種だけど、本物のスライムと会話させてみたいんだよね。許可もらえる?」
「結界張って研究所でやる分にはいいんじゃないか?」
「アスタロトがいないから、誰に許可貰えばいいか……迷っちゃうよ」
ルキフェルが放った何気ない一言。それは事務仕事をこなす文官を束ねるアスタロトの不在を嘆くものだった。ちょうど虫の居所が悪いルシファーは、むっと眉を寄せる。おかしい、魔王はオレなのに誰も許可をもらいに来ない。
考えてみたら、過去は全部自分のところに回ってきたのに。何だか仕事を奪われた気分になった。
実際のところ、ルシファーが仕事を嫌って逃げるので、アスタロトやベールでも代行できるよう法整備した。アンナ達日本人の改革のお陰で、書類処理が減ったと喜んだのも、つい先日のことなのだが……。
誰しも喉元過ぎれば熱さを忘れる。ルシファーもその例に漏れず、あれほど嫌った書類が減った制度を、今になって改悪しようとしていた。
「よし、アスタロトの分も仕事はオレがこなす」
「え? 本当? 助かる!」
手を叩いて喜ぶルキフェルに、気をよくしたルシファーは気づいていない。これが地獄の始まりであることを――。
翌日から大量の書類が積まれた。アスタロトは再び休暇を延長し、戻る気配がない。そこへ追い打ちをかけるように、ベールも魔王軍の新人教育に駆り出された。助けてくれる人が誰もいない状況でも、ルシファーは己の首にかかったロープに気づいていなかった。ちょっと躓けば首が絞まるというのに。
大量の書類が運び込まれ、意気揚々と着手する。だがいくら書いても終わらない上に、分類されていない書類に押しつぶされそうだ。運ばれた時はきちんと分類されていたのだが、そこへ積めと適当に指示した結果……種類関係なく混じった。
お昼を食べる時間も取れず、半泣きになりながら書類に署名押印していく。魔法が使えないので手作業なのも、地味に時間を消費された。
「パッパ、ご飯食べないの?」
心配になったリリスに背を押され、イヴが執務室に顔を見せる。一日書類に埋もれた魔王は、やっと理解した。そうだ、この生活が嫌だから改善したのに、わざわざ苦労する必要はない。重要な書類は片付いているのを確かめ、彼は机にくるりと背を向けた。
扉の隙間から顔を見せる愛らしい娘を抱き上げ、鼻歌を歌いながら私室へ歩き出す。今日はもう終わりだ。明日は半分ほどを文官達へ差し戻そう。謝れば許してくれるさ。
「パッパ、そのお歌間違ってる」
娘イヴが思わぬ指摘をしたので、どこが違うか尋ね……予想外の説明をされた。いや、ルシファー以外からしたら、当然の答えだ。子守唄でリリスが歌った旋律と違う……なるほど。
「違うお歌なんだ」
「ふーん」
イヴは何かを悟った顔で頷く。これは触れてはいけない禁忌、危険を察知する能力は両親以上に優れているイヴであった。
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