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第21章 海も魔族の一員です
390.損なわれそうな威厳や権威
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近くの種族から、遠くて普段は中々会えない種族まで。転移魔法陣を利用して皆が駆けつけた。中には「今後は回数を増やしてもらえると助かる」と要望する種族も現れる。
「謁見を増やすのか」
一段落したところで、ルシファーが唸る。正直、書類処理より楽しいで構わないが。その間、書類処理が止まるのは問題だった。ルシファーだけでなく、四人の大公が必ず同席する。どうしても外せない用事がなければ、恒例行事となっていた。慣習を変えるのは、威厳やら権威が絡んで難しい。
「回数が増えれば、話の内容は分散しますね」
「試してから、どうするか決めてみてはいかがでしょう」
アスタロトとベールの進言に、なるほどと頷いた。年に一回しかないから、皆が纏めて大量に話を持ち込む。数回会えるなら、話を都度持ち込むので一人当たりの謁見時間が減る計算だった。
魔族は長寿なので、基本的には気が長い。変化がすぐに訪れなくても、気に病むことはなかった。数年試して、不都合があれば変更すればいい。その程度の感覚で、今年から謁見の回数を増やして対応することにした。通達は大公の仕事である。
「任せたぞ」
「お待ちください、ルシファー様」
笑顔のアスタロトに呼び止められ、思わず身構える。嫌な予感がした。
「なんだ?」
「リリス様のご対応です。明日からの謁見では、イヴ姫と一緒に……」
「魔王妃だから外す気はないぞ」
むっとした口調で遮る。魔王バージョンの自分の隣で自由すぎるが、あれがリリスの良さだ。そう主張する魔王へ、側近は笑顔のまま頷いた。
「ええ、謁見の間に居ていただくのは、魔王妃殿下の義務です」
普段つけない「殿下」の敬称が付いたことで、ルシファーは嫌な予感の的中を確信した。だが対策が取れないので、結果は同じだ。
「イヴ姫様を膝に乗せての謁見は、権威が損なわれます」
今更だろ。散々リリスを乗せて謁見してきた。そう反論したいが、余計な藪を突く気がした。黙って先を促す。
「魔王妃殿下とイヴ姫様は玉座ではなく、用意した専用スペースでお寛ぎいただく方がよろしいかと」
示された案は悪くない。裏がないか探りながらも、同意した。最終的にベルゼビュートやルキフェルも口を挟み、決定したのは、分厚い絨毯を敷いた上で二人に自由にしてもらう案だった。
アスタロトにしたら苦肉の策だ。まったく教育されていない魔王妃が、自由奔放に振る舞って魔王城の威厳を損なう前に、幼子がいるから仕方ないよね……の方向へ捻じ曲げる。これなら誰も傷つかないし、今後の施策に影響も出ないだろう。
イヴが生まれてからの謁見は、毎年リリスが欠席してきた。幼いイヴの面倒を見るのが半分、残りは彼女自身が忙しかったためだ。今後を考えるなら、魔王妃としてルシファーの隣にいるのが無難だった。
一歩間違えれば、妃を伴わないルシファーが「妻を避けている」と捉えられかねない。長寿の種族はそんな妄想を一蹴するが、短命な種族は混乱する可能性があった。人族がその顕著な例だ。前世代の犯した罪さえ覚えておらず、同じ罪を平然と繰り返した。
魔族の場合は人族と違い、周囲に長命種族がいる。彼らから話を聞けば、混乱は起きないはず。しかし、一定数存在する思い込みが激しい者が、暴走しない保証はない。事前に想定できるトラブルには、予防措置が有効だった。
「その辺は任せる」
引き離されるのでなければいい。あっさりとルシファーは許可を出した。最終的に護衛を兼ねたヤンが、分厚い絨毯で寝転び、その上に護衛対象の二人を乗せることになる。羨ましいから玉座ではなく、そちらに混じりたいとルシファーが言い出すのは、翌日の午後だった。
「謁見を増やすのか」
一段落したところで、ルシファーが唸る。正直、書類処理より楽しいで構わないが。その間、書類処理が止まるのは問題だった。ルシファーだけでなく、四人の大公が必ず同席する。どうしても外せない用事がなければ、恒例行事となっていた。慣習を変えるのは、威厳やら権威が絡んで難しい。
「回数が増えれば、話の内容は分散しますね」
「試してから、どうするか決めてみてはいかがでしょう」
アスタロトとベールの進言に、なるほどと頷いた。年に一回しかないから、皆が纏めて大量に話を持ち込む。数回会えるなら、話を都度持ち込むので一人当たりの謁見時間が減る計算だった。
魔族は長寿なので、基本的には気が長い。変化がすぐに訪れなくても、気に病むことはなかった。数年試して、不都合があれば変更すればいい。その程度の感覚で、今年から謁見の回数を増やして対応することにした。通達は大公の仕事である。
「任せたぞ」
「お待ちください、ルシファー様」
笑顔のアスタロトに呼び止められ、思わず身構える。嫌な予感がした。
「なんだ?」
「リリス様のご対応です。明日からの謁見では、イヴ姫と一緒に……」
「魔王妃だから外す気はないぞ」
むっとした口調で遮る。魔王バージョンの自分の隣で自由すぎるが、あれがリリスの良さだ。そう主張する魔王へ、側近は笑顔のまま頷いた。
「ええ、謁見の間に居ていただくのは、魔王妃殿下の義務です」
普段つけない「殿下」の敬称が付いたことで、ルシファーは嫌な予感の的中を確信した。だが対策が取れないので、結果は同じだ。
「イヴ姫様を膝に乗せての謁見は、権威が損なわれます」
今更だろ。散々リリスを乗せて謁見してきた。そう反論したいが、余計な藪を突く気がした。黙って先を促す。
「魔王妃殿下とイヴ姫様は玉座ではなく、用意した専用スペースでお寛ぎいただく方がよろしいかと」
示された案は悪くない。裏がないか探りながらも、同意した。最終的にベルゼビュートやルキフェルも口を挟み、決定したのは、分厚い絨毯を敷いた上で二人に自由にしてもらう案だった。
アスタロトにしたら苦肉の策だ。まったく教育されていない魔王妃が、自由奔放に振る舞って魔王城の威厳を損なう前に、幼子がいるから仕方ないよね……の方向へ捻じ曲げる。これなら誰も傷つかないし、今後の施策に影響も出ないだろう。
イヴが生まれてからの謁見は、毎年リリスが欠席してきた。幼いイヴの面倒を見るのが半分、残りは彼女自身が忙しかったためだ。今後を考えるなら、魔王妃としてルシファーの隣にいるのが無難だった。
一歩間違えれば、妃を伴わないルシファーが「妻を避けている」と捉えられかねない。長寿の種族はそんな妄想を一蹴するが、短命な種族は混乱する可能性があった。人族がその顕著な例だ。前世代の犯した罪さえ覚えておらず、同じ罪を平然と繰り返した。
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「その辺は任せる」
引き離されるのでなければいい。あっさりとルシファーは許可を出した。最終的に護衛を兼ねたヤンが、分厚い絨毯で寝転び、その上に護衛対象の二人を乗せることになる。羨ましいから玉座ではなく、そちらに混じりたいとルシファーが言い出すのは、翌日の午後だった。
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