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第21章 海も魔族の一員です

391.すっかり忘れてましたね

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 託児所のようになった謁見の間の壇上だが、ルシファーはしっかり玉座に縛り付けられていた。物理的な意味ではなく、精神的な方向で。睨みを利かせる大公二人から目を逸らし、ルシファーは謁見に来た小人族に話しかけた。

「よく来たな。イヴのお飾りの時は助かったぞ」

 装飾品の細工を得意とする彼らは「いえいえ」とにこやかに謙遜する。そこから話は広がり、ベールが口を挟んだことで別の方向へ進んだ。というのも、一万年ごとに作られる魔王の髪飾りを追加する時期なのだ。すでに8万年分で8つ揃っている髪飾りは、王冠を嫌う魔王に合わせた特注品だった。

 前回の飾りを作ってから探し続けた大粒の宝石は、すでにベールが確保している。加工の話が盛り上がり、途中でルキフェルに注意された。

「ねえ、それは後日打ち合わせてよ。今日の予定が終わらないじゃん」

 研究職のルキフェルにしたら、貴重な時間を無駄にしたくない。王冠の話なら例年通り、ベールとアスタロトが決めればいい。そう言い放った。勇気あるルキフェルの発言で、ベールがあっさり引く。もし同じ注意をルシファーがしたら、逆に説教案件だっただろう。

 頼もしいルキフェルを軽く拝みながら、次の謁見者を招き入れた。が、ここで全員が固まる。

「……人魚?」

「足がある……」

「うっそ、歩けるの?!」

 様々な反応の中、二本の足で近づいた人魚は大きく溜め息を吐いた。疲れ切った様子に、慌てて理由を尋ねれば……ある意味予想通りの答えが返ってきた。

「海じゃないと呼吸が苦しくて」

「歩くのに力を使い果たしました」

 使者として訪れた魔族である。海の民であろうと、庇護下に入ったからには大切に遇する。ルシファーはすぐに海水を転送して丸い球体を作った。イメージは大きな金魚鉢だ。元気のない人魚二人を、転移魔法で中へ放り込んだ。

 二本の足で歩いてきた人魚二人は、一瞬で元の姿に戻った。下半身は鱗に覆われ、魚の尻尾がひらりと海水を揺らす。

「生き返りました」

「助かりましたわ」

 念話で伝えられた感謝に、ルシファーは苦笑いした。よほど大変だったらしい。

「見事な変化だったなぁ。調べてみたい」

「ルキフェル、解剖はいけませんよ」

「分かってる」

 研究熱心なルキフェルと、一応心配で注意するベールの声は、幸いにも人魚に届いていなかった。もし聞こえていたら、水の球体から飛び出す勢いで逃げただろう。

「イヴ、ほら……お魚さんよ」

 いや、魚と大雑把に表現するのはどうか。何か言うべきか迷うルシファーだが、イヴが「おしゃかな……」と舌舐めずりする気配に慌てた。食べ物と見做している!

 無言のアスタロトが結界を張り、リリスとイヴを隔離した。だが聞こえてしまった人魚達の顔色が悪い。ここは謝罪すべきだ。この辺の見極めは優れている魔王である。

「悪かった。害意はない、幼子ゆえ……以前献上された魚の味を思い出したようだ」

「あ、ああ……」

「それなら、ねぇ」

 危険はないと魔王が断言した。海王を兼ねるルシファーの保証に、二人はほっとした顔で頷く。陸の領域まで来て悪い印象を持ち帰らせるのはマズい。

「今回は何かあったのか? もしかして海辺の魔法陣が作動しなかった、とか」

 きちんと通信用の魔法陣を岩に設置したんだが。転がっても使えるはずだよな。首を傾げるルシファーへ、人魚二人は思わぬ言葉を向けた。

「謁見できるよう、爵位をください」

「海の私達も魔族です」

 きょとんとした顔で見つめるルシファー、忘れていたと顔を顰める側近達。ルキフェルはぽんと手を叩いた。

「そうだった、わ……」

 その続き「忘れてた」を、慌ててベールが手で防いだ。
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