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第21章 海も魔族の一員です
395.仕事より優先です?!
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「ちょ! アスタロト。オレの仕事の邪魔するな」
「我が妻のことです。妊娠中なのですよ? 仕事より優先です」
思わぬセリフに、全員が固まった。驚き過ぎて反論を忘れたルシファー、変な顔で首を傾げるリリス。アデーレはぽかんと口を開いて「あらぁ」と数回繰り返した。
仕事一筋の男から出た「仕事より優先です」は、破壊力が大きかった。よろめく魔王と、大喜びで手を叩く魔王妃を放り出し、吸血鬼王は妻を連れて退場した。残された夫婦は顔を見合わせ、ヤンが震えながら呟く。
「我が君、もしや我はすでに死んでいるのでは……」
「安心しろ、まだ生きている。何しろ、オレも聞いたからな」
間違いない。明日は雪や雨ではなく、スッポンが降るに違いない。失礼な表現のルシファーだが、そのくらい驚いた。振り返ると、ずっと無言だったベルゼビュートが床に座り込んでいる。
綺麗に巻いたピンクの毛先が床に触れても気にせず、ぶつぶつと病んだ様子で「信じられない」を繰り返した。
「……今日の謁見は終わりだ。ベルゼ、いいか……何も見なかったし聞かなかった。お前は無事仕事を終えたんだ」
なぜか暗示にかけるように言い聞かされ、ベルゼビューとはよろりと立ち上がった。
「見てないし聞いてないわ。帰ります」
「そうしろ」
うっかり覚えているとバレたら、精霊女王が吸血鬼王に消される。魔王の心配を全身に受け、よろめきながらベルゼビュートも大広間を後にした。
ぐるりと見回し、他に余計なことを聞いた者がいないのを確かめ、ルシファーは歩き出す。隣をイヴとリリスを乗せたヤンが、ふらふらと続いた。自室に戻ってがっちり結界を張り、声も振動もすべて遮った途端、ルシファーは耐えきれず溢した。
「あのアスタロトが、妻の心配……仕事より優先で?!」
「アシュタはアデーレを好きだもの。でも、どうしてアデーレは来たのかしら」
アデーレがアスタロトに会いに来たことは当然と考えるリリスは、別の視点で疑問を呈した。そこが引っかかったので、変な顔をして首を傾げたらしい。
「会いたかったんじゃないのか?」
「それだけなら呼べばいいじゃない。あの様子ならすぐ飛んでくるわ」
確かにその通りだ。普段ならともかく、身重のアデーレを心底心配していた。なら、呼ぶだけでいい。体調がイマイチの状況で、自分から出向いた理由……。
「うん、わからん」
あっさりとルシファーは匙を投げた。他人の心境など推し量っても答えは出ない。ましてや考えが恐ろしい方向へ向く側近と、そんな彼を愛した押しかけ女房の心境だ。まったく想像出来なかった。
「気になるから、皆と話して」
「ちょい待て、リリス。それをしたらアスタロトに殺されるぞ」
ルーサルカ達と情報共有して、意見をもらおう。普段なら止めないが、今回は危険すぎた。真剣な夫の呼び止めに、リリスは素直にヤンの毛皮へ戻る。
「パッパ、お腹すいた」
両親の騒ぎで目を覚ましたイヴは、にこにこと食事を強請る。おそらく欲しいのは果物だろう。いつもならおやつを食べる時間を過ぎていた。
「おやつにしような、イヴ」
抱き上げて、頬擦りする。手慣れた様子で、収納から皿やカトラリーを取り出して並べた。さらにメモを数枚書くと、転送して代わりに果物を回収する。以前勝手に持ち出し、在庫が合わなくなった。料理番のイフリートに叱られ、対策としてメモを残すことにしたのだ。
果物をくるくると器用に剥いて、イヴの前に置いた皿へ置く。汚れてもいいように、専用エプロンをして食べさせた。
「ママも」
「ええ、今行くわ」
よその夫婦の話に首を突っ込むことを諦め、リリスも席に着いた。丸ごとリンゴや剥いた皮を、ヤンが平らげていく。盛り上がる扉の外で、何度もノックした侍従長のベリアルが溜め息を吐いた。
「結界を張って何を……はっ!」
