上 下
386 / 530
第20章 子どもが増える理由

384.イヴは白い獣が欲しい

しおりを挟む
「帰り道で新種の動物を見つけたぞ。ヤンが踏み潰すところだった」

 そんな報告を受け、ヤンはルキフェルに連行された。詳しく事情聴取され、ルキフェルは浮かれて新種探しに向かう。どうやら自分で直接見たいらしい。

「我が君、恨みますぞ」

「踏まなかったんだからいいじゃないか」

 人身御供に差し出した自覚はあるので、ルシファーの歯切れが悪い。だがこのうっかりしたルシファーの発言で、新種の統計調査が行われることになった。各種族から情報が寄せられ、まとめたり調整した結果……思わぬ答えが提示された。

 新種魔族8、先祖返り6。これだけでも二万年単位の偉業である。新種の魔物は11種、動物に至っては区別が付かないが推定50種ほど増加した。

「ちょっと多すぎるだろ」

「人族から回収できた魔力が、それほど潤沢だったのでしょう」

 淡々とした口調でアスタロトが笑った。潤沢で豊富な魔力は、本来魔族や魔物に還元されるべきものだ。異世界から勝手に現れ、好き放題に魔力を無駄遣いした人族が消えれば、当然種族が増えたり全体数が増えるだろう。ここで、ベールがもっともな疑問を口にした。

「魔力のない動物が増えるのはなぜでしょうか」

 魔力を持たないはずの動物が、50種近くも増えた。だが彼らは魔力に影響されない。もし魔力によって増減を繰り返すなら、魔物に分類された。

「多分だけど、森が豊かになったからかな」

 戻ったルキフェルは、説明を始めた。まだ仮説段階だというが、ほぼ間違いない。

 魔族や魔物が増える原因となった魔力の飽和は、魔の森の木々にも影響を与える。森が広がり、やがて内側で魔力を循環させ始めた。木の実を多く実らせたり、木々が甘い樹液を供給したり。多様性のある生き物が現れたのは、それらの餌が豊富にあるから。

 言われてみれば、その通りだった。餌があれば動物が現れる。違う種族で子を成したのかも知れないし、森が望んで生み出した可能性もあった。どちらにしろ、魔の森の意思なら受け入れるのが魔族だ。母なる森が育んだ新しい生き物は、等しく世界に受け入れられた。

「パッパ、白いの……飼う」

「あれはダメだ。魔王城においたら魔物になってしまう」

 ぶぅ……唇を尖らせて不満を表明するイヴ。彼女は森でヤンが踏み掛けた白い動物に夢中だった。どうしても飼いたいと譲らない。ぬいぐるみや人形で誤魔化そうとしたが、無視された。よほど気に入ったらしい。

「どこにいるか分からないし、可哀想だろう?」

「かわいそくない」

 イヴにしたら、一緒に暮らしたら楽しい。美味しいご飯と温かいお部屋、ふかふかの布団もある。きっと白い動物も楽しいはず。まだ幼いだけに、自分の知る世界が全てで、完璧だと思っていた。

「きちんと教育してくださいね」

 アスタロトにちくりと釘を刺される。何か騒動を起こして大騒ぎになる前に、言い聞かせろと圧力をかけて来た。言い分は理解できるが、ちょっと気に入らないルシファーである。

「白いの!」

「イヴ、あの動物は家族がいる。無理に連れてきたら泣いてしまうぞ。イヴだってオレ達と別れるのは嫌だろう?」

「……家族、捕まえる!」

 全員捕まえちゃえばいいじゃん。とんでもない子ども理論だが、聞いたアスタロトは微笑んだ。

「誰かさんにそっくりですね」

 ベールは深く溜め息を吐き、「魔王種はバカばかりですか」と嘆く。いい加減失礼だぞ。ルシファーが口を開く前に、リリスが腰に手を当てて抗議した。

「親子なんだから、似てて当たり前じゃない」

 いや、抗議ではなく同意だった。ぷっと吹き出したアスタロトに続き、ベールも声を立てて笑う。あまりに珍しい光景に「天気が心配だ」と空を確認するルシファーがいた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】愛猫ともふもふ異世界で愛玩される

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
状況不明のまま、見知らぬ草原へ放り出された私。幸いにして可愛い三匹の愛猫は無事だった。動物病院へ向かったはずなのに? そんな疑問を抱えながら、見つけた人影は二本足の熊で……。 食われる?! 固まった私に、熊は流暢な日本語で話しかけてきた。 「あなた……毛皮をどうしたの?」 「そういうあなたこそ、熊なのに立ってるじゃない」 思わず切り返した私は、彼女に気に入られたらしい。熊に保護され、狼と知り合い、豹に惚れられる。異世界転生は理解したけど、私以外が全部動物の世界だなんて……!? もふもふしまくりの異世界で、非力な私は愛玩動物のように愛されて幸せになります。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/09/21……完結 2023/07/17……タイトル変更 2023/07/16……小説家になろう 転生/転移 ファンタジー日間 43位 2023/07/15……アルファポリス HOT女性向け 59位 2023/07/15……エブリスタ トレンド1位 2023/07/14……連載開始

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。 魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。 そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。 「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」 唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。 「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」 シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。 これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。

群青雨色紫伝 ー東雲理音の異世界日記ー

MIRICO
ファンタジー
東雲理音は天文部の活動で、とある山奥へと旅行に行った。 見たことのない星空の中、予定のない流星を目にしていると、理音はめまいに倒れてしまう。 気付いた時、目の前にいたのは、織姫と彦星のようなコスプレをした男女二人。 おかしいと思いつつも外に出た理音が見たのは、空に浮かぶ二つの月だった。 言葉の通じない人々や、美麗な男フォーエンを前にして、理音はそこが別の世界だと気付く。 帰り道もわからないまま、広々とした庭が面した建物に閉じ込められながらも、悪くもない待遇に理音は安心するが、それが何のために行われているのかわからなかった。 言葉は理解できないけれど、意思の疎通を図れるフォーエンに教えられながらも、理音は少しずつ自分の状況を受け入れていく。 皇帝であるフォーエンの隣に座して、理音はいつしかフォーエンの役に立てればと思い始めていた。 どこにいても、フォーエンのために何をすべきか考えながら、理音は動き出す。 小説家になろう様に掲載済みです。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...