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第23章 生まれるぅ!
421.破水でアスタロト召喚!
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新たな日課となった漆黒城の見回りを終え、アデーレは日当たりのいいテラスに落ち着いた。吸血種の少女が運んだ長椅子に横たわり、少しうとうとする。
吸血種は日光に弱い。一時期そんな噂が流れたが間違っている。正確に表現するなら、日光を浴びなくても生きていける、だった。一生地下に篭っていても、なんら体調に変化がない。ただそれだけのことだ。
日光浴に最適なテラスは、彼女のお気に入りである。朝から午後まで、ほぼ一日陽が当たる上、魔の森の木々が覆い被さるように風を防いだ。日陰は作らないので、森の木に感謝して微睡む。
「お久しぶりです、母上……っと、眠ってたのか」
起こしてしまったと申し訳なさそうな顔をするのは、息子ストラスだ。サタナキア将軍の娘イポスと結婚し、孫娘の顔を見せてくれた。200年近く結婚せずに親不孝したが、美しく強く優しい嫁を捕まえたので帳消しだ。
「いいわよ、お帰りなさい」
「ただいま戻りました。イポスが、これを差し入れにと」
研究所勤めで変わり者の息子は、嫁の尻に敷かれているらしい。家族円満ならそれもいいとアデーレは考える。各家庭ですべて違っていいのだ。
差し出された包みは、ほんのり甘い香りがした。開けば焼き菓子が並んでいる。上部を窪ませて、ジャムを入れた菓子は柑橘の香りがした。
「手作り?」
「マーリーンが型抜きを手伝い、ジャムを載せました」
「それは素敵ね。一緒にいただきましょう」
すぐにお茶の道具を取り出し、魔法で湯を沸かしてお茶っ葉を煮出す。濃いめに淹れてミルクで割った。カップを用意して注いだアデーレは、腹部に違和感を覚えた。ちくりと刺すような痛みが走る。
眉を寄せたものの、すぐに痛みは消えた。気のせいだったと思い、そのまま何も言わずに腰掛ける。焼き菓子を並べる息子ストラスは気づかない。
「母上とお茶を飲むのは久しぶりですね」
「あなたが徹夜ばかりするからよ。イポスに迷惑をかけているんじゃない?」
「さあ、自分では分かりません。イポスに聞いてもらえますか? 悪い点は直します」
「当然ね。では……っ、痛!」
近々、イポスとマーリーンを呼んで……と言いかけたアデーレは体を丸めた。腹が痛い。ズキズキと激しい痛みに、座っていた長椅子から滑り落ちた。黒い床の上に水が広がっていく。
「母上!?」
「破水……あの人、いえ……」
アスタロトを呼んでも役に立たない。そう判断して、アデーレは顔を顰めた。ルーサルカ? それともイポス。もう誰でもいいわ。お産の経験者を呼んで頂戴。呻きながら絞り出した声に、慌てた様子で同族の少女達が駆け寄った。
外見は少女だが、実年齢は数百歳の子ばかりだ。大急ぎで助産婦を手配し、タオルやお湯の準備を始める。つい先日、別の同族が出産したばかりなので、手際が良かった。
「アスタロト閣下をお呼びして」
「生まれてからの方が良いのでは?」
「呼ばないと殺されるわよ」
一族の長である吸血鬼王との付き合いの長さで、反応が違う。アスタロトをよく知る古参は呼ぶよう命じ、若い世代は首を傾げた。そんな騒動を横目に、隣で狼狽える息子ストラスが、魔力による召喚を試みる。
「父上、アスタロト大公閣下! 母上が」
「何事ですか!」
ぶわっと魔力の渦が場を乱す。魔力を込めた召喚の響きで父を呼んだストラスが、アスタロトに突き飛ばされた。転がる彼を、同族の少女達が受け止める。
床はすでに大量の羊水に濡れ、アデーレの顔色は青白くなっていた。出血はないが、痛みが強いのだろう。帰った夫を見ても何も言えない。そんな妻を抱き上げ、ベッドに運んだアスタロトは眉を寄せた。
