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第21章 海も魔族の一員です

389.リリスのマナー教室が決まった

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 人族なら爵位順に謁見を申し出るだろう。公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵だ。しかし魔族にそんなルールはない。そもそも爵位自体、種族の人数で決まっていた。人数が多い方から公爵、少ない方は男爵だ。それ以外では、当主が特別な役目を負っていたり、長寿であることが挙げられた。

 役割で爵位が決まった例としては、サタナキア将軍の公爵が該当する。長寿で爵位を上げたのは、今は亡き神龍族のモレクだ。この辺は周囲の貴族と協議の場を設け、合議制で決まる。多数決を使わない辺りが、魔族だった。

 長寿で強さがものを言う魔族にとって、人族のように「数が多い方が強い」概念はなかった。単独であっても、魔王ルシファーが最強だ。彼が決めたら、誰も逆らうことは出来ない。独善的に振る舞い、自分勝手に決めることが出来るルシファーが話し合いに応じる。この影響が魔族に浸透していた。

 まず殴る前に話し合いを行う。解決しなければ、魔王城を挟む。が、時折暴走して殴り合いが始まった。すぐに上層部が介入するので、遺恨を残すことも少ない。その意味で、圧倒的強者の独裁者は、よい意味で抑止力だった。

「面をあげよ」

 威厳ある振る舞いを言い聞かされ、ルシファーは魔王バージョンで玉座に腰掛ける。隣に用意された妃の椅子へ、リリスはぴょんと軽い所作で飛び乗った。その所作に、アスタロトとベールが額を押さえて呻いた。彼女に妃の振る舞いを教えるのを忘れたことに気づいたのだ。

 ルシファーに魔王らしい振る舞いを仕込むのも時間がかかったが、リリスはさらに大変そうだ。魔王妃の座に就いてから教育すればいい。長寿な彼らはのんびり構えてしまった。8万年かけてルシファーを結婚させ、ほっとしたのもある。

 子どもが出来ず、苦悩する夫妻の姿を見守ってしまった。気づいたら子育てで忙しくなり、海が領土に入ったり出産ラッシュに襲われる。誰も指摘しないまま、魔王の愛し子リリスは何も教えられず今日を迎えた。

「後日、私が担当します」

 ベールが渋い顔で教育係を買って出た。苦戦するだろうと予想しながら、アスタロトが同意する。

「わかりました。任せます」

 そんなやりとりを知らず、リリスはぶらぶらと足を揺らした。裾の長いドレスを着せて正解だった、とベルゼビュートが笑う。もし膝までのワンピースだったら、足の動きが丸見えだ。いくら隣でルシファーが凄んでも、威厳もへったくれもない。

 ルシファーの膝で人形を振るイヴはご機嫌だった。見慣れた横に長いエルフ耳に、大喜びだ。いつも中庭で遊んでくれるお姉さんの一人だと思っているらしい。

 ハイエルフ特有の淡い緑の髪が、さらりと背を流れた。結ぶことがない足元まで長い髪は、常に手入れが行き届いている。エルフにとっての自慢でもあった。

 オレリアが挨拶し、近隣の情報を持ち込んだ。増えすぎたアルラウネ、リザードマンは領地が狭く大変そうだ……とか。当事者より周囲の方が、的確に状況を理解している場合も多い。

「ばいばい」

 イヴに手を振られ、大喜びのオレリアは全身で飛び上がって挨拶しながら帰った。彼女の後は、空を飛んで駆け付けたドラゴンだ。さすがに謁見の広間内は人化していた。

「久しぶりだな」

 格下げになったものの、ドラゴニア家の当主に変更はない。出産ラッシュで恥ずかしながら、跡取りの卵が3つも生まれたと報告された。いろいろあったので複雑だが、出産祝いは弾んでおく。ついでに竜人族の噂話を置いていった。レライエの出身種族だが、先祖返りが生まれたらしい。

 続いて、いつも衣装担当の女郎蜘蛛が挨拶に来た。新種の蚕を見つけたので、絹の種類が増えた話が聞ける。この辺でリリスが退屈してきた。休憩を挟むことにして、謁見の後半戦は魔王単独になる。

 眠くなったイヴの昼寝に付き合い、リリスも戻ってしまったのだ。空になった隣の席が少し寂しいが、ルシファーは久しぶりに顔を合わせる魔族との会話を楽しんだ。
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