もしや、安定期に入った妃殿下と仲良くしておられる? ヤンがいることを知らないベリアルは、運んだ食事を一度下げてしまった。夕食が届かないことに気づいて結界を解除したルシファーは、彼の誤解を解くのに数十分の言い訳を並べることとなった。
「我が妻のことです。妊娠中なのですよ? 仕事より優先です」
思わぬセリフに、全員が固まった。驚き過ぎて反論を忘れたルシファー、変な顔で首を傾げるリリス。アデーレはぽかんと口を開いて「あらぁ」と数回繰り返した。
仕事一筋の男から出た「仕事より優先です」は、破壊力が大きかった。よろめく魔王と、大喜びで手を叩く魔王妃を放り出し、吸血鬼王は妻を連れて退場した。残された夫婦は顔を見合わせ、ヤンが震えながら呟く。
「我が君、もしや我はすでに死んでいるのでは……」
「安心しろ、まだ生きている。何しろ、オレも聞いたからな」
間違いない。明日は雪や雨ではなく、スッポンが降るに違いない。失礼な表現のルシファーだが、そのくらい驚いた。振り返ると、ずっと無言だったベルゼビュートが床に座り込んでいる。
綺麗に巻いたピンクの毛先が床に触れても気にせず、ぶつぶつと病んだ様子で「信じられない」を繰り返した。
「……今日の謁見は終わりだ。ベルゼ、いいか……何も見なかったし聞かなかった。お前は無事仕事を終えたんだ」
なぜか暗示にかけるように言い聞かされ、ベルゼビューとはよろりと立ち上がった。
「見てないし聞いてないわ。帰ります」
「そうしろ」
うっかり覚えているとバレたら、精霊女王が吸血鬼王に消される。魔王の心配を全身に受け、よろめきながらベルゼビュートも大広間を後にした。
ぐるりと見回し、他に余計なことを聞いた者がいないのを確かめ、ルシファーは歩き出す。隣をイヴとリリスを乗せたヤンが、ふらふらと続いた。自室に戻ってがっちり結界を張り、声も振動もすべて遮った途端、ルシファーは耐えきれず溢した。
「あのアスタロトが、妻の心配……仕事より優先で?!」
「アシュタはアデーレを好きだもの。でも、どうしてアデーレは来たのかしら」
アデーレがアスタロトに会いに来たことは当然と考えるリリスは、別の視点で疑問を呈した。そこが引っかかったので、変な顔をして首を傾げたらしい。
「会いたかったんじゃないのか?」
「それだけなら呼べばいいじゃない。あの様子ならすぐ飛んでくるわ」
確かにその通りだ。普段ならともかく、身重のアデーレを心底心配していた。なら、呼ぶだけでいい。体調がイマイチの状況で、自分から出向いた理由……。
「うん、わからん」
あっさりとルシファーは匙を投げた。他人の心境など推し量っても答えは出ない。ましてや考えが恐ろしい方向へ向く側近と、そんな彼を愛した押しかけ女房の心境だ。まったく想像出来なかった。
「気になるから、皆と話して」
「ちょい待て、リリス。それをしたらアスタロトに殺されるぞ」
ルーサルカ達と情報共有して、意見をもらおう。普段なら止めないが、今回は危険すぎた。真剣な夫の呼び止めに、リリスは素直にヤンの毛皮へ戻る。
「パッパ、お腹すいた」
両親の騒ぎで目を覚ましたイヴは、にこにこと食事を強請る。おそらく欲しいのは果物だろう。いつもならおやつを食べる時間を過ぎていた。
「おやつにしような、イヴ」
抱き上げて、頬擦りする。手慣れた様子で、収納から皿やカトラリーを取り出して並べた。さらにメモを数枚書くと、転送して代わりに果物を回収する。以前勝手に持ち出し、在庫が合わなくなった。料理番のイフリートに叱られ、対策としてメモを残すことにしたのだ。
果物をくるくると器用に剥いて、イヴの前に置いた皿へ置く。汚れてもいいように、専用エプロンをして食べさせた。
「ママも」
「ええ、今行くわ」
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「結界を張って何を……はっ!」
もしや、安定期に入った妃殿下と仲良くしておられる? ヤンがいることを知らないベリアルは、運んだ食事を一度下げてしまった。夕食が届かないことに気づいて結界を解除したルシファーは、彼の誤解を解くのに数十分の言い訳を並べることとなった。
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