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第21章 海も魔族の一員です

387.マリンスノーは立ち入り禁止

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 海の魔族にとって「献上品」にお返しがあったのは、初めてだった。その名の通り、献上したら終わりだ。目上の存在へ届けるお礼の品が近いだろうか。まさかお返しとして、木の実や肉が返ってくると思わなった。

 返礼品を受け取り困惑しながら戻った人魚達と、顔を見合わせる。ひとまず食べてみることにした。基本的に初めてみる食べ物が多い。どんぐりは一部の魚類のみ、キノコはタコやイカなど軟体系の魔族に好評だった。野菜は貝や海底に棲む深海系の生物に人気があり、肉はほぼすべての種族が食べられる。

 肉は一番人気が高いので、きちんと分けて各種族で頂いた。再びお礼の話が持ちあがるが、ここで亀が口を挟んだ。霊亀ほどではないが、一千年は生きた長老だ。

「繰り返しになるで、互いに負担が増える。年に一回くらいにしよう」

 その提案を届けにいくはずの人魚は、思わぬ人物を連れ帰った。視察に訪れた魔王その人である。海の暗い青の中でも、美しい純白の輝きを放つルシファーは、人懐こい笑みで挨拶をした。一緒に訪れた妻リリスと、娘イヴも機嫌がいい。育児の手が離れたイポスも護衛に加わった。

「たいそうな物を頂きまして」

「いえいえ、こちらこそ」

 のんびりした挨拶の後、交換は年一度と決まった。海は広いが、魔族の人数自体は陸の方が多い。種族の数も地上が圧倒した。その理由が魔の森にあるのは、海の生物も理解し始めている。海底に奇妙な樹木が生えてから、魔力を持つ海洋生物が増えているのだから。

「魔の森はずいぶん広がったな」

「逆に今までどうしてたのかしら」

 リリスが首を傾げた。魔の森の影響なしで、どうして魔族が存在するのか。もし死んだら、その魔力は誰が回収していたのか。もっともな疑問だ。後日リリンに確認することにして、視察を開始した。

 海王がいた頃の遺跡は以前に回ったので、今回は目的地を決めずに見て回る。深い海溝の底や遠浅の珊瑚礁、海底火山の噴火口の内側まで。今後も交流を深めることを約束し、通信方法として魔法陣をひとつ残した。海辺の岩に刻みつける。

「ここに触れて話しかければ届くから」

 魔力は触れている者から供給する。自動で魔力が使用されるので、子どもの使用は禁止した。万が一魔力不足に陥れば、成長に影響が出るからだ。今後も定期的に視察を行うことにして、ルシファーは最後に誰もいない海の奥へ転移した。

 サメや深海魚、珊瑚すらない。深くて暗い。闇の中で結界を張り、ごろんと横たわった。大きめに作られた結界の中で、リリスやイヴも寝転がる。困惑した顔のイポスも引っ張られ、一緒に並んだ。

 外から見た海の印象と違う。波もないし音もなかった。ただただ静かな場所だ。

「久しぶりに来たけど、いいな」

「前にも来たの?」

「ああ。アスタロトの説教を逃れたくて、逃げ込んだことがある」

 流石に追ってこなかったぞ。笑いながらルシファーは上を見上げた。

「そろそろだ」

 マリンスノーと呼ばれる現象が始まる。もちろん雪が降るはずがない。白いふわふわした物がゆっくりと沈んでいく。結界の周りを浮き立たせるように、積もって崩れた。

「うわぁ。素敵」

 ゆっくり流れる贅沢な時間を満喫し、四人は魔王城へ転移した。中庭は混むので城門前に降り立てば、なぜかヤンが大泣きしながら抱きついてくる。巨大フェンリルに押し倒され、ルシファーは顔中舐めまわされた。引き剥がして理由を尋ねれば、なんと三日も行方不明だったと言う。

「三日? 呼べばいいだろ」

 そんなはずないと笑い飛ばすルシファーに、駆けつけたアスタロトが溜め息を吐いた。

「呼び出しなら、大公全員が毎日試しました。どこにいたんですか」

 探査もうまくいかなかった。そう叱られ、イポスやリリスと顔を見合わせる。隠れ家に最高だ。その意見は全員一致した。

「普通に海にいたぞ」

 嘘ではない。普通かどうかは個人の判断だが、確かに海だった。無言で頷く三人の協定を、無邪気なイヴが破る。

「白いの、ふわふわぁ」

「しぃ」

 人差し指を当てて口止めを試みるルシファーだが、遅かった。問い詰められてリリスが白状し、今後そのエリアは立ち入り禁止となった。
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