「頑張ってください、アデーレ」
心配のあまり、彼は地雷を踏んだ。
吸血種は日光に弱い。一時期そんな噂が流れたが間違っている。正確に表現するなら、日光を浴びなくても生きていける、だった。一生地下に篭っていても、なんら体調に変化がない。ただそれだけのことだ。
日光浴に最適なテラスは、彼女のお気に入りである。朝から午後まで、ほぼ一日陽が当たる上、魔の森の木々が覆い被さるように風を防いだ。日陰は作らないので、森の木に感謝して微睡む。
「お久しぶりです、母上……っと、眠ってたのか」
起こしてしまったと申し訳なさそうな顔をするのは、息子ストラスだ。サタナキア将軍の娘イポスと結婚し、孫娘の顔を見せてくれた。200年近く結婚せずに親不孝したが、美しく強く優しい嫁を捕まえたので帳消しだ。
「いいわよ、お帰りなさい」
「ただいま戻りました。イポスが、これを差し入れにと」
研究所勤めで変わり者の息子は、嫁の尻に敷かれているらしい。家族円満ならそれもいいとアデーレは考える。各家庭ですべて違っていいのだ。
差し出された包みは、ほんのり甘い香りがした。開けば焼き菓子が並んでいる。上部を窪ませて、ジャムを入れた菓子は柑橘の香りがした。
「手作り?」
「マーリーンが型抜きを手伝い、ジャムを載せました」
「それは素敵ね。一緒にいただきましょう」
すぐにお茶の道具を取り出し、魔法で湯を沸かしてお茶っ葉を煮出す。濃いめに淹れてミルクで割った。カップを用意して注いだアデーレは、腹部に違和感を覚えた。ちくりと刺すような痛みが走る。
眉を寄せたものの、すぐに痛みは消えた。気のせいだったと思い、そのまま何も言わずに腰掛ける。焼き菓子を並べる息子ストラスは気づかない。
「母上とお茶を飲むのは久しぶりですね」
「あなたが徹夜ばかりするからよ。イポスに迷惑をかけているんじゃない?」
「さあ、自分では分かりません。イポスに聞いてもらえますか? 悪い点は直します」
「当然ね。では……っ、痛!」
近々、イポスとマーリーンを呼んで……と言いかけたアデーレは体を丸めた。腹が痛い。ズキズキと激しい痛みに、座っていた長椅子から滑り落ちた。黒い床の上に水が広がっていく。
「母上!?」
「破水……あの人、いえ……」
アスタロトを呼んでも役に立たない。そう判断して、アデーレは顔を顰めた。ルーサルカ? それともイポス。もう誰でもいいわ。お産の経験者を呼んで頂戴。呻きながら絞り出した声に、慌てた様子で同族の少女達が駆け寄った。
外見は少女だが、実年齢は数百歳の子ばかりだ。大急ぎで助産婦を手配し、タオルやお湯の準備を始める。つい先日、別の同族が出産したばかりなので、手際が良かった。
「アスタロト閣下をお呼びして」
「生まれてからの方が良いのでは?」
「呼ばないと殺されるわよ」
一族の長である吸血鬼王との付き合いの長さで、反応が違う。アスタロトをよく知る古参は呼ぶよう命じ、若い世代は首を傾げた。そんな騒動を横目に、隣で狼狽える息子ストラスが、魔力による召喚を試みる。
「父上、アスタロト大公閣下! 母上が」
「何事ですか!」
ぶわっと魔力の渦が場を乱す。魔力を込めた召喚の響きで父を呼んだストラスが、アスタロトに突き飛ばされた。転がる彼を、同族の少女達が受け止める。
床はすでに大量の羊水に濡れ、アデーレの顔色は青白くなっていた。出血はないが、痛みが強いのだろう。帰った夫を見ても何も言えない。そんな妻を抱き上げ、ベッドに運んだアスタロトは眉を寄せた。
「頑張ってください、アデーレ」
心配のあまり、彼は地雷を踏んだ。